第19話 討ち入り
山代から連絡が入った組の警備隊はすぐにホテルの一階に駆けつけた。階段から駆け下りてくる客を見れば、上で何があったのか予想が付く。警備隊を指揮していた,組の幹部は指示を出し、すぐに皆をエレベーターの前に集めた。
数字が点灯し、階数が下がってくる。警備隊は拳銃に手をかけ、息を飲んだ。三階、二階、そしてついにエレベーターは一階に到着する。警備隊は一斉に拳銃を構え、ヒットマンの出現に備えた。
チャイムが鳴り、扉が開く。するとそこにはロープで拘束された山代が倒れていた。
「組長! 今助けます」
幹部がその姿を見ると同時に駆け寄った。山代の憔悴しきった体を抱きかかえようとすると、何やら刺激臭が走る。プロパンガスの臭いか、なぜエレベーターの中にガスが充満しているのだ。
幹部は微かな疑問を孕みながらも、山代の救出を急いだ。しかし当の山代はいたわる幹部に目もくれず、最後の力を振り絞って、大声を上げた。
「そいつを遠くに投げろ!!」
誰もその言葉の意味が理解できなかった。警備隊は拳銃を下ろし、顔を見合わせる。しかし一番に近くで山代の顔を見た幹部だけがある異変に気が付いた。唇に安全ピンが刺さっているではないか。そこから細い糸が伸びていて、背後に繋がっている。
幹部は息が止まり、振り返った。すると目の前を黒い物体が落ちていく。物体は金属音を立てながら、床に弾むとその正体が幹部の目に映った。
「伏せろ!!」
幹部が警備隊に向かって叫んだ。その瞬間、宙を舞った手榴弾が炸裂した。
さらに火は密室に充満したガスに引火し、外で待っていた警備隊、全員を巻き込む大爆発となった。
これも全て、山代の周りまで巻き込むための紫苑の策略である。一張羅のスーツも燃え炭になり、遺体は見る影もなくなった。最も遠くに離れていた警備隊の体にも火が点き、火は伝線する。この一件により山代組は実質、壊滅した。
数分前――
一人残った健斗は手榴弾のピンを山代の唇に通した安全ピンに付けると、途中の階で降りるときにガムテープが巻かれた手榴弾を扉の端に張り付けた。
つまり、次に扉開いた時にはピンが引っ張られ、手榴弾は扉付近で炸裂する。さらに穴をあけたガス缶を放り投げとくことで、さらに大きな爆発を生むことが出来る。
警備隊はヒットマンを迎撃するため、一般客をエレベーターに近づけなかった。そのため被害は紫苑が狙った組員だけに留まった。
一階で爆発が起こっている頃、ミネルヴァはあらかじめ抑えておいたホテルの部屋の窓から伸びた縄ばしごで脱出し、裏側から抜け出していた。
紫苑は逃げる車中にて山代のスマホで早速、間宮という男に連絡を入れる。
「どう、繋がった」
助手席で電話を試みる紫苑に対して運転している瑠璃が問いかける。
「全然……」
「じゃあやっぱり嘘か」
「いや分からない、でもあの野郎が言ったことに嘘は無さそう。履歴を見ると間宮とは親父が死ぬ前にしつこく連絡を取り合っている。そして後にも先にもそれきり……多分こいつが殺し屋で間違いないと思う」
「そいつも殺るつもり?」
瑠璃の言葉に対しては返事をしなかった。視線を流れる夜の景色に向け、窓からスマホを投げ捨てた。中途半端な事では終われない。それと同時にこれ以上、仲間を巻き込みたくないという葛藤が込み上げるのだった。
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