毒舌Vtuber女子大生ツン崎さんと100人の美少女Vtuberの婚約発表から逃げる方法
夜野 舞斗
第1章「ツン崎さんは近づきたい」
第1話「激甘Vtuberカフェラテ子は誰にでも優しい」
学生寮は完全防音設備付きで窓を閉めると、何も聞こえなくなる。深夜なら最も。一室に一人、ベッドの上で横になる僕へ襲ってくるのは寂しさと今日一日の後悔だ。
今日受けた大学の講義でも良い発表はできず、気まずい空気になった。テストでは大苦戦。結果は目に見えていた。そんな悩みを吐ける友人がいる訳でもなく、僕は一人で抱え込む。
ただ、唯一僕達を褒めたたえてくれる女神様がいる。真っ暗な部屋の中、スマートフォンの画面に映し出された、色白で茶髪のロングヘア―、柔らかい目付きをしたアニメ画風の少女。彼女こそが我々孤独の救世主、カフェラテ子さんだ。
『今日も社会人、学生、何もしてない人も息苦しい世の中で過ごす一日、お疲れ様です! 世の中、一日一日生きるのが大変なんです。この一日、生き残るだけでも当たり前のことじゃないんですから、貴方は凄いんですよ! 自分は凄い。生きてて凄いって、誇ってくださいね! わたしは憧れてますよ。さて、今日も寝るまでわたし、カフェラテ子のお喋り配信を始めます!』
彼女は最近、この配信業界でやってきて爆発的に人気が伸びてきた子。普通のVtuberの女の子と何が違うか、相違点を挙げればきりがない。
その中の一つが誰にでも優しく接してくれること。それだけでは他のVtuberと同じように聞こえるかも、だ。完全に違う点としたら、彼女は誰とでも交流すると言うこと。
ファンの声に関して全員に応じている。ファンでなくとも、たまたま訪れた視聴者に関しても挨拶は欠かさず、何をしても反応してくれる。
今日も僕が
すると、何分かした後に必ず返事が穏やかな声でやってくるのだ。
『わたしの
しかも、僕が大学生ということまでも知ってくれている。視聴者として、見ていてこれ以上嬉しいことはないような気がした。
本当に耳が幸せ。
イヤホンで聞きたいものではあるが、残念ながら壊れている。僕がうっかり踏んで壊してしまったのだ。この失敗が後でとんでもない事実を知るきっかけになることは置いといて。
そんな体験談を僕がコメント欄で語っても、彼女は朗らかに笑ってくれる。
『物は壊れてしまいます。それを悔やむということは、きっとそれだけ好きだったんですね。今度は同じことを繰り返さないように。長谷部さんなら、大丈夫ですよ!』
何かを共有してくれる彼女が嬉しかった。他の人のコメントに反応して、大袈裟に「そうなんですかっ!?」、「むむっ! 大変な事があったんですね!」と話すのを聞いているのも微笑ましい。
そして、そんな彼女は特に頑張る人に対しては優しい。
長文のメッセージは必ずと言って率先して読んでくれる。理由としては文字を打つのに頑張っているから、らしい。彼女らしい素敵な理由だ。
『皆さんが頑張ってらっしゃるのはわたしは知っております。わたしの言葉やお手伝い、アドバイスが少しでも何かの力になれば!』
そんな彼女が今日あったことを話していく。時々、彼女は日常風景を話すのだ。
『本当に世間の人達は優しくて、好きになっちゃいますよ。今日、燃えるゴミの日だったんです。毎日重いゴミ袋をせっせと。距離もちょっとありますし、大変なんですよね。これが』
そんな日常風景にも共感性があって、すぐに聞き手が話の中へと入っていける。特にゴミの日のくだり。今日は僕も燃えるゴミを持って、学生寮の外へと向かっていた。ただ、そこで問題が起きたのだ。
そんな僕の話はどうでも良いとして、彼女の話を聞いていこう。
『ただ、ゴミ捨て場ってやっぱりカラスさんって集まりますよね。捨てに行こうとすると、かぁかぁって鳴いてきて、すぐさま襲い掛かってくるなんてこともあって、ちょっと怖かったんです。あの子達、とっても賢いって話も聞きますし、あの手この手でこちらのゴミを奪ってこようとしたのです』
あるあるだ。分かる。今日もうちのゴミ捨て場に酷い位、多くのカラスがたむろしていた。こいつら、コンビニの前に集まってる不良集団かって思える位に。
『でも、カラスを追い払うのってかわいそうじゃないですか……彼等も空腹で
本当に優しいと思う。カラスのことまで心配するなんて。うちの隣人にも言い聞かせてやりたい。隣人はずっとカラスを細い眼で見つめ、威圧し続けているのだ。まるでカラスを鍋料理にしてやろうかと言っているような視線。横から見てる僕まで震え上がりそうになった。
『でも、
何ということだ。何処の世界でも少女を守れる紳士がいるのか。僕も同じ場にいたら、良かったのに。
今朝、カラスに対し僕がやったのはDVDのディスクをカラスへと放り投げただけ。そのディスクも間違えて燃えるゴミの日に出しそうになったことに気が付き、出そうとしただけ。そこにカラスが集まったのだ。ついでに僕もゴミだと思われたのか、カラスに何回か
『その後はちゃんと掃除までしてました。他の人がやりたがらないことをやる。汚い綺麗関係なく、誰も見ていなかったとしても慈善をする。それは本当に凄いこと。いえいえ。ただ凄いは違いますね。そんな人とわたし、結婚したい位です!』
「いいなぁ!」
本当に彼女が話す男の人が羨ましい今日この頃。僕はつい悲しいかな。ゴミが散らかっていると掃除をしたくなる性分。学生時代からクラスメイトに掃除当番として、
その彼は僕とは違い、本当に慈善をすることが快楽なのだろう。ああ、カフェラテ子さんもいいけれど、その人と僕が結婚したいよ。マジで。
僕がそんなことを考えていると、彼女はまた別の話題を出した。
『ああ……優しい人と付き合いたいです』
そんなところに「ななななな」とおかしな名が付いた人が「どんな人と?」とコメントした。彼女は瞬時に応えてみせた。
『そうですね。
「えっ?」
すぐにコメント欄が大騒ぎになる。「そいつ誰?」とか。「自分が愛助になろう」だとか。僕は目をパチクリしながら、画面を見ていた。一瞬で彼女の配信が終わってしまう。
画面が暗くなっても、ずっと呆気に取られていた。当たり前だ。愛助。この名前は心当たりしかない。長谷部愛助。僕の名前なのだが。
同じ俳優やタレントで同名はいないだろう。つまるところ、今のは僕の名前を呼んだのか。何故、彼女は僕の名前を知っているのか。動画サイトで愛助という名前を登録した覚えがない。コメントで教えたこともない。
一体、何が起きているか。
頭が真っ白になり掛けた、その時だった。
「ちょっと! 鍵を開けなさいよ! ぼっちがワタシを待たせるなんて、どういう神経してるの!? まだ寝てないわよね!」
玄関のドアを叩く音。たぶん、隣人のツン崎さんがやってきたのだ。
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