ワンダーランドモブ

enmi

第1話 魚の日記



僕らは末っ子の姫が大好きだった。


姫の歌ってくれる歌も、優しい手も口づけも、綺麗な髪も、笑顔も何もかも。

「素敵なウロコね!真珠みたいに綺麗だわ!」

姫がそう言ってくれたから自分のウロコも大好きになった。


姫18歳の誕生日に海の上を見に行った。

海の上は嵐だと仲間から聞いていたし、すぐに帰ってくると思ってた。

姫が帰ってきたのは夜明けだった。


その日から姫の様子がおかしい。

上を見上げていることが増えたし、歌を歌わなくなったし、僕らが話しかけても上の空。

なんだか元気がないみたい。


僕らは姫に元気になってほしくて、たくさんたくさん話してお祭りをすることにした。

珊瑚や、真珠、海の上から落ちてきたキラキラした石を飾った。

姫が褒めてくれた僕のウロコも飾った。

歌や踊りの練習もしたし、海藻でドレスも作ったんだ。

姫に喜んでほしくて。


お祭りの日、姫は喜んでくれた!笑ってくれた!一緒に歌ってくれた!

本当に嬉しかったけど、でもどこかやっぱり元気がないみたい。

姉の姫たちも気がついたみたい。


次の日姫がお姉様たちと話すところを僕はこっそり岩の下に潜って聞いた。

どうやら陸の王子様に恋をしたらしい。

姫は魔女に会いに行って、人間になるって言ってた。

もう姫には会えないのかな?

姫が人間になるなら、僕もなりたいな。


その日から姫を見かけることはなくなった。

優しくて、可愛くて、歌の上手な姫はきっと王子様と楽しく暮らしてるんだろう。

もう会えないけど、でも大丈夫!

姫が幸せなら僕はそれでいいんだ!


ある日海の上に何か大きな物が落ちたみたいな音がした。

泡がたくさん出て、キラキラして姫の髪の毛みたいに綺麗だった。

いつもより海が少ししょっぱくなった気がしたし、姫の歌ってる声が聞こえた気がした。

海の上姫が歌っていたのかもしれない。

大きな船に乗って。



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