すこしふしぎな短編集

かえるさん

透明人間

 俺は、透明人間。


 誰も、俺の姿を見ることはできない。


 今年で27歳になるが、実は生まれつき透明人間だったわけではない。


 今日、突然、なったのだ。


 朝、いつものように馬鹿しかいない会社へ出社してやると、

 俺の姿が誰にも見えていないことに気がついた。


 なにかと言えば、怒鳴りつけるしか能がないハゲの上司。


 調子と要領がいいだけの無能な同僚。


 ロクな仕事もないクセに、勤務年数だけでデカい顔してる事務のお局ババァ。


 どいつもこいつも、いつも鬱陶しいくらい俺に話しかけてきていたから、

 異変にはすぐ気づけた。


 目も合わなければ、こちらに視線すら向けてこない。


 声をかけても、聞こえていない様子だ。


 平然と俺がいる場所に歩いてきて、何度ぶつかられそうになったか分からない。


 毎日毎日、合わせたくもない顔を合わせて、こいつらにはウンザリしていた。


 俺が見えていないのなら、こんなに良いことはない。


 カタカタと、パソコンを前に何かしている課長の背後に移動すると、

 毛髪が薄くなって頭皮が見やすくなっている脂だらけの頭頂部へ、

 大きく振りかぶって力の限りスリッパを叩きつけた。


 ぱっしぃーん。


 甲高い、破裂したような音が響き渡る。


「あいたたぁ!」


 ハゲ課長が情けない声をあげた。


 人の話し声や電話の音で雑然としていたフロアが瞬間、静まり返った。


 いつかこんな風にハゲ散らかした頭を殴りつけてやろうと思っていたんだ。


 いつもいつもこの俺に、しょうもない因縁をつけてきてはパワハラした仕返しだ。


「か、課長……、大丈夫ですか?」


 同僚のシロタが、恐る恐るといった感じで課長に声をかけた。


 コイツは仕事は出来ないが、上に媚びを売るのだけは上手いクズ。


「ああ、気にしないでくれ……」


 シロタにはそう言ったが、課長は自分を襲った衝撃の正体が分からず不満そうだった。


 課長が独りで大声をあげただけで無事だと認識したのか、

 周囲はまたざわめきを取り戻していった。


 赤くなった頭皮、落武者のように乱れた髪型、脂がついてテカッたスリッパ。


 叩いた瞬間の間抜けな声も面白くて楽しくて、

 俺は尻もちをついてケタケタと笑い転げた。


 課長は深い溜息を吐くと

 再び、トロトロとおぼつかない手つきでキーボードを叩き始めた。


 あぁ、愉快愉快。


 散々笑っていると、ドスドスとデカい足音を立てて

 事務のお局ババァが近くを通り過ぎた。


 俺はババァの進路を読むと、自分の足をサッと床へと出した。


「ああっ」


 低い呻き声を上げて、俺の足に引っかかると、

 ババァはその巨体を制御できず見事にコケた。


 どしぃーん。


 ビルごと倒壊しそうなくらいの揺れが起こった。


 同時にババァのスカートが裂けて、ストッキングでも引き締められないほど

 ぶよぶよとした汚い脚と、三段腹をすっぽりと覆うほど

 股上の深いベージュのパンツが晒された。


「ひええ」


 ババァは破れたスカートを手に、闘牛のようなすごいスピードで走り去って行った。


 周りの人間も、何事かとザワついている。


 抱腹絶倒とはこのことだ。


 よぉし次は、無能のシロタだ。


 俺はウキウキして、掃除用具のロッカーからモップを手に取った。


 なにか探しているのか、ファイルの収められた棚の前で立っているシロタの尻に、

 モップを柄をズン、と突っ込んだ。


「ぎゃあ!」


 ちょうどクリーンヒットしたようで、シロタは顔を猿みたいに真っ赤にして

 尻を押さえたままもんどりうつと床に倒れ、更に悶え続けた。


 俺は可笑しくて可笑しくて、涙を流して笑った。


「大丈夫ですか!?」


 おっ、美人のホンダじゃないか。


 ホンダはこの会社の中でなかなかの美人で、しかもイイカラダをしている。


 ケツ穴を押さえて苦しむシロタを気遣って駆け寄ってきたので、

 どうせなら乳のひとつでも揉んでやろうと手を伸ばすが、

 動き続ける人間の身体を触るのは意外と難しかった。


 時間でも止められりゃあなぁ。


 この前見た時間停止もののAVを思い出して、興奮してきた。


 だが、ここで抜くのも味気ない。


 そうだ。


 人が容易に動き回れない、いい場所があるじゃないか。


 俺はデスクの上の書類や棚を手当り次第ぶちまけ、倒しながら、

 ゴミみてぇな会社を後にした。


 会社のアホどもの悲鳴が、ヒーローを讃える歓声のようで気持ち良かった。


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 歩いて、最寄りの駅に着いた。


 電車の中でなら、触り放題だ。


 姿が見えない、声も聞こえないなら、もっとやりたい放題できるぞ。


 鼻息荒く、スマホを手に改札を通ろうとして気がついた。


 透明なんだ、金なんて要らないじゃないか。


 俺は悠々と駅員窓口の前を通過して、電車へ乗り込んだ。


 時間がもう少し早ければ、女子高生もたくさんいただろうが、

 平日10時を過ぎているとそうはいかなかった。


 せいぜいOLか主婦か。


 仕方ない。


 あの女でいいか。


 標的に目星をつけて、近付こうとした。


 しかし、思いのほかサラリーマンやジジィの数が多く、

 壁に阻まれるようにして目的地にたどり着けない。


 こちらの姿が見えていないせいか、人の腕や足が身体中に酷くぶつかってくる。


 誰かに肘で頬を思いっきりエルボーされて、俺はたまらず途中下車した。


「いってぇー」


 口の中から血の味がする。


 透明というのも善し悪しだ。


 すっかり萎えてしまったので、もう自宅へ帰ることにした。


 この身体をもっと有効活用する術を、ゆっくりと考えよう。


 窃盗、放火、なんなら殺人だって可能なんだ。


 透明な俺を捕まえることなんて、誰にも出来ないんだからな。


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 自宅へ帰る途中のコンビニで、適当に食品と酒を手に入れた。


 店員にも、やはり俺が見えていないようだ。


 商品を抱えて自動ドアをくぐる。


 店内にいた誰もそれを不審に思っていないようだった。


 俺が触れていれば、その物体も見えなくなっている、ということか。


 身に付けてる洋服なんかも見えていないらしい理由はきっとこれだろう。


 こいつぁいいぞ。


 盗み放題だ。


 マンションの自室に入り、洗面台に急いだ。


 殴られた顔がどうなっているか、気になったからだ。


 頬には青アザができて、しっかりと腫れていた。


 少しだけ口の中を切っているようだが、歯は無事だ。


「くっそー……、誰だよマジで……」


 呟きながら自分の頬をさすって、はたとした。


 鏡に顔が映っている?


 ああ……、俺の目には俺の姿は見えるのか、便利だな。


 ひとっぷろ浴びスッキリして、口の中の違和感と戦いながら

 コンビニでかっぱらった弁当を食い、ビールをあおる。


 とにかく、明日からは働かなくていいんだ。


 何をしてもいいし、どこに行ってもいい。


 俺は世界中のどこの誰よりも自由だ!


 アルコール以上に、その解放感が俺を骨の髄まで酔わせる。


 さぁ、これからどうするかな。


 金品を盗んで大金ゲットを妄想したが、

 何せ透明なのだから過ぎた金を持つことにはあまり意味がない気がした。


 家も服も車でさえも、透明人間には意味のない代物だ。


 誰にも見せられない装飾品など、自己満足以外になんの意味がある。


 そうだ。


 一人暮らしの女の家にでも忍び込んでみるか。


 快適そうなら、そのまま住み着くのもいいだろう。


 目当てがある。


 このマンションの上の階に住んでる女だ。


 エロい身体をした女だから、見かける度いつかヤりたいと思っていたんだ。


 今、居るか確かめてみるか。


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 上階へ移動し、女の部屋のチャイムを鳴らす。


「はーい」


 あの女の声が聞こえた。


 ちょっとして、そっとドアが開いたが、

 またすぐに扉は閉められた。


 女からすると、誰も居ないのだから当然か。


 居ることは確認出来たので、軍手をはめ、

 ベランダからパイプをつたって上に登り始める。


 3階程度の高さとはいえ、結構怖い。


 さっき、少しだけ開いた扉の先にチラリと見えた

 薄着な女の姿を思い出して、モチベーションに変えた。


 そのまま必死に登って、なんとかベランダに忍び込めた。


 窓から見える範囲に女は見当たらない。


 音を立てないようにそっと開けて、部屋に入る。


 奥に続く部屋に、人の気配。


 そして、女の喘ぎ声と男の荒い息遣い。


 金属が一定のリズムで軋む音で察した。


 容赦なく侵入して見ると、ボディビルダーかプロレスラーかといった、

 筋骨隆々、見事な逆三角形の背中が見え、

 ギュッと力の入った小さめの尻が女の股の上で激しく動いていた。


 まだ昼のこんな時間から、もうサカってやがったのか。


 終わったら俺も、と思ってしばらくライブAVを観賞していたが、

 長い。


 何回するつもりなんだ、こいつらは。


 そのまま夕方になったので、俺はいい加減呆れて

 男の腰に揺さぶられてプルプルと震える白く柔らかい乳を揉みしだいて、

 自分の手でしごき女の顔にぶっかけると、次は玄関から堂々と帰宅した。


 あー、しょうもない。


 見るだけなんて生殺しだ。


 やっぱり透明人間よりも、時間を操る能力の方が良かった。


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 その足でとりあえずデパートへ向い、前から欲しかった時計や

 高級ブランドのスーツ、靴、財布などを手に入れた。


 悪くはないが、やっぱり自己満足以外の何者でもないな。


 機会を伺ってデパート内の数店のレジから万札を根こそぎ拝借して、

 自分の口座へと振り込んだ。


 家賃もろもろはこれで当面大丈夫だろう。


 ショーウインドウに映った自分が、ふと目に入った。


 整った美しい服を身につけていると、数ヶ月散髪していない伸びた髪が

 いかにも汚らしく見えた。


 そうだ、透明だと散髪は自分でやらないといけないんだ。


 飯にしたって、店に入っても注文ができない。


 せいぜい出来て盗み食いだ。


 タクシーに乗るのも難しい。


 いよいよ面倒だぞ、透明人間。


 やれやれと呟いて、俺は家路についた。


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 しかしそれからの毎日は、多少の不便はあっても楽しいものだった。


 ちょっとイラついたら、そのへんの看板を引き倒したりガラスを割ったりできるし、

 ムカつく奴の家を燃やしたり、思うように嫌がらせができるのだ。


 駅前の放置自転車のドミノ倒しは壮観だった。


 スカートを引き下ろせばどんな女のパンツも見放題。


 下着屋の試着室はなかなか穴場だと知った。


 性生活の方も、出会い系を利用して解決した。


 目隠しをするように、それを決して外さないように、

 そして会話も一切不可であることをメールで伝えておくのだ。


 中には怪しんでホテルに来ない女もいたが、

 1回30万から50万を提示すると大抵の女が喜んで股を開いた。


 まぁ、なんだかんだで上々な透明人間ライフなんじゃあないか?


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 その日も、金の調達のために街中に出ていた。


「お待たせしました。モカフラペチーノをお待ちのお客様……!あっ!」


 注文された商品を横からかっさらうのも随分上達した。


 好きなものを頼めないのはストレスだが、これも透明人間生活のスパイスになる。


「……すみません! もう少々お待ち下さい!」


 店員はそう言うと、また同じものを作り直し始めた。


 あまりに不可思議な現象を目の当たりにすると、

 人間は意外と平常通りに振る舞うのだと知った。


 正常性バイアスとかいうものに似た何かなのだろうか。


 飲み物を飲みながら、鼻歌まじりに通りを歩いていると、

 突然目の前に赤いものが現れた。


 驚いて後ずさると、それはただの風船だった。


 小さなガキが、3つほどの風船をふわふわと浮かせて歩いていたのだ。


「チッ、ウザってぇ!」


 俺はガキから風船を引ったくり、空へと放った。


「ああ! ママァ! この人がボクのフーセンとった!」


 人差し指の先をまっすぐ俺に向けて、ガキが喚いた。


「ダメ! 黙って!」


 ガキの母親らしい女はそう叫ぶと、ガキを抱えて全力で走り去っていった。


「おい! 待て……!」


 声も虚しく、親子は雑踏へ消えていった。


 今のガキには、俺の姿が見えていた……!?


 それだけじゃない。


 母親のあの言動。


 どういうことだ?


 俺は右手に持っていた飲み物を、横を通り過ぎるサラリーマンにぶちまけた。


「うわっ! 最悪だ!」


 サラリーマンはそう言うと、俺の方には見向きもせず足早に去っていった。


 周囲の人間だって、俺には目もくれない。


 やはり見えていないのか?


 あの親子にだけ見えたのか?


 しかし、『ダメ! 黙って!』


 咎めるように険しい顔で、母親は確かにこう言った。


 この言いようが、どうにも引っかかった。


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 都心から電車で1時間、乗り換え1回。


 寂れた駅から歩くこと15分。


 俺の実家はそこにある。


 大学進学と同時に家を出てから、実家へ戻るのは初めてだ。


 葬式でもない限りは戻らないつもりでいた家にやって来たのは、他でもない。


 見えているのか、見えていないのか。


 それを確認するためだ。


 どこかもう他人の家のようにも思える玄関を開けて、

 親を探す。


 内装の様子も、家特有の匂いも、昔とほぼ変わらない。


 玄関マットや壁掛けなんかが見覚えのないものになっていたりして、

 そこに時間の流れを感じた。


 居間に行くと、両親がテレビを見ていた。


「ただいま」


 緊張しながら二人の背中に声をかけた。


 返ってきたのは、テレビから流れてくる笑い声だけだった。


 でもそこに、不思議と張りつめたような空気を感じた。


 感じてしまった。


「なぁ、二人とも、俺が見えるんだろ……。聞こえてるんだろ……!?」


「ううっ……」


 母さんが嗚咽が漏らした。


 依然として俺の方は見ないけれど、小さな背中を揺らして、確かに泣いている。


 母さんの斜向かいに座っていた父さんが、

「母さん……!」

 悲しそうに言って母さんの肩に手をやった。


 そして、俺が立っている方向に顔を向けた勢いそのままに、

 俺と、しっかりと、目が合った。


 確かに、目が合った。


 すぐに、見てはいけないものを見たように、サッと逸らされた。


「やっぱり、見えているんじゃないか……」


 目の前が暗くなって、上も下も分からなくなったようにふらついた。


 だったら、今までの周囲の反応は?


 意味が分からない。


 俺は透明のはずだろう。


 声だって、聞こえていないはずだろう。


 だっておかしいじゃないか。


 あれだけ色々物を盗んで金を盗んで暴れて、

 誰にも何も言われず、逮捕もされないなんて。


 ここは法治国家だぞ。


 見えているはずがないんだよ。


 そうでなきゃあ、俺は透明じゃないのに、

 居ない存在にいることになってしまう。


 混乱してぼうっとする頭で、家を出た。


 後ろから、俺の名前を呼ぶ声がした気がしたけれど、

 戻る気にはなれなかった。


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 街中に戻り、雑踏に埋もれる。


 スクランブル交差点の真ん中に立つと、あらん限りの声で叫んだ。


「おい!! 見えてんだろうが!! 見えてるんだろうがよ!!」


 全員、すました顔でさっさと歩を進めるばかりで、

 チラリともこちらを見ない。


「ふざけやがって……! オラァ!」


 俺は近くを歩いていた女にタックルした。


 女は悲鳴こそ上げたが、それでも俺の方を見ようとせず、

 そそくさと消えていった。


「見えてるくせに! 聞こえてるくせに!」


 目に映る全員が、敵に思えた。


 俺を無視するな。俺を無視するな。俺を無視するな。


 隠し持っていた包丁を取り出すと、

 刺さるように突き出して、適当に駆け出した。


「ぎゃっ」


 すぐ、包丁を持った腕をすごい力でねじられ、

 俺は短い悲鳴とともに地面に組み伏せられた。


 いつの間にか全方角ぐるりと、黒服の男に囲まれている。


 何が起きているのか理解できなかった。


 ただ、俺を押さえつけている男には、見覚えがあった。


 マンションで上の階の女と寝ていたあの男だ。


「被験体E03619、実験続行不可能とみなし、移送します」


 それが俺が聞くことの出来た、最後の言葉だった。


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「――以上が実験調査の結果となります」


 会議場のような部屋の中、機械のように淡々とした声で、眼鏡をかけた男が言った。


「やはりそうだろう! こうなることは分かりきっていた!」


 興奮した様子で、円卓の一席に座っている太り気味な成金風の男が声を荒らげた。


「まったくだ。これほど時間と金の無駄だったことはない」


「火を見るより明らかとはこのことだよ」


「ナンセンスな実験だ」


 我も我もと続いて、会議の参加者である身なりの良い男たちがザワザワと騒ぎ出した。


「決議を」


 その中の一人が静かにそう言うと、場はシンと鎮まり、眼鏡の男が改めて発言した。


「それでは皆様、今回の結果を鑑みていただき、再度問います。

 透明薬、ミエナクナールの製品化は是か非か」


 パッと、眼鏡の男の背後にあったパネルに数字が表示された。


 是 1:非 99。


「決が出ました。ミエナクナールの製品化は今後不可。

 研究室及びその研究の一切についても抹消されます」


「ま、待て!」


 眼鏡の男の隣席でジィっと身を縮めていた、白衣の老人が突如叫んだ。


「待ってくれ……。これはきっと、きっと、サンプルが悪かっただけなんだ……!」


「見苦しいですよ、博士」


 身なりの良い男たちがまた口々に話し出す。


「そうです。全世界、各国600人、無作為抽出した人間で試したのです」


「また屁理屈を捏ねて、何百億という金を泡に消すおつもりですか」


「我々の資金も無限ではないのは、よくご存知でしょう」


「擬似的に透明化したように装い、行動を観察。その60%近くが犯罪行為に走った」


「気が触れた者もいた。これは由々しいことですぞ!」


「しかし!」


 博士は男たちの非難を遮るように机を握りこぶしで思い切り叩き、続けた。


「同じように半数は迷惑行為、犯罪行為に対する制裁などの善行を行い、

 あるいは透明化を解く方法を探すだけだったじゃあないか!

 透明薬開発の本懐は、善行の推進であると説明したでしょう?!

 我々は力無き正義に力を与えるために――!」


「結果として犯罪者が増えるのは明らかだろう!」


 博士の言葉を無情にも遮って、男たちは言い放つ。


「使用者の性質に依存する以上、開発側の意向など全くの無意味だ!」


「そうです。透明薬は犯罪を加速させる悪! これが結論です!」


「では、以上を以て閉会とします」


 ------------------------------


 こうして、稀代の発明をしたはずの博士は

 その研究もろとも、この世から姿を消すこととなった。


 世を儚んで、失踪か自死を選んだ。


 開発した透明薬を自分で飲み、今もどこかで生きている。


 透明薬の軍事利用を目論んだ某国のスパイの手により抹殺された。


 様々な憶測が飛び交ったが、真実は今もなお

 透明人間のように見えないままである。


『透明人間』完

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