ゲームその3 『お菓子の家を作ろう』第6話

「うおおっ! やったぞブラン、すげぇな!」


 なんとかバランスを崩しながらも、ブランはチーズケーキのピースを抜き取ることができたのです。これにはハンスだけでなく、ルージュもグレーテも、それにもちろんワオンも大盛り上がりです。


「すごいわね、ブラン! 絶対崩れるって思ったのに、やるじゃないの!」

「ブランお兄ちゃん、かっこいい!」


 ルージュとグレーテに口々にほめられて、ブランはもう有頂天です。えへんと胸をそらします。


「ま、ざっとこんなもんさ。ぼくにかかればぬすっと動物カードなんて、楽勝だよ」

「いやでも、ホントにすごいね。この様子じゃ、以前ブラン君がトップかな?」


 ワオンの言葉に、みんなそれぞれのお菓子の家に視線を移します。確かにパズルピースの多さでいえば、ブランが一番多い気がします。


「うふふ、でもまだ勝負はこれからよ。さ、次はわたしね」


 優雅にほほえむルージュでしたが、次のカードを見て「あら」と思わず声をあげてしまいました。


「おっ、ルージュもぬすっと動物カードじゃないか! しかもこの羊、キャラメルを毛の中にいっぱい隠してるぞ。1つ、2つ、3つ……4つだ!」


 ブランのいう通り、ルージュのカードにはにっこりしている羊の絵が描かれていたのです。羊のふわふわの毛には、ところどころキャラメルがはさまっていたのでした。


「あちゃー、ルージュちゃん、キャラメル4つだけど大丈夫かな?」


 ワオンに聞かれても、ルージュはおすまし顔で笑っているだけでした。ブランが首をかしげます。


「なんだよ、ルージュったら、ずいぶん余裕じゃないか。確かキャラメルって、一番最初にルージュが引いたカードだろ? それなら壁の一番下に使われているから、外すの難しいんじゃ……あっ!」


 ルージュのお菓子の家をじろじろ見ていたブランは、ハッとしてルージュの顔を見つめたのです。ルージュは笑ってうなずきました。


「そうよ、わたしはぬすっと動物カードが出たときのために、お菓子をばらばらに配置してたの。だからほら、キャラメルも……」


 ルージュはうふふと得意げにブランを見てから、まだ上にパズルピースが乗せられていないキャラメルのピースを一つ外しました。ブランがあわあわしているうちに、ルージュはすっすっと、簡単にキャラメルのピースを外していき、結局少しも崩すことなく、4枚全部を取り終わったのです。これにはブランだけではなく、みんな口をあんぐり開けてしまっています。


「さ、次はハンス君の番でしょ? まだまだ始まったばかりだし、勝負はわからないわよ」


 すました顔のルージュに、グレーテがあこがれのまなざしを向けています。


「ルージュお姉ちゃん、カッコイイ!」

「うふふ、でも、これでわたしもピースは減っちゃったから、今一番有利なのは、グレーテちゃんかもよ」


 ルージュにいわれて、グレーテのりんご色のほおが、さらに色づき、コクコクッと何度も頭をふるのでした。




「……やったぁっ! 『アイスクリーム・3枚』だ! これで、屋根も完成だ!」


 ワオンから配られたカードを見て、グレーテが歓声をあげて手をたたきます。他のみんなからも、パチパチと拍手が巻き起こります。


「さ、それじゃあグレーテちゃん、最後のパズルピースをはめこんで、お菓子の家を完成させてね」


 ワオンに優しくうながされると、ハンスがにやにやしながらグレーテをからかいます。


「最後だからって油断してると、お兄ちゃんみたいに屋根が崩れちゃうかもしれないぞ」

「もうっ、お兄ちゃんのいじわる! 大丈夫だもん、気をつけるもん!」


 ぷくっとりんご色のほっぺたをふくらませると、グレーテはアイスクリームの絵が描かれたピースを探して、それを注意深く開いている場所へはめこんでいきます。


「ストロベリーアイスに……、バニラアイス……、そして、チョコレートアイス……。できた!」


 最後のチョコレートアイスのピースをはめこむと、グレーテはいすからおりて、その場で飛びはねて大喜びです。これにはみんなも思わず笑ってしまいました。ですが、グレーテは喜びのあまり、両手に赤い光を宿らせてしまったのです。


「よくやったな、グレーテ……って、あっ、待て!」


 ハンスが青い顔でグレーテを止めようとしましたが、どうやら遅すぎたようです。両手の赤い光が、グレーテの作ったお菓子の家を包みこみ、そして……。


「わっ、え、なに、なにが起きたんだ?」


 そして、赤い光に包まれたお菓子の家は、一気に手のひらサイズからテーブルいっぱいにまでふくれあがったのです。ポンポンポポンッと、はじけるような音がして、みんな思わず目をおおいます。そして、ようやく音が止んだので、恐る恐る目を開けてみると……。


「うわわっ、えっ、これ、お菓子の家?」


 そこにあったのは、先ほどグレーテが完成させた、お菓子の家のピースとまったく同じ、本物のお菓子の家だったのです。壁にはビスケットやクッキー、アップルパイやラズベリーパイなど、がっしりしたお菓子が使われています。屋根にはケーキとアイスクリームがたくさんで、ところどころに板チョコ、エクレア、キャラメルが見えます。


「ほら、ここ見て、窓を開けると……」


 驚きのあまり固まっているみんなに、グレーテが声をかけます。白く薄いレモンキャンディの窓を開けて、お菓子の家の中身を見せたのです。


「わわっ、すごい、マカロンのいすに、キャンディでできたベッドも見えるよ! マシュマロのふわふわまくらに、クレープのタオルケットが、すごい気持ちよさそう!」


 窓をのぞきこんで、ワオンがまん丸い目を輝かせます。ルージュとブラン、ハンスも、急いでお菓子の家の中身を観察します。


「すごい、内装もとってもかわいらしいわ」

「ホントだ、それに土台のチョコレートもしっかりしてて、ぼくもこんなお菓子の家に住んでみたい!」


 お菓子の家の中を、そして外を見てまわるルージュとブランでしたが、ハンスだけは少し心配そうな顔をしています。交互にワオンとグレーテを見ていたのです。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「いや、確かにすごいけど……。でもさ、グレーテ、せっかくのボードゲームをお菓子の家に変えちゃったらダメじゃないか」


 ハンスの言葉に、ワイワイいっていたルージュたちも「あっ」と声をあげてしまいました。ですが、ワオンはまったく気にした様子もなく、にこりとハンスに笑いかけます。


「そんな、気にしないでよ。おいらはむしろ、この目で魔法が見れたことがすっごくうれしくって、今とってもワクワクしてるんだ。だからそんなの気にしないよ」

「でも……」


 それでもうつむくハンスに、グレーテはにぱっといたずらっぽい笑顔を見せたのです。


「お兄ちゃん、あたしまたこのゲームしてみたい! だからね、ゲームはダメになってないよ。ほら」


 グレーテがいすの上によじのぼって、屋根の部分のエクレアを手で取り、パクッとほおばったのです。ぽかんとしているハンスに、グレーテがエクレアの残っている部分を見せつけたのです。


「あっ!」


 なんとそこには、パズルのピースがうめこまれていたのです。もちろん絵柄はエクレアでした。


「そうか、パズルのピースを変化させたんじゃなかったのか」


 ほっとしたようにハンスが笑うと、お腹がグーッとなりました。みんながあははと笑います。


「さ、それじゃあせっかくだし、みんなでお菓子の家を食べちゃおうか。あ、でも、食べるときは気をつけてね。パズルのピースを飲みこまないようにしないとだよ」


 ワオンの言葉に、みんな「はーい」と返事するのでした。

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