第5話
カラオケはバカみたいに面白かった。
アズは仁科くんと毎日のように連絡を取り合って、今じゃ授業中でもかまわず頻繁にラインしているらしい。
どうやってそこまで持っていったのか、なんて突っ込んだ話にまでは至らなくて、ただただ興奮して声が高くなった。
カノコはそれで少し元気になったらしく、負け惜しみにしか聞こえない演説を、マイクを大音量にして長々と繰り広げた。
「わっかんないのよねぇ、なんでそもそも矢代が良かったのか。愛想ないしさ、背が高いわけでもないし、めっちゃバスケができるわけでもないし? なんなら山部のがイケメンじゃん? あたしたち目が節穴なんじゃないかって思うわけ。あ、でもごめん、仁科くんはちょっと背が低すぎてあたしは無理なんだけど——アズはいいよね、ちっこいから釣り合い取れててベストな感じ。でもさ、なんだかわかんないけど、矢代が近くにいると笑ってて幸せなの」
頭がズキズキした。
2人の勇気は、私にはできないこと。
なのに、矢代の近くに今いるのは私で、身動きが取れなかった。
沢畑くんが休んだせいで、今日と明日の日直が前後して矢代と一緒だってことをとうとう言い出せなかった。
ただでさえ同じ時間を過ごすことができる、という特別待遇なのに、もう視線さえ合わすことができない2人に追い込まれているみたい。
そりゃ勝手にそう圧を感じてるだけだってわかってるけど。
アズはもうまっしぐらに次の恋に向かうと宣言して、だけどまだ心のどこかに矢代が引っかかってるって知っている。
そういうアズとカノコの存在が、私の情けないほどしかない勇気をさらにさらにすり減らす。
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