ゲームその4 『白雪姫と毒リンゴ』第1話

「ねぇ、ちょっと、ここから出してよ! どうしてこんなひどいことするのよ!」


 無理やり牢屋に押しこまれた、赤くて大きなリボンを頭に結んだ女の子が、手をふりあげながら兵士に文句をいいます。


「ルージュちゃん、落ち着いてよ、こんなところで騒いでもどうしようもないよ」


 先に牢屋に入れられていた、オオカミのワオンが、リボンの女の子、ルージュをなだめます。ルージュはむぅっとワオンをにらみつけます。


「もうっ、ワオンさんったら、なにをのんきにいってるのよ! わたしたち、牢屋に入れられちゃってるのよ! ボドゲカフェでおしゃべりしてただけなのに!」


 ルージュがキッと兵士たちをにらみつけました。あどけない顔が怒りにゆがみ、さすがの兵士たちもうっとあとずさります。


「ボドゲカフェか……。最近おとぎの森にできたという、怪しげな店だな?」


 兵士たちのうしろから、青と黒の豪華な制服を着た、ひげ面の男が話しかけてきました。ルージュの顔が嫌悪感でくもります。


「ルドルフ大臣が、どうしてこんなところに?」


 その人は、おとぎの森を治めている、おとぎ連合国のルドルフ大臣だったのです。ワオンも驚いたように目をぱちくりさせています。


「ふん、それについてはあとで説明する。……おい、お前たち、少しばかり席を外してくれたまえ」

「は、しかし、それは……」


 とまどう兵士たちに、ルドルフ大臣は冷たい視線を向けました。いらだたしげに再び口を開きます。


「二度いわせるつもりかな?」

「ハッ……、申し訳ございません。かしこまりました」


 兵士たちが牢屋から出ていくと、ルドルフ大臣はにぃっと口のはしをゆがめて、それからなにを思ったのか、鉄格子の鍵を開けたのです。いぶかしげな顔をしているルージュに、ルドルフ大臣はクククと笑います。


「どうした、不満か? こうして外に出してやろうというのに」

「……わたしたちを、どうしようというの?」


 警戒するように自分の胸をぎゅっと抱きしめて、ルージュがルドルフ大臣をにらみつけます。ルドルフ大臣はそれには答えず、二人に牢屋から出るように手招きしたのです。


「あぁ、わかっていると思うが、少しでも逃げるそぶりを見せたら斬り捨てるからな」


 腰に下げていた剣に手をやり、ルドルフ大臣が低い声でいいました。ルージュはふんっと鼻を鳴らします。


「そもそもわたしたち、なんにも悪いことしてないわ。それなのにどうして牢屋なんかに入れられないといけないのよ?」

「お前たちにかけられている嫌疑は、反逆罪だ。……お前たちが、黒魔女の仲間だというタレコミがあったのだ。黒魔女が、オオカミを手下として好んでいたことは知っているだろう? そして、お前もオオカミ……。つまり、黒魔女の仲間ではないかと、そう疑われているのだ」

「そんな、違うよ! おいらは黒魔女なんかの仲間じゃないよ!」


 思わず反論するワオンでしたが、ルドルフ大臣がこれ見よがしに剣の柄に手をかけます。


「とにかくそういう嫌疑がかけられている。だが、わしはお前たちが悪いやつではないと、そう信じておるのだ。だから女王陛下に申し出たのだよ。この二人が黒魔女の仲間じゃないと証明するために、黒魔女封印の間にて、黒魔女封印の儀式を行います、とな」


 ワオンとルージュは顔を見合わせました。おとぎ連合国の女王は、白雪姫の末裔だといわれています。遠い昔に、七人の小人とともに、黒魔女と戦ったのだそうです。それを知っているからこそ、おとぎの森の人たちは女王陛下のことを敬愛しているし、同時に黒魔女をすごく恐れているのです。


「ただでさえお前たちは、魔女の末裔とも仲良くしているだろう?」


 意地の悪い笑顔を浮かべるルドルフ大臣に、ルージュが冷たい視線を投げつけました。


「……グレーテちゃんのことをいっているのかしら?」


 グレーテは、『ワオンのおとぎボドゲカフェ』によく遊びにくる、小さな女の子でした。ヘンゼルとグレーテルの子孫で、強い魔力を持っています。


「でも、グレーテちゃんは魔女であって、黒魔女ではないわ! それとも、大臣ともあろう人が、魔女と黒魔女の違いも分からないのかしら?」


 それまで余裕ぶった表情をしていたルドルフ大臣が、一変してギリギリと歯ぎしりして、ものすごいしかめっつらに変わったのです。


「口の利きかたに気をつけろよ、小娘が! 大臣であるわしが、それくらい知らぬとでも思ったのか! 魔女の中でも、暗黒の魔法を使う悪い魔女のことを黒魔女というのだ。魔力を持った者というのは、おとぎ連合国では珍しくないからな」

「それじゃあグレーテちゃんと仲良くしてたっていいじゃないの! それなのに、わたしたちを黒魔女の仲間だなんて勘違いして……!」


 ルージュの迫力に押されたのか、ルドルフ大臣はコホンッとせきばらいしてから、二人についてくるようにあごをしゃくりました。


「ともかくついてくるがいい。……お前たちが黒魔女の仲間じゃないのなら、自ら証明してもらうしかない。黒魔女封印の儀式でな」

「さっきからいってるけど、その黒魔女封印の儀式っていったいなんなのよ?」


 ルージュに問いただされて、ルドルフ大臣はわずかに姿勢を正しました。


「いいだろう。封印の間に行くまでに時間がある。向こうに着いたら、話もできないからな。それまでにルールを説明しておこうか」


 再びワオンとルージュは顔を見合わせました。

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