第180話 神魔大戦前夜①

 宣戦布告が行われて魔族と神族は本格的な戦争状態に入った。


 両陣営は互いに諜報員を送り込み情報を集めている。ヴォルゼイスは千里眼イグトーラがあるが当然ながらキラト達は、魔城フェイングルス全体には対策の術式を施しており対策をしている。


 そのために神族も諜報員を魔族の領域フェインバイスへと送り込んでいるのである。


「キラト」

「新しい情報か?」


 キラトの問いかけにシルヴィスは頷いた。


 天界への諜報はシルヴィスも行っており、以前人形を送り込んだ際に術式を仕込んでいたことが功を奏したのである。


 シルヴィスの送り込んだ人形からもたらされる情報は、ほぼリアルタイムでキラト達へにもたらされるために戦略立案に大きく貢献している。


 もちろん諜報員達も動いているために常に決定的な情報というわけでは無いのだが、それでも貢献しているには違いない。


「物流に変化が現れ始めている。武具や食料などの価格が落ち着きを見せ始めているんだ」

「軍需物資の確保が終わったというわけか……」

「ああ、さらに言えば街に流入している兵士達が減ってきている」

「そうか……総動員の構えということか」


 キラトは難しい顔を浮かべる。


 天界の軍は神、天使、奴隷兵士リュグールで構成されている。奴隷兵士リュグールとは神の作った人造人間達であり、天使達の元で肉体労働に勤しむ者達だ。

 天使同様に両性具有であり生殖能力を有しない。知性も低く単純労働のみしか行うだけの能力を有していない。

 それでも、人間の兵士よりも遥かに強い。しかも命令には絶対に従うのである意味、最高の兵士と言える。


「本格的な侵攻は近いと思うぞ。天使だけかと思っていたが、奴隷兵士リュグールというのはとにかく意思がないから厄介だ」

「意思なき人形は時として大きな脅威になるからな」

「死の恐怖がない。殺すことに躊躇いがないというのは兵士としては扱いやすいな」

「お前は死の恐怖を煽ったりしてそこにつけ込むからな」

「戦いにおいては死の恐怖を煽るのが手っ取り早いからな」


 シルヴィスの返答にキラトも頷く。


「だが、命令に従うだけだから……な?」

「ああ」


 シルヴィスの言葉にキラトは意味ありげにニヤリと笑う。


「天使共は意思があるからかからないようなことでも奴隷兵士リュグールならかかるだろうな」

「それに奴隷兵士リュグールは消耗品だという位置づけなら余計にな」

「だが、天界の連中は奴隷兵士リュグールをどうして動員したんだろうな?」


 キラトの疑問はシルヴィスも思っていたことである。


 天使と違い奴隷兵士リュグールは飛行能力を持たない。少数であれば天使が運ぶのも可能だろうが、数が多すぎるのだ。


「そうだな……数というのはやはり力であるのは間違いない。魔族の軍勢を甘く見てないということかな」

「それもあるかもしれんな。シルヴィスは神族の数はどれほどと見ている?」


 キラトの問いかけにシルヴィスは少しばかり考え込む。


「そんなに多くない……おそらくは百ほど……」

「根拠は?」

「軍勢の規模だ。俺の見たところ、天界の軍勢の数は五十万と言ったところだ。神族は間違いなく将軍クラスの地位だろうから、一万の兵を率いるとして、その軍の将と副将という感じかな」

「なるほどな……天使は?」

「天使は五〜六万といったところかな」

「そちらの根拠は?」

「用意されている物資の量からの逆算だ。奴隷兵士リュグールが使うと仮定して大体四十五万くらいとなってな」

「それ以上の可能性は?」

「もちろんあるさ」

「だよなぁ〜」


 キラトは両手を組んで後頭部に置くと椅子の背もたれに体を預けた。


「今回、会戦が行われるとして……八個軍団を動員か?」

「ああ、相手が五十万となれば八個軍団を投入しないといかんな」

「別働隊がいた場合は?」

「それは当然ながら想定してるさ。新設した二個旅団は魔都エリュシュデンの防衛に回さざるを得ない。それが限界だ」

「別働隊に対処するために主力を割いた結果、主戦場で敗れたら意味がないからな」

「そういうことだ。全てを網羅することはできない以上、仕方ない」


 キラトの声にはため息をつきそうな響きがある。


「心配するな。その場合は俺がなんとかするさ」

「おやおや、お優しいことでメインの仕事に差し障りがあるんじゃないのか?」


 キラトはニヤリと笑いながら言う。


「なぁに……肩慣らしには十分だよ」


 キラトの笑いにシルヴィスもニヤリと笑って返した。


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