第33話INVADER ~底なしの暴食~ Part.4

 グリム達は往来で一悶着起こした最悪の旅人だというのにウォーレンは寛容で、アヴァロン王への謁見を取り次いでくれていた。ただまぁ、通行証を持たないうえに印象も悪かったので、城に走った連絡役が戻るまでは街の外で待機という形に収まり、グリムとメアは正門の傍に寄りかかりながら、ぼんやりと時間を過ごしていた。


 ウォーレンも、勝ち気な女騎士も他の仕事があるようで、一度壁の中へ戻っていったために、二人は手持ちぶさたである。でもとりあえずは、謁見が叶いそうなので一安心ではあった。

 だからだろうか、少しばかり気が抜けたために、雲を眺めていたグリムがぽつりと溢した。


「……ウォードに兄貴がいたなんてな」

「のじゃ? なんじゃ、お主も初耳だったのか?」

「礼儀作法とか、野蛮な割に学があったからイイトコの生まれだろうとは思ってたけどな。本人があんまり家族の話をしたがらねえから、こっちも訊かなかった」


 でもまさか貴族の、しかも騎士団長の兄貴がいるなんて驚きである。

 普通ならば隠すどころか、むしろ自慢したい内容だが……


「ふむ。秘めた理由は当人しか分からぬが、相応の理由があったのじゃろ。無理強いしなかったお主の選択は正しいと妾は思うが、なにをそんなに気に病んでいるのじゃ?」

「いやさ、なぁ~んにも知らねぇなって思ってよ」


 長く一緒に戦ってきたし、共に幾つの死線を潜ってきたかもわからない戦友だ。しかも、ある意味においては勇者よりも、命の恩人と呼べる男、ウォード。なのに思い返してみれば、恩知らずかってくらい、グリムは彼について知らなかったと気が付いていた。


「戦友だってのに、ハッキリ覚えてることと言えば剣の腕前と、女と酒の好みくらいのもんで、細かいことはトンと出てこねえや」

「……しかし、ゼロではないのじゃろ?」


 グリムと並んで雲を見上げてメアが応じた。


「そのウォードという戦士の姿を、お主は確かに覚えておるし、言葉に出来ずとも刻まれている記憶はあるはずじゃ。なによりお主は、そうして繋がれた命を賭して世界を救おうと奔走しているのじゃ。単に思い出を語るよりも、よほど恩に報いるおこないじゃ」

「……そういうもんかねぇ」

戦場いくさばに身を置いている以上、死は身近にあり覚悟もしている。その者も同じではなかったのか? であれば、生き残った者に期待するのは、記憶を語り継ぐよりもその命でなにを成すか、少なくとも妾はそう思うのじゃ。だから妾は、お主に救われた命で世界を守りたい。仮のこの先、グリムが討たれることがあっても、その意思は揺るがぬのじゃ」

「さらっと縁起でもねえこと口走りやがって」

「ふふ、その意気じゃ。沈んでおっては謁見どころではないからな」


 雲を見上げたままにメアが笑い、グリムもそんな彼女の横顔を見つめて、それから小さな笑いを漏らした。脳裏をよぎったのは、魔族に元気づけられている自分をからかうウォードの姿、彼ならきっとひどく下品な冗談でからかってきたに違いない。


 そしてなるほど、反応が想像できると言うことは、メアが言うとおりウォードの記憶は確かに息づいているのだと、グリムは納得していた。


 すると――


「お二人とも、お待たせして申し訳ない」


 甲冑を鳴らしてウォーレンが戻ってきた。彼の背後にはハンナも追従していたが、どうも未だに納得していないのか、明らかに不満を抱えた顔をしている。

 だがまぁ、グリムにはどうでもいいことだった。彼女のさらに上にいる人間が都入りを由としたのだから、門番長に恨まれていようが、最早痛くもかゆくない。


「グリム殿、メア殿。アヴァロン王は貴方がたの来訪を歓迎するとのこと、勇者殿から賜っているという言伝にも大変興味を持たれているご様子です。つきましてはお二人に、城まで同伴願いたいのですが、準備はよろしいでしょうか」

「勿論だ、俺たちはその為に来たんだからな」

「感謝します。では此方へ、中に馬車を待たせてありますので」


 案内されるがままに門を潜って分厚い城壁を抜けると、パッと拡がった光景にメアが大きく息を呑んだ。小国ながらも流石は王都、大きな広場から伸びるアルクトゥルスの目抜き通りには活気があり、リングリン村とはまた異なる風情を醸し出していて、都会ならでは空気感に彼女はすっかり興奮している。


 そりゃあ物珍しいだろう。

 グリムが覚えている限り、魔王城には城下町らしいものはなかったし、そもそも魔族や魔物が村や街を造っているなんて聞いたこともなかった。あっても小さな集落か野営地だが、文化的な集まりというよりも、どちらかと言えば巣と呼ぶに相応しいものばかりだったのだ。


 そういう点を踏まえると、メアが瞳をキラキラさせて周囲を見回しているのは、至極当たり前の反応だった。


「なぁグリムよ! あれは何なのじゃ⁈」

「露天だ、手軽な食い物や日用品なんかを売ってる」


 答えはするが気はそぞろ。グリムの視線はメアではなく、明後日の方向にある建物の屋根へと向いていた。いや、正確にはその陰から様子を窺っているテューレの姿に向いていた。

 彼女を呼び寄せるなら早い方がいい、メアの秘密と合わせても、この騎士団長は物わかりが良さそうだし事情を説明するなら早い方がいいとも思うグリム。しかしだ、裏目に出た場合が最悪なのは敢えて言うまでもないだろう。


 拗れ、誤解、あとはそのまま悪転あくてんしていき、斬り合いにまでなる予想も付く。


 ……難しい判断である。

 あと一歩で謁見に臨める時だからこそここは慎重になるべきで、グリムは掌を下に向けて僅かに振り、テューレにまだ隠れているようにと合図を出し――


「グリム殿、どうかされましたか?」

「ん? あぁいや、小国の首都って割に立派なもんだと思ってな。考えてみりゃ、街らしい街に来るのも久しぶりだから、色々買い足しとく物があるな、と……」

「謁見のあとにはなりますが、是非覗いてみるのがよろしいでしょう、きっとグリム殿のお眼鏡にかなう品が見つかることでしょう。それにしても――」


 やはりウォーレンも、メアの興奮具合が気になっているらしい。そりゃあそうだろう、彼女はすっかり自分の世界に入ってしまっていて、もういっそ夢の中にでもいるような気配さえあるのだから。


「……ったく。おいメア、いつまで浸ってんだ! 観光ならあとにしろ」

「ハッ! いかん、いかん。妾としたことが、あまりに素晴らしい街並みについ我を忘れて見取れてしまったのじゃ……」


 と、言いながらグリム達の方へ戻ってきつつもメアの顔は他所を向いたまま。とんだ所で覗かせた彼女の好奇心には困りものだがしかし、意外なことにウォーレスは好意的だった。


「メア殿は街に興味がおありですか」

「うむ。恥ずかしながら大きな街に入ったのはこれが初めてじゃからな、興奮が収まらぬ」


 街を褒められるというのは、そこを守護する者にとって大変名誉なことである。彼等は礼を欲して戦っているわけではないが、それでもやはり戦う者には誉れが必要だ。それは大小ではなく有無の問題、命を懸けている意味があるのだと知る大事な瞬間なのだから、ウォーレンの反応も大袈裟ではなかった。


「それはそれは、嬉しい言葉ですね。でしたらメア殿。グリム殿が謁見されている間、部下に城下町を案内させましょうか。ただ待っているのも退屈でしょうし、丁度いいかと存じますが」

「あ~、うむぅ……。気遣いは大変有り難いのじゃが、そのぉ……」


 メアの返事が歯切れが悪い。

 正体を隠している後ろめたさと、謁見には自分も加わる理由。その二つをどう誤魔化しながら伝えるべきなのか苦心する彼女は、困ったようにグリムへと視線を流した。

 と、なればグリムとしても助けざるおえない。


「観光は後回しだな、メアも王様に用事があるんだ」

「メア殿も、ですか」

「俺が預かってる勇者の言伝と、メアが持ってる情報。元々は別の物なんだが、状況が変わって二つで一つの内容になってる。だから王に伝えるのも同時の方が分かり易い」

「なるほど」


 ウォーレンが向けるのは穏やかながらも鋭い眼差し、怪しまれているのは明らかだった。

 だがしかし、その警戒をグリムは不快とは感じず、むしろ当然と受け取っていた。なにしろウォーレンは騎士団長、王に近づく者を怪しむのが仕事なのである。


「……一応お訊きしますが、内容を伺っても?」

「駄目だ。直接王に届けてくれって頼まれてるし、なにより、あんたに話してもどうにもならねえ。それに謁見の時には同席するんだろ? 逸らなくてもどのみち、あんたの耳には入るさ」

「勇者殿からの希望ですか。そういう事でしたら、余計な詮索だったかも知れませんね」


 彼等の間にある緊張感は釣り人と魚の駆け引きのように音もなく、それでも確実にヒリ付いていた。餌に食いつきウキを沈めたらそれまでの、絶妙な線を渡り歩く腹の探り合いである。

 ただ、その緊張感の傍にあっても、メアだけはまた別の視点から頭を下げていた。


「すまぬのじゃ、ウォーレン騎士団長。王を守護する者として、我らをいぶかるは当然の義務。それを理解した上で、お主の誠意に秘密を保つ我らを、どうか許してもらいたいのじゃ」


 誠心誠意。

 頭を下げているメアの姿はその言葉こそが当てはまり、同時に溢れる不思議な気品にウォーレンは言葉を詰まらせていた。


 疑念は拭いきれないものの、信用に値すると囁く直感。

 そして彼は沈黙を破り、僅かながらに首肯する。


「分かりました。この件に関しては、これ以上の詮索は止めておきましょう」

「感謝するのじゃ」


 そうして彼等は馬車に乗り、市内を城へと向かっていくことになるのだが、移動を始めてから数分と経たぬうちにメアは緊張感を忘れたのか、再び街並みに夢中になっている。ヒリ付いた会話をしたばかり、しかもこれから謁見するというのにこのリラックスぶりは、やはりというか王族であるが故だろうか。


 呆れ半分、感心半分といった具合でメアの問いかけに答えていたグリムだが、どうやらウォーレンも全く同じ感想を抱いていたらしく、彼もメアの横顔を興味深そうに見つめていた。


「不思議な方ですね、メア殿は」

「のじゃ? なにが不思議なのじゃ?」


 興味はそとでもしっかり聞いていたらしく、メアはすぐに反応した。


「いえ、肝が据わっているというか。戦場を生き抜いてきたグリム殿が落ち着いているのは解りますが、メア殿は普通の女性でしょう? 騎士団の者でも、玉座の間に入る際には緊張します、にもかかわず貴女はとてもくつろいでいる。中々出来ることではありませんよ」

「いまは好奇心が勝っているだけじゃ、直に身も心も引き締まる。ならば緊張するのは王の御前に跪いてからで充分じゃろう」

「それを図太ぇって言ってんだよ、ウォーレンは」

「お主の図太さには叶わぬがな」


 からからとメアは笑い、グリムは小さく鼻を鳴らす。

 ハッキリ言って二人共が異様に肝が据わっていて、長年、騎士団長として務めを果たしているウォーレンでさえ、謁見の前にここまで寛いでいる人物は数えるほどしか記憶になかった。


 そんな二人の気楽さが功を奏したのか、彼もまた気持ちばかし緊張を解き、城までの道すがらを会話によって埋めることにしたらしい。いやむしろ話すべき事が、確かめておくべき事があると判断したのかもしれない。


「グリム殿。つかぬ事を伺いますが、弟とはどのように知り合ったのでしょうか」

「……特別な、ことじゃねえ。ウォードとは偶然知り合ったんだ」


 究極に簡素な答えとすればこれで終いだが、戦友の家族に対してこの短さでは、あまりにも失礼ってものだろう。


「……俺が『授かりし者ギフト』になったのは十三かそこらになった時でな、戦える力があると分かった途端に魔族を討ってこいと故郷くにを放り出された。まぁこれくらいはよくある話だが、なにしろそれまで戦うどころか、剣もロクに握ったことのない餓鬼だったからな、魔物と戦うにしても遮二無二剣を振るばかり。そんな時さ、ウォードと出会ったのは」


 それはある戦場で生き残った後のこと、野営地で返り血を拭っているグリムに声を掛けてきたのがウォードだったのだ。


「第一声は何だったと思う? 『そんな戦い方じゃ死ぬぞ』だぜ?」

「お主はなんと答えたのじゃ」

「ああ? 『うるせえ』って言ってやったよ、好きこのんで戦ってる訳じゃねえってな。まぁ、俺もあん時はヤケクソ気味だったから、鬱陶しくて仕方が無かった。でも、ウォードの野郎はしつこくてよ、サシの勝負でどっちが強いか決めようってことになったんだ」


 結果はグリムの惨敗。

 いま思い出しても、お話にならないような負けっぷりだった。


「ふっ、あいつらしいな……」

「荒っぽいくせに世話焼きばあさんみたく口うるさかったぜ、前からそうだったのか?」


 どうやら思い当たる節があるらしく、ウォーレンの口元がくしゃりと曲がった。


「弟は生まれながらの『授かりし者ギフト』で、優れた剣の才覚もあり、一〇を迎える頃には弟に勝てる者はこの国にいなくなっておりました。父上をはじめとして、もちろん私も。その才覚故、ゆくゆくはアヴァロン騎士団長としての役目を王からも期待されていたのですが、グリム殿もよくご存知の通り、あの性格でしたので――」

「大勢を仕切るのは苦手だろうな、本人もそう言ってたよ」

「――ええ、ですが人望はありました。強さに裏打ちされた指導も得意としていたので、騎士団長とはいかずとも、国のために尽くしてくれるだろうと周囲も期待を寄せていたのです。しかし弟は、ある日突然に国を出ました」


 ウォーレンが見つめているのは、過ぎ去りし別れの時だろう。その表情には、国を捨てた弟に対する恨みではなく、哀愁と後悔が滲んでいた。


弟君おとうとぎみは、何故なにゆえ国を後にしたのじゃ」

「当時の私では至りませんでしたが、弟は強者故の責務を感じていたのだと思います」

「……ノブリス・オブリージュじゃな」

「ええ。それも、より純粋な力に寄った責務でした。弟は自身が強力な力であると認識していたからこそ、自国の安全のみを大事として行動する王に反抗したのでしょう。より多くを、そして世界を守るために旅立ったのだと今ならば解ります」

「国を守るを優先するは王の努め、じゃが弟君おとうとぎみの選択も同じく高貴な信念によるものじゃ。とはいえ兄であり、騎士団長でもあるお主には辛い話じゃな」

「ええ、仰るとおりです。メア殿」


 メアは隠してこそいるが、二人ともに立場のある身。そこに生まれる共感は、なるほど重要で価値があるのも理解は出来る。

 しかしだ。グリムにとって重要なのは、その人物がどういう身分にいるかではなく、どういう人物であるかに過ぎない。

 彼が持っているのはある意味で純粋な視点、人間や魔族自身が持つその者の価値である。


「……あんたがどんだけ悩んでるかは知らねえが、俺はウォードに感謝してるぜ。俺にとっては戦友で剣の師匠、それだけで充分さ。あいつに剣を習ったからこそ、こうしてあんたの前にいるんだからな」

「弟が、貴方に剣を……?」

「ああ。大剣に持ち替えてからだいぶ我流に崩れたが、基本の型はウォードに習った。機会があれば、あんたにも指導を賜りたいもんだ」

「教えを乞う態度には見えぬぞ、グリム」

「態度がでかいのも師匠譲りさ」


 和んでいるとは言い難いが、不思議と満たされる一体感に緩む頬。メアはそこに安らぎを感じ、そして同時にあることを思い出した。


「そうじゃウォーレン騎士団長。町の案内も嬉しいが、もう一つ頼みたいことがあるのじゃ」

「私にですか?」

「うむ、と言うよりお主に頼むのが早いと思うのじゃ。聞き忘れたので名は分からぬのじゃが、リングリン村から兵士に志願した若者がおるじゃろ? その者に会わせてもらいたい。かの村ではその若者が暮らしていた家を借りて数日を過ごしたのでな、是非とも礼を言っておきたいのじゃ」


 リングリン村からの志願兵とは誰のことだったか。

 ウォーレンは顎に手を当てて記憶を探り、暫くすると小さな吐息と共に顔を上げた。

 だが、言葉を発さずともグリムには感じ取れたイヤな予感がある。


「……その兵士の名はカールといいます。居場所も把握しておりますがメア殿、残念ながら話すことは叶いません、申し訳ない」

「そうか。事情があるなら致し方あるまい。ならば騎士団長、妾に代わってそのカールという若者に礼を伝えてほしいのじゃ。お主の厚意に我らは深く感謝していると」

「……メア。きっと、そういう話・・・・・じゃねえよ」


 目を伏せたウォーレンの姿を改めて見つめ、メアは自分の浅はかさを思い知る。しかしもう、手遅れであった。


「カールは先日の巡回行動中、突発的に発生した魔物との戦闘により戦死しました。同小隊は伝令員一名を除き死亡、ハンナ隊長が応援が到着したときには、身体の一部と装備品の残骸が残されているのみでした」

「ハンナってのは、さっきの気の短い女隊長か」

「はい。カールは彼女が指揮する警邏隊の隊員でした。ハンナは隊長として、彼等を派遣した責任を感じているのです。グリム殿、先程のハンナの応対が隊長として褒められたものでないことは重々承知しておりますが、どうか責めないでやって下さい」


 責めるのもなにも、そもそも彼女の事情に興味がないグリムはただ肩を竦めるだけ。むしろ彼が気にしているのは、隣の席で哀しげに話を聞いていたメアの方である。


「であれば、住民達の表情が暗いのも同じ理由からなのじゃろうな」

「壁の中で暮らしていても心は安まりません。いつ襲われるかも知れぬ毎日、魔族との戦に皆疲れ切っております。……メア殿、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」

「心配は無用じゃよ。ただ……、ただ妾は、ままならぬ無力を感じているだけじゃ」

「貴女が気に病む必要はありません。それにお二方の感謝の気持ちは、きっとカールにも届いていることでしょう。私も、そのような高潔な者が騎士団にいたことを誇りに思います」

「そうだとよいな。そうだと、よいのじゃが……」


 緩んだ気配は一気に落ち込み泥沼にも似た重苦しさ。

 しかしそれでも馬車は進み、遂に城の正面で彼等を降ろした。


 気分が沈んでいよとも否応なく、ウォーレンに連れられ堀を越え、城門を潜ればもう後戻りは叶わない。元より戻る選択肢はないが、それでも神経は張り詰める。

 さらに悪い事ってのは重なるもので、最初の関門は、城のエントランスで既に待っていた。


「アヴァロン城へようこそおいで下さいました」


 そう言って、恭しく招き入れた衛兵が示したのは、兵士の詰め所があるカウンターである。


「お二方には此方に武器を預けていただき、魔力封じの枷を嵌めさせていただきます」


 グリムもメアも表情には出さなかったが、背筋を寒いものが撫でていた。

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