第3話 森の中
大人一人の体格があればミデンほど少年の全身を隠すことは容易である。舞い上がった死体は狙撃手とミデンの間に大きな死角を作った。
その死体が地面に落下するまでの一秒足らずが雌雄のカギを握る。ミデンは走り出し、小銃の銃口が体を捉えるよりも早く、足元に滑り込んだ。囲んでいた兵士たちの中で最も近くいた奴の足を払い、転ばせると同時に小銃を奪う。
正面から発砲された銃弾は小銃を奪った兵士の体を盾にして避け、正面の兵士に近づき、首を捻ると、骨が折れる感覚が手に伝わる。意識を失った兵士の頭を踏み台にして上空に跳躍した。
人間の体を跳び箱のように利用し、浮遊すると、そのまま綺麗に一回転する。ミデン体の銃弾を避けて行くように、過ぎ去り、兵士の海の中で暴れまわった。
「舐めるなよ!」
一人の兵士がすぐに間を詰められるミデンにしびれを切らし、小銃を捨て、ナイフに切り替えた。
確かにこれだけ木々が生い茂る森の中でさらには密集し、間合いを維持できない状態ではナイフのほうが功を奏す。
死ぬ覚悟で乱舞するミデンに突撃した。ナイフを振り上げ、切りかかるが手首を手で弾かれ、腹に打撃を食らった後、前に出た顔面に膝が入った。
体がのけぞりながらも、手首を握られ、そのままナイフを奪われる。襟を掴まれて、胸に一突き。
「これも借りますよ」
腹に突き刺さったナイフの柄を持ったミデンは容赦なく引き抜き、そのナイフをヘリからこちらを狙う狙撃手に向かって投げた。
弾丸のような速さで飛んでいったナイフは狙撃手の額に突き刺さり、息の根を止めた。落ちてきた狙撃手のライフルを奪うと、その場で膝を突き、操縦手の頭を狙撃した。ヘリは制御を失い森の中へとゆらゆらと落ち、爆発音と共に消失する。そして撃ち終わったライフルは鈍器に変え、襲ってくる兵士の頭を打ちのめした。
ミデンは一つの武器にこだわらない。その場で目に入ったもの、全てが武器だ。そのため取り留めなく奪い、殺して捨てた。
「畜生、この悪魔め」
先ほどまでの威勢がとうに消え去ってしまった部隊長が情けない声を出した。視線の先には返り血で真っ赤に染まったミデンが死んでいった兵士たちの上に立っている。気が付いた時にはすでに残存兵力が部隊長のみとなっていた。必死にストックを脇に抱えて狙うを定めるが、手が震えているため、照準も合わない。
「俺を拘束するのでは? 銃口を向けていては殺すことは出来ても生け捕りはできませんよ」
「うるさい。任務どころじゃねぇ。俺の仲間をよくもこんなにも殺しやがって……てめぇを殺して仇を取ってやる」
「仲間のために任務を放棄する。何たる兵士ならざる行為。それでもあなたはプロですか」
「お前に何が分かる。ずっと一人で、仲間も知らない悪魔に俺たちの人間の気持ちが分かってたまるか」
部隊長はそう叫びながら何度も発砲するが、もちろん一発も当たらない。小銃は拳銃に比べて反動も激しく。ひとまず落ち着き、集中してじわりと引き金を引かなければ発射された弾はあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。連発で撃てば数発は当たるかもしれないが、残りの弾数も少なかった。
ここで一気に残りの弾を吐き出せば、殺せるかもしれない。頭に過る希望も、仮にそれで殺せなかったら、可能性は消え失せる。
部隊長は僅かな可能性を残すために挑戦を拒んだ。
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