第135話 再会⑩
エルナの無傷という言葉通り、シルヴィス達四人は平然とした姿を見せていた。
「あ、ありえない……私の
エルナの言葉にラフィーヌ達も言葉を失っている。エルナの
「大体、アグナガイスの放った小型の太陽と同程度の威力だったな」
「そうですね。中々の実力ですよ。あの魔術師さん」
「
シルヴィスとヴェルティアの会話には危機感というものが完全に欠如している。もちろん、油断という心境からはほど遠いものだ。実際にエルナが再び魔術を放っても即座に対応できるように備えている。
「しかし、アグナガイス程度の魔術ではな」
「そうですね。どうします?」
「それじゃあ。あのレンヤとヴィルガルドの実力を確かめてみるか」
シルヴィスはそう言ってレンヤ達に視線を向けると二人は剣を抜き構えた。
「一体どうやって!! 私の
そこによほど納得いかなかったのだろうエルナがシルヴィス達へと叫んだ。
「 言うと思ってるのか?」
「え?」
シルヴィスの返しにエルナはあっけに取られた。シルヴィス達は特別なことをしたわけではなく防御陣を周囲に展開しただけである。純粋に実力の差によりエルナの術では突き破れなかっただけなのだ。
ちなみにあの瞬間に防御陣を展開したのはシルヴィスとディアーネである。ディアーネに至ってはあの瞬間に五枚の防御陣を展開している。シルヴィスの張った防御陣の外側に五枚を瞬時に張り、計六枚の防御塵が展開されたのだ。
ただ四枚までの防御陣は破られたのだが、表面上には無傷で凌いだようにしか見えないのだ。
「君の魔術は相当なレベルなのは確かだが、俺たちには通じない
ここでシルヴィスはエルナに対して揺さぶりをかける。単にエルナの放った魔術の破壊力よりもディアーネの防御陣の防御力の方が上回ったというだけなのだが、シルヴィスの言葉では特殊な能力を使ったと思うのである。
「そ、そんな……」
エルナの悔しそうな声にシルヴィスは思い切り傲岸不遜な表情を浮かべる。もちろん演技ではあるのだがエルナには効果があったようで明らかに恐怖感が高まった。
「さて、ヴェルティア」
「ん?何ですか?」
「ここからは俺にやらせてくれ」
「いいですけど……帝都の皆さんを皆殺しにするのは感心しませんよ」
「お前は俺を何だと思ってるんだよ」
「え? 言っていいんですか?」
「いや……お前とここで喧嘩するわけにはいかんからな」
「え〜私はいつでも受けて立ちますよ!! というよりも元々それが目的なんですから私は一向に構いません!!」
「アホ!! ここで俺とお前が喧嘩すればこの国が巻き添えで消えるだろうが、お前がさっき言ったことと矛盾するだろうが」
「あっ!!それもそうですね!! 私には及びませんがシルヴィスもかなりの知恵者ですねぇ〜」
シルヴィスとヴェルティアのやりとりにエルガルド側は呆気に取られている。緊張感と無縁のやりとりと両者の喧嘩でこの国が消えるという内容は現実感がなさすぎるものだった。
しかし、エルガルド側の面々はそれが真実であるということを理屈抜きに真実であることを理解していた。
「さて、キラトは別にお前達を殺すつもりはなかったが、お前達の方から仕掛けてきた以上こちらも受けてたつことにしよう……」
シルヴィスの言葉にラフィーヌはビクリと身を震わせた。シルヴィスの言葉は激しいものではない。だが、シルヴィスと自分達との格の違いを察してしまったのだ。
「さっきの攻撃は突発的なものではなく明らかに仕掛けられていたわけだ。最初から俺たちを殺すつもりだったわけだ」
シルヴィスが一歩踏み出すと貴族達は顔を青くした。
「待て!!」
レンヤが剣を抜きラフィーヌの前に立った。ヴィルガルドも同様にレンヤの隣に立つ。
「そうくると思ったよ。まったくこの拉致被害者達は奴隷根性が徹底してるよ」
「黙れ!!」
「安心しろ……お前達は拉致被害者だ。だから殺すようなことはしない。だが、キラトからの依頼を考えると……これが一番だと判断した」
「な、何だと?」
レンヤの疑問にシルヴィスは答えることなく間合いを詰める。会話の途中で動くというのはシルヴィスにとって基本中の基本の戦術だ。
シルヴィスにとっては基本だが、レンヤにとってはそうではなかったのだろう。まったく対応出来ずにレンヤはシルヴィスの侵入をあっさりと許してしまった。
間合いに入ったシルヴィスは腕をしならせて目打ちをレンヤの顔面に放った。
ビシィ!!
シルヴィスのしならせた指がレンヤの顔面を捉え、第一関節が目に当たった。この痛撃にレンヤはよろけてしまう。
追撃を行おうとした瞬間にヴィルガルドが横薙ぎの斬撃を放つ。横薙ぎの斬撃を放ったのはシルヴィスを飛び退かせてレンヤの回復を行うつもりなのだ。
(こっちはやはり素人じゃないな)
シルヴィスは
「はぁぁぁぁ!!」
ヴィルガルドはそのまま斬撃を立て続けに放つ。袈裟斬りから胴薙ぎ、切り上げからの打ち下ろし、そして突き。凄まじい速度で放たれた五連斬であったが、シルヴィスは余裕で躱した。
「く……」
ヴィルガルドはシルヴィスが余裕で自らの斬撃を躱された事にシルヴィスの底知れぬ実力をみた思いであった。
「くそ!!」
目の痛撃がおさまったレンヤもシルヴィスへの攻撃に加わる。シルヴィスの右側に回り込んだレンヤはシルヴィスへ脇腹を切り裂きにかかる。
(ほう……こっちもそれなりの実力を身につけたようだな。こいつもあの天使長くらいの実力はありそうだな)
シルヴィスは二人から絶え間なく放たれる斬撃を
(こいつ……わざと紙一重で躱してやがる)
ヴィルガルドはシルヴィスがわざと二人の斬撃を紙一重で躱している事に気づくと悔しさのあまりギリッと奥歯を噛み締めた。
(こっちは気づいたか……レンヤだったけか……こっちはまだだ)
シルヴィスはヴィルガルドが自分がわざと紙一重で躱してる事に気づいたのを察知した。
(現時点で一番強いのはこいつ……あっちの魔術師も相当なものだが、こいつには及ばない。レンヤは戦闘技術だけでなく全般的に拙いな)
シルヴィスは小さく笑う。その笑いを見たレンヤは余裕と受け取ったのだろう。怒りの表情が浮かんだ。
「舐めやがって!!」
レンヤは怒りのために斬撃が大ぶりになった。それはシルヴィスにとって絶好の隙でしかない。
バキィ!!
シルヴィスの右拳がレンヤの顔面を捉えた。その一撃にレンヤはのけぞった。シルヴィスはレンヤの首に右腕を引っ掛けてくるりと背後に回り込むとそのまま頸動脈を締め上げた。ほぼ一瞬でレンヤは意識を失った。
「レンヤ!!」
エルナは杖に魔力を込めてシルヴィスに殴りかかってきた。魔術が通じないとハンダしたゆえの行動であろうが、それは悪手であるのは間違いない。
「へぇ〜」
シルヴィスはエルナの放つ打撃が相当訓練されたものであることを察した。並の実力者であれば打ち倒せるのは簡単であろう。しかし、シルヴィスは明らかに並ではない。
身体能力だけでなく、戦闘に関する容赦の無さもだ。
シルヴィスは意識を失ったレンヤの顔面を自分の前に突き出した。
「な……」
シルヴィスの思わぬ行動にエルナは慌てて振り下ろした杖の軌道を逸らした。軌道が逸れた杖はそのまま床にあたるとその一撃は城の床を打ち砕いた。
凄まじい破壊力であるが、シルヴィスにまったく乱れることはない。シルヴィスレベルになれば動揺する程度のものではないのだ。
「よっ……」
シルヴィスはエルナの延髄をスコンと一撃するとエルナの意識は失われた。エルナが意識を失い頭から落ちるのを襟首を掴んで激突を防ぐ。
「く……そ!!」
ヴィルガルドは仲間二人が意識を失ったのを見て、怒りの斬撃を繰り出してきた。シルヴィスはヴィルガルドの斬撃を躱すとレンヤとエルナを掲げているとは思えないほどの速度でヴェルティア達の傍に立った。
「この二人を介抱しておいてくれ」
シルヴィスはヴェルティア達に二人を渡すとヴィルガルドに視線を移した。
ドン!!
シルヴィスは容赦なく人差し指に魔力を込めて圧縮してヴィルガルドへと放った。
「くっ!!」
ヴィルガルドは放たれた魔力の弾丸を咄嗟に躱した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
背後で絶叫が響き渡る。ヴィルガルドの躱したシルヴィスの弾丸が背後にいた貴族の腕を吹き飛ばしたのだ。
しかし、ヴィルガルドは絶叫が響き渡った事でまったく意識をそちらにもっていくことはない。シルヴィスから意識を逸らすことはなかったのだ。
(やはり……戦い慣れしてるな)
背後で絶叫が響き渡り、周囲の貴族達が慌てて腕を吹き飛ばされた貴族を助けようと駆け寄っているが、ヴィルガルドは一切逸らさないのは相当なレベルであることは間違いない。
(じゃあ、これで行くか)
シルヴィスはほぼ一瞬で魔術を構築するとラフィーヌの周囲に結界を張った。その際に護衛の騎士達の手足が寸断された。
「ぎゃあああああああ!!」
「がぁぁぁぁぁ!!」
巻き込まれた二人の哀れな騎士の絶叫が響く。
「出しなさい!! 何のつもり!!」
ラフィーヌの怒りの声が周囲に響く。ラフィーヌが狙われた事に周囲の貴族達の動揺は最高潮になった。
「こういうつもりだ」
シルヴィスはニヤリと笑うとラフィーヌを閉じ込めた結界内部に大量の水を発生させた。
ほぼ一瞬でラフィーヌは水中に閉じ込められた。自分の置かれた絶望的な状況を察したラフィーヌは恐怖の表情を浮かべた。
「ラフィーヌ様!!」
これには流石にヴィルガルドもシルヴィスから意識を逸らしてしまった。シルヴィスはその瞬間に一本拳をヴィルガルドの顎へ放つ。放たれた一本拳はヴィルガルドの顎を直撃し、その衝撃は脳を激しく揺さぶるとヴィルガルドは意識を失った。
「よっと……」
シルヴィスはエルナ同様に床に頭を打ち付ける前に襟首を掴むと再びヴェルティア達の元へと跳んだ。
「あの人はあのままですか?」
ヴェルティアが苦しそうにもがいているラフィーヌを指差して言う。声の調子から別に心配していないのは明らかだ。
「個人的にはそのまま溺れて消えてもらいたいんだけどな。今は殺すと面倒だ」
シルヴィスはそう言ってパチンと指を鳴らすとラフィーヌの周囲に張り巡らされていた結界が砕け散るとそのまま大量の水が流れ出た。
「ゴホゴホ!!」
死の危険から解放されたラフィーヌはシルヴィスを見るがその目には明らかに恐怖が含まれていた。
「炎じゃなくて水を入れたことを感謝しろよ」
シルヴィスの言葉にラフィーヌはゴクリと喉を鳴らした。シルヴィスの言う通り炎であればそのまま焼け死んでいたのは間違いない。そのことを実感してしまったのだ。
「その三人をどうするつもり……?」
ラフィーヌの言葉には最悪の事態を恐れる響きがある。ラフィーヌの想定する最悪の事態とは言うまでもなく三人がこの場で殺されることだ。
「さっきも言ったろ。この三人は現時点で殺すつもりはない。だが、エルガルド帝国から取り上げようとは思ってる」
「何をするつもり?」
「簡単なことだ。お前らがやったことと同じことをする」
「私達と……ですって?」
「ああ、拉致して
シルヴィスの宣言にラフィーヌの表情が凍った。
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