第142話 閑話 ~切り捨て~
「ディアンリア様、至急申し立てすべきことが……」
ミラスゼントが恭しくディアンリアへ奏上する。
「わかっておる。
「はっ」
「ふむ、
ミラスゼントはディアンリアの思案を邪魔するような事はしない。ただ、上位者であるディアンリアが決定するのを待つのみだ。
「始末するのが確実かしら……」
「それでは?」
「そうね。始末する事にしましょう」
ディアンリアの声は生命を奪うことへの躊躇など一切ない。ディアンリアにとって人間など使い捨ての道具であり、放っておいてもそこら辺から生えてくる雑草という認識なのだ。
増して、レンヤ達は異世界の者であり、雑草以下の認識であるのは間違いないのだ。
「承知いたしました」
ミラスゼントは恭しく返答するとクルリと振り返るとそのまま歩き出した。
「待ちなさい」
「はっ」
ディアンリアが呼び止めるとミラスゼントは再びディアンリアへと対面した。
「ラフィーヌ達も一緒に始末しなさい」
「は? それはエルガルド帝国の弱体化を意味しますがよろしいのですか?」
「ええ、構わないわ。エルガルドはもう用済みよ」
「承知いたしました。ラフィーヌ達もまとめて始末いたします」
「ふふ、頼むわ」
ディアンリアの言葉は既にエルガルド帝国を切り捨てていることを示している。
「はっ……それでは」
ミラスゼントは一礼すると今度こそディアンリアの前から歩き去った。
「ふふふ、シオルはルキナとの戦いで左腕を失った……もはや恐るに足らぬ。あとはシュレンがいなくなれば……ヴォルゼイス様の隣に座ることができる」
ディアンリアは小さく笑う。ディアンリアの部屋は認識阻害の術式を施しており、盗聴などを行うことはできない。
「エルガルドの次はどこにしようかしらねぇ」
ディアンリアは空中に幾つかの国名が浮かび上がった。文字がくるくると回り出しディアンリアはその中の一つの文字を無作為に掴んだ。
「ディークエンスね。小さい国だけど、遊び相手としてはふさわしいかもね」
ディアンリアの表情は嗜虐的な笑みである。容貌の美しさなど表情の醜さの前には容易に塗りつぶされるという実例がそこにはあった。
「シルヴィス……お前のせいで国が一つ消える。ふふふ、それを伝えればあの男はどんな顔をするかしら」
ディアンリアはさらに表情を歪めた。シルヴィスがエルガルド帝国の滅亡の原因であることを本人が知れば大いに悩むと考えたのだ。それを思うとディアンリアとしては歪んだ笑みを止めることはできない。
その姿はまさに悪神と呼ぶにふさわしいものであった。
* * * * *
「ディアンリア様がそんなことをなさるわけはない……あの男の出まかせよ」
ラフィーヌは口元を引き締めて呟いた。
「ラフィーヌ様……レンヤ様達が戻ってきた場合、どうされるおつもりですか?」
「……難しい問題ね。他のものに連れ去られたと言うのならばともかく……あの男が関わっている以上、そばに置くのは危険すぎるわ」
「……はい」
「しかし、救世主の実力は軽視する事はできない……」
「はい」
ラフィーヌの傍でアルマは苦渋に満ちた表情で返答した。レンヤ達がシルヴィスに連れ去られたことはラフィーヌにとって痛恨の出来事であった。
(あの男のせいで……ラフィーヌ様がここまで憔悴してしまっている)
アルマとすれば現在のラフィーヌの苦労はシルヴィスがもたらしたものである。シルヴィスのせいで
「アルマ……我が国はこれからどうなるのかしら……」
ラフィーヌは疲れた声で告げるがアルマは答える事はできなかった。
ラフィーヌは自分達がディアンリアに切り捨てられたことをまだ知らない……。
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