後日譚 第9話 白バラと黒ユリ②

「我々は黒ユリのきみことユリシュナ閣下に忠誠を誓う狂戦士バーサーカー集団であります。


 偉大なるユリシュナ閣下の敵をありとあらゆる手で殲滅することは我々の責務であり、至上の喜びとしております。


 敵がたとえ親兄弟であっても、同じ釜の飯を食った友であっても閣下の敵とならば我らは躊躇なく武器を取る所存であります。


 ユリシュナ閣下の剣を振るうお姿、たとえ神ですらその美しさの前に平伏すことでしょう。


 ユリシュナ閣下の豪快に笑うお姿は、単に美しいという言葉では表現しきれません。ユリシュナ閣下の生命力溢れた笑顔に我々の心は鷲掴みであります。


 ユリシュナ閣下の振る舞われる料理に我々は胃のみならず脳も掴まれております!!


 ユリシュナ閣下がお菓子を作るのが趣味であるという話を聞いた我々は既に皇都の郊外の土地を購入し、小麦畑、牧畜、さとうきび畑を確保しております。これでいつでもユリシュナ閣下に材料をお渡しすることが可能であります。


 我々は閣下のもう一本の剣として閣下に永遠の忠誠を誓う者であります。


 ユリシュナ閣下に祝福あれ」


 息を切らすことなく一息でこれだけの長文を読み上げた男は周囲に目を向ける。


「いかがでしょうか? 次の総会でユリシュナ閣下を讃える檄文であります!!」


 やや蒸気した表情を浮かべて男が周囲の男達に意見を求める。


「すばらしい!! よくぞここまでの檄文を書き上げた!!」

「ああ、我々の心意気がこれほど込められた檄文は存在しない!!」


 惜しみない称賛の言葉に草案を書いたものは深く深く一礼する。


「白バラ会も着々と会員を伸ばしているときいた」

「ああ、千人を越えたという話だ」

「こちらの黒ユリ会の会員数は千人弱だ。本来競うものではないがユリシュナ閣下の魅力をどんどん広めていきたいものだ」


 男の言葉に全員が頷いた。ディアーネのファンクラブである白バラ会と黒ユリ会は別に仲が悪いわけではない。これはディアーネとユリが仲が良いことに起因する。


「諸君、次の総会は我ら黒ユリ会の結束を高めるのだ。それにはこの檄文が大きな鍵となることは間違いない」

「おお!!」


 一気に場の空気に熱が篭り始めた。


「諸君……今度の総会は気が抜けないぞ」


 その言葉に全員が力強く頷いた。




「ふえっくしょん!!」


 ユリが盛大なくしゃみをしてしまい。流石にディアーネが肩をすくめながら睨みつけた。


「す、すまん。そんなに睨むなよ」


 流石に恥ずかしかったのかユリは頬をかきながらディアーネに謝った。


「まったく気が抜けてるわよ。それにもうすぐ奴ら・・の縄張りよ」

「わかってるよ……」

「まったく……」

「それにしてもさ。私たち二人というのも久しぶりだよな」

「そうね。ヴェルティア様はシルヴィス様がいるから大丈夫だけど……どうして軍の方は今回参加してないの?」

「一年前に魔物の暴走スタンビートが起こったじゃないか」

「ええ、演習中だったユリの所属していた隊が殲滅したという事件よね」

「ああ、その戦いぶりが凄まじくてさ。一切の容赦なく切り伏せていく様を見たらさ……今回の任務には連れていけないなと思ってさ」

「なるほどね……確かにそれじゃあ今回は連れていけないわね」

「しっかし、みんないつもはまともなのに時々、狂戦士バーサーカーみたいになるんだろうね?」

「本当に不思議よね」

「そういう近衛の第一、第三の所属している連中も時々変なテンションになるよな?」

「そうなのよね? うちは護衛対象が桁違いに強すぎるからテンション上がり切ってもさほど問題にならないけど流石にあのテンションはおかしいわよね」


 ディアーネとユリはそう言って首を傾げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る