第190話 不協和音②
「シュレン様!!」
シュレンが私室に入ってすぐに六柱の神々が入ってきた。シュレン麾下の将達である。
シュレンの麾下には六柱の将軍がいる。全員が能力的にも人格的にも優れており、シュレンの信頼の厚い者たちだ。
「ディアンリア麾下のレペンを斬ったというのは
将軍の一柱であるディガームがシュレンへと問いかける。赤い髪を短く刈り込んだ戦歴豊かな将軍である。質実剛健を絵に描いたような男であり、部下たちに絶大な人気がある。
「その通りだ」
シュレンの返答には僅かな揺らぎも見られない。その揺らぎのなさにディガーム達は鼻白んだ。
「レペンを斬ったことの何が問題だ?」
「え?」
「ディガーム……私はこの度、対魔族の総司令だ。そうだな?」
「ぞ、存じております」
「それが答えだ」
シュレンの言葉に六柱の将軍達はその意図を図りかねているのか互いに顔を見合わせた。
「いや、すまぬ。あまりにも意地悪な返答であったな」
「い、いえ……どういうことでございましょう?我々はシュレン様のお考えが……」
「そう難しいことではない。私は他の神々に侮られているだろう?」
「そ、それはシュレン様の寛大さを理解することのできない愚か者ゆえでございます!!」
シュレンの言葉にディガームは大声で反論した。
シュレンはヴォルゼイス、シオルに次ぐ実力を持っていることは天界の中でも知れ渡っているのだが、その力を天界の者に振るうようなことは一切しない。
和を重んじるという精神性が時に侮られるということもあるのも事実であった。
だが、それはシュレンという神の一つの側面であることをディアガーム達は知っていた。
シュレンは
「私が寛大かどうかはこの際関係ない。問題は私を甘くみる者が天界の中に結構な数でいることだ」
「そ、それは確かにそうですが……」
「レペンを斬ったのはその者達への牽制のためだ」
「牽制ですか?」
「ああ、私の立場は間違いなく部下達に“死んでこい“と命令を下すものだ。私を侮るものがそんな命令を聞くか?」
「そ、それは……」
ディガーム達の返答は歯切れの悪いものである。シュレンの言葉はある種、真実であるのは間違いない。
命令違反の可能性があれば、そこを衝かれて全軍の敗北へとつながることなど多々あるのだ。それはたとえ神の軍隊であっても関係ない。
「しかし、ディアンリアが邪魔をする危険性があるのでは?」
そこにミューレイ将軍が発言する。ミューレイはまだ歳若くシュレンよりも少しばかり年上でしかない。黒髪短髪の貴公子然とした容貌をしている。
「だろうな。だからこそ……ディアンリアは父上の元に留め置くつもりだ」
「ヴォルゼイス様の……?」
「ああ、あの女は父上に御してもらう。その麾下のものたちは勝手な行動をとるかもしれんが魔族との決戦の場では
シュレンの言葉に六柱の将軍たちは頷いた。
「しかし、シオル様は……魔王キラトに勝てますかな……」
「何を言う!! シオル様が敗れるとは思えぬ!!」
「それは私もそう思う……だが、今のシオル様は片腕が……」
将軍達の言葉には若干の不安がある。将軍達は武人であり、その最高峰とも思える絶対的強者がシオルである。
ルキナとの戦いにおいてシオルは満身創痍で天界に戻り、しかも左腕は失ってしまったのだ。これは武人たちにとって衝撃であったのは言うまでもない。
『魔族の力を軽視することはできない』
これが六将の共通認識である。しかし、その共通認識を全ての天界の者達が有しているわけではなく、根拠なしに魔族を一蹴することができると信じている者達もいるのである。
「案ずるな。私はお師匠様の現在の実力を知っている。お師匠様の実力は左腕を失う前よりも強い」
「な……」
「信じられぬかもしれぬが確かだ。確かに魔王キラトの実力は強大だ。先代のルキナと遜色はないことは確かだ。だが、お師匠さまならば……な」
シュレンの言葉に六将は静かに頷く。
「そして……キラト以外にも侮ることのできない相手がいる」
「今回、シュレン様と戦った少女ですな?」
「ああ、そして……シルヴィスとヴェルティアだ。あの二人の分身体と戦ったことがあるが恐るべき手腕だ。それにシルヴィス達は
「確かに油断できぬ相手です」
「だからこそ、
シュレンの言葉に六将達は複雑な表情で頷いた。
「既に……
「随分と高く買ってますな?」
「ああ、あの男は私と
シュレンの言葉に六将はゴクリと喉を鳴らした。
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