ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第4話
「やあ、お待たせ。それじゃあゲームと、ひとまず紅茶とイチゴのショートケーキを用意したよ」
ゲームの箱だけでなく、人数分のケーキと紅茶を用意していたワオンを見て、ルージュがあきれたように小声でツッコみました。
「……ワオンさん、それじゃあどう見ても、良いオオカミさんみたいじゃないの」
ルージュのツッコミに、ワオンはハッとして、それからあわあわいいながら言い訳を始めたのです。
「あ、そ、その、これは、あの、そうだ! あれだよ、ほら、ケーキを食べさせることで、お前たちを太らせようという作戦だ! だから存分にケーキと紅茶を楽しむといいぞ、ガッハッハ」
ワオンのダメダメな言い訳を聞いて、ルージュははぁっと小さくため息をつきました。ですが、ブーリンはガタガタふるえて、泣きそうな声でワオンに抗議したのです。
「なんてひどいやつだ! それじゃあこのケーキと紅茶にも、毒かなんかしこんだな!」
「ええっ? いや、そんなひどいことしないよ!」
これにはワオンもびっくりであわててブンブン首をふります。見かねたプリンが、パクッと一口ショートケーキを食べたのです。
「うん、おいしい。大丈夫だよ、ブーリン兄ちゃん。それにウリリンも。このケーキはすっごくおいしいよ。紅茶も飲んでも大丈夫だったし、毒なんか入ってないよ」
「えっ、あ、ああ、そうか……。まぁ、プリンがいうなら、そうなのかな」
もともとおいしいケーキには目がないブーリンです。プリンがおいしそうに食べているのを見て、とうとう一口、パクッと食いついたのでした。とたんにまん丸い目がきらきらと輝きます。
「うわっ、うまい! すげぇ甘くて、スポンジはふわふわで、クリームからはほのかにイチゴの香りがするぞ! こりゃうめぇや!」
「ホントに? よかった、うれしいなぁ。生クリームにイチゴシロップを混ぜたんだよ。もちろんイチゴもたっぷり使ってるから、イチゴ好きにはたまらないと思うよ」
ワオンの言葉通り、ブーリンはうんうんうなずきながら、あっという間にケーキを平らげてしまいました。それを見てニコニコしているワオンに、ルージュのツッコミが飛んできます。
「それで、ルールの説明はしないのかしら?」
「あっ……。よ、よし、それじゃあルールを説明しよう、ガッハッハ」
またしても意地悪な笑い声をつけくわえるワオンを、ルージュははぁっとため息まじりに見るのでした。
「それじゃあお待ちかね、このゲーム、『子ブタ村と目覚めるオオカミ』について説明をしよう。といってもそこまで難しいゲームじゃないよ。やることは単純で、君たち子ブタ村のプレイヤーは、どんどん家を作っていけばいいんだよ」
そういってワオンは、箱の中に入っていた赤、青、黄色の、いろんな家の形をしたコマを指さしました。
「それで、一体どんなゲームかっていうと、一言でいえば陣取りゲームみたいなものさ。この三角形のタイルがあるだろう? これ、36個あるんだけど、これをつなげて、正三角形のフィールドを作るんだ。そしてそこにどんどん家を建てていって、一番多く家を作った人が勝ちだよ」
「なるほどな、そういうゲームか。それならわしは得意だぞ。なんせわしは仕事が早くて、どんどん工事をこなせるからな」
ドンッと胸をたたいて、誇らしげに笑うブーリンを、ウリリンはジトッとした目で見つめました。ですが、やがてウリリンがワオンに質問します。
「そのタイル、裏は全部黒だけど、表はいろいろ絵が描かれてるね。その絵はいったいどういう意味を持っているの?」
「いい質問だね。そうだよ、表には三種類の絵が描かれているんだ。それぞれ、平地、森、山の絵になっているよ。とりあえずまずはフィールドを作るところから始めようか」
ワオンが三角形のタイルを全部うらがえして、それからガシャガシャと混ぜていきました。ある程度混ぜ終わったら、まるでタイルを並べていくように、辺と辺をあわせて重ねていきます。そしてついに、大きな黒い正三角形を作ったのです。
「裏側のままだけど、このままゲームを始めるの?」
ウリリンの質問に、ワオンは首を横にふりました。
「いいや、これはまだ準備の段階だよ。さっきシャッフルしたから、どこに平地、森、山があるかわからないよね。それじゃあ今度は、みんなでタイルをひっくり返して表にしていこう」
ワオンの言葉にうなずいて、みんなでタイルを表側にひっくり返していきます。さっきまでは黒一色の、なんだかさびしい三角形のフィールドだったのが、全部ひっくり返したあとには、わらの絵が描かれた平地に、木々の緑が鮮やかな森、そしてごつごつした山の絵でいっぱいになったのです。どの絵もそれぞれちょっとずつ違っているので、本当にこの正三角形のフィールドに、新しい世界地図が描かれているような気分になるのでした。
「平地が一番多いみたいだね。森と山は……同じ枚数かな?」
じっと冷静に観察していたウリリンが、顔をあげてワオンに質問しました。ワオンは二ッと笑ってうなずきます。
「そうだよ、よく気がついたね。フィールドを彩るタイルは、平地が18枚あるよ。タイルは全部で36枚だから、つまり半分が平地ってことだ。そして森と山はそれぞれ9枚ずつ。どっちも平地の半分だね」
ワオンの言葉にうなずいて、ウリリンはさらにじっとフィールドを見ていきます。三種類の地形が、均等に配置されていると思ったら、少し偏りができているみたいです。ウリリンから見て手前側に、山と平地がたくさんあり、ぽつんと森がはじっこにあります。ですが、それ以外には、平地と森がまだらにできていて、たまに山があるといった様子です。ウリリンは考えこむようにブゥッと鳴きました。
「さぁ、それじゃあ次に、建てることができる家について説明するね。まずは君たちに、この『家トークン』をそれぞれ渡しておくよ」
ワオンは三人に、家の形をした小さなコマを渡していきました。ブーリンは赤、プリンは黄色、ウリリンは青のコマを受けとります。コマをもらうと、やっぱりウリリンはじっとそれを観察して、それからまたしてもワオンに質問したのです。
「家も三種類あるね。フィールドのタイルも三種類だったから、フィールドによって建てることができる家が決まっているってことかな?」
ウリリンの言葉を聞いて、ワオンは目をぱちくりさせました。
「驚いたなぁ、よくわかったね。そうだよ、この家トークンは、三種類、わらの家、木の家、レンガの家がそれぞれあるよ。そしてウリリン君がいってくれたように、それぞれ、平地にはわらの家、森には木の家、山にはレンガの家が建てられるんだ」
ワオンが感心したように笑うのを見て、ブーリンがブーッと不満そうに鳴きました。
「説明は終わりだろ、それじゃあ早くゲームをしようぜ」
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