ゲームその4 『白雪姫と毒リンゴ』第8話
黒魔女の声がひびきわたるとともに、黒い光はじょじょに収まり、大臣も身をふるわせながらもようやく立ち上がりました。ワオンもルージュも、大臣を非難するかのようににらみつけています。
「……いったい、なにをしていたのかしら?」
ルージュに聞かれても、大臣はなにも答えませんでした。ただ、ドカッと乱暴にいすにすわって、ルージュとワオンに声をかけます。
「いいからすわりたまえ。あとはサイコロをふるだけだ」
「サイコロをふるだけだって、あなた、絶対なにかしたでしょ? 黒魔女にどんな魔法を授けられたのよ!」
声を荒げるルージュでしたが、大臣は努めて冷静に切り返します。
「いいからすわるのだ。……それとも永遠にそこで突っ立っておくか?」
「くっ……!」
険しい顔のまま、ルージュはもう一度大臣をにらみつけましたが、やがてなにもいわずにいすに戻ってすわりました。ワオンもしぶしぶすわります。
「さぁ、それじゃあサイコロをふろうじゃないか。……最後のサイコロをな」
自信満々な様子で、大臣はサイコロを指でいじりながら、ゆっくりと魔力を注入していきました。だんだんとサイコロが熱を持ち、そして十分に熱くなったところで転がします。出た目は1でした。
「さぁ、それじゃあお嬢さん、君の番だぞ」
すでに勝利を確信しているのでしょうか? 余裕しゃくしゃくといった様子で、ルドルフがルージュにサイコロを渡します。ルージュは射抜くような視線を大臣に送りましたが、やがて軽く首をふって、それからサイコロをふったのです。やはり出た目は1でした。
――くくく、これであとは、あのオオカミが親になればすべてが終わる。黒魔女様は復活し、わしも永遠の命……ではないが、まぁいい。黒魔女など、わしの口車でうまくだまして、必ずや永遠の命を、さらにはやつの魔力も手に入れて、わしがこの国の、世界の王となるのじゃ! さぁ、ふるがいい、オオカミめ! そしてわしの踏み台となるのだ――
ルージュからサイコロを渡されて、ワオンは祈るようにサイコロをにぎりしめました。ルージュも静かにその様子を見守っています。そして、とうとうワオンがテーブルにサイコロを転がしたのです。サイコロがキラキラと輝きを放ちます。
――よし、いいぞ! さぁ、わしを高みへ導く、最高の目を出すのだ――
そのままサイコロは転がっていき、そうしてついに目が出ました。当然6です。大臣はグッとガッツポーズしてからテーブルをバンバンッとたたきます。
「やったっ! やった、やったぞ! 6だ、6を出しおった! バカめ、バカめバカめバカめ! さぁ、オオカミ、さっさとめくるがいい! そして黒魔女様の生贄となるのだ!」
まるで小さな子供のように、はしゃいで喜ぶ大臣を、ルージュはおかしそうに見ています。その落ち着きように、大臣はわずかにまゆをひそめました。
「……なんだ、なぜそんな落ち着いていられるのだ? お前も自分の手札から、わかっているだろう? わしにはもう小人カードしか残っていないと。そしてお前も小人カード3枚のセットだったはずだ。このゲームが流れるんだぞ、それなのになぜ……」
「うふふ、すぐにわかるわ。でも、やっぱり気づいてなかったのね。さっき黒魔女にお願いしてたのって、サイコロの目を操る魔法でしょ?」
ルージュにいい当てられて、ルドルフ大臣はわずかに顔をしかめましたが、すぐににやりと笑ってうなずきます。
「ふん、別に答える必要もないが、どうせお前たちはもう生贄になるんだから、冥途の土産に教えてやろう。その通りだ。黒魔女様から授かった魔法で、そこのオオカミが親になるようにサイコロの目を操ったのだ。ふん、今さらずるいとかののしっても遅いぞ。すでにサイコロは投げられたのだからな。……まぁ、結局のところお前たちは、生贄になる以外に道はなかったということだ。……なんだ、その顔は?」
再びルドルフ大臣がしかめっつらになります。ルージュは少しも顔色を変えずに、すずしげな笑みを浮かべていたのです。いらだたしげににらむ大臣に、ルージュはほほえみます。
「うふふ、すぐにわかるっていったでしょ。さぁ、ワオンさん、カードをめくってちょうだい」
ワオンもこくりとしてから、まずは大臣のカードをめくります。当然小人カードです。そして、ルージュのカードに手をかけ、にやっと笑ったのです。
「大臣め、覚悟しろよ!」
そしてカードを開き、大臣は目を疑ったのです。口をぱっくり開けて、目が飛び出んばかりに見開かれます。
「な……ななな、な、な、な、なぜ、なぜなぜなぜ、なぜだ、なぜなんだぁっ!」
大臣の絶叫がひびきわたるとともに、開かれた白雪姫カードがキラキラと光り出したのです。銀の光に包まれたカードが、突然宙に浮かびあがります。「わっ」と声をあげるワオンの目の前で、光に包まれたカードの中から、白雪姫その人が現れたのです。光り輝く白い肌は、まさに雪の結晶でできているかのようです。白雪姫は黒魔女の像に向かって優雅に歩み寄ります。
『ぬぅぅ、貴様は白雪姫……! 一度ならず二度までも、わらわの邪魔をしようというのか!』
黒魔女の怒りと憎しみに満ちた声が、封印の間にひびきわたります。ですが、もちろんその声はワオンとルージュには届きません。白雪姫も少しも恐れた様子を見せずに、じっと黒魔女の像を見すえながら近づき、そして静かに指を鳴らしたのです。
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