第141話 閑話 ~ヴォルゼイスとシオルの語らい~
ルキナとの激闘を終えたシオルは天界へと帰還した。
当然のことながらシオルの姿を見た天使達は慌ててシオルの治療を行った。シオルは歩けるようになるまで一週間もの時間がかかった。
天界においてシオルの実力はヴォルゼイスに匹敵するほどのものであり、そのシオルが一週間もの時間歩けないほどのケガを負わされる事は当然のことながら展開を震撼させた。
シオルのケガが魔王ルキナとの戦いの結果であることが知れると、天使たちの中に魔王ルキナの強さに戦慄せざるを得ない。それは例えシオルが勝利し、ルキナが死んだと言うことを知ったからといって和らぐことではない。
つい先日、シルヴィスが送り込んだ人形たちにより、少なくない被害が出た事は天使達にとって一種の
「ヴォルゼイスに会いたい。取り次いでくれ」
「はっ!!」
シオルの言葉に天使は直立不動で答えるとそのまま中に入っていった。
しばらくして天使が中から現れると跪き恭しくシオルへ告げる。
「お待たせいたしました。どうぞお通りください」
「うむ」
シオルは天使に一声告げると中へと入っていく。
玉座の間に入ると玉座に座るヴォルゼイスの姿が目に入る。
「もう動けるようになったか」
「ああ。左腕は失くしたがな」
「そうか……」
シオルの言った通り、シオルの左腕は二の腕の半ばから失われたままであった。ルキナとの戦いで失った左腕は天界の医療技術を持ってしても再生させることができなかったのだ。
ルキナの最後の一撃はただの斬撃ではなく何らかの術が込められていたようであり、何とか傷口を塞ぐ事はできたが、左腕の再生まで行えなかったのである。
「やはりルキナは強かったな」
「ああ、千年前に戦った時よりも遥かに強くなっていた」
「そんな相手に勝てるとすればやはりシオルガルクだけだな」
「病が……いや、なんでもない」
「ふ……」
シオルがルキナを病に蝕まれていた事に思い至りヴォルゼイスに告げようとしたがそれはルキナへの侮辱であると考えて告げるのを思いとどまったのだ。そしてヴォルゼイスもそれを察し、触れる事はしなかった。
「ルキナも逝った……随分と寂しくなったものだな」
「ああ、だがそれも仕方がない」
ヴォルゼイスは一言で切って捨てたようであるが、声に込められた感情がそれを裏切っている。ヴォルゼイスがルキナの死を悼んでいるのは確実であることをシオルは確信していた。
ルキナという存在はヴォルゼイスもシオルも大敵であると同時にどこか親しい友であるような複雑な相手であったのだ。
「シオルガルク……何か吹っ切れたかのような感じだな」
「わかるか?」
「ああ、今のお前からは焦りというものが感じられない。何か……」
「お前のいう通りだ。俺は目的を
シオルの告げた言葉にヴォルゼイスは静かに目を閉じる。
「そうか……良かったな」
ヴォルゼイスは目を開けると明るく告げる。その言葉にシオルは嬉しそうに笑った。
「ああ、そして……新たな目的が生まれた」
「ん?」
「ルキナの子であるキラトとの勝負だ」
「敵討ちというわけか……」
「いや、単なる敵討ちじゃない」
「どういうことだ?」
シオルの言葉にヴォルゼイスは訝しがる。
「キラトは俺に勝つことで父ルキナを超えたいのだろうな」
「それは……目的達成は中々大変そうだな」
「ああ、左腕がなくなった状況で剣帝……いや魔王キラトと戦わねばならんのは相当骨が折れる」
「楽しそうだな」
シオルの表情を見たヴォルゼイスは苦笑を浮かべながら言う。シオルは明らかにキラトとの勝負を楽しみにしているようである。
「ああ、楽しみだ。純粋な勝負こそ熱くなれるものはない」
「そうか」
「ヴォルゼイス、お前の目的も遠からず果たされる」
「そうか……それは誰によってだ?」
「わかってるだろう?」
「ああ」
ヴォルゼイスはシオルの問いに満足気に頷いた。
「さて……報告は終わりだ」
シオルはクルリと後ろを向くと歩き出した。
「もう行くのか?」
「ああ、キラトとの戦いに備える。まずは左腕を失ったことによって狂った重心を修正する」
シオルは振り返る事なく言うとそのまま歩を進めて玉座の間を出ていった。
「良かったな……シオル。これを
ヴォルゼイスの呟きはどことなく嬉しい響きがあった。
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