第121話 暁星となるのは……ルキナか?シオルか?

「さて……」


 ルキナは手をかざすと烈火爆炎衝レギスエインスを立て続けに放つ。圧縮された火球は対象物に触れると圧縮から解放されその強烈な熱を発するのである。


 ドゴゴォォォォォォオ!!


 ルキナとすればもちろんこれでシオルを倒せるなど思っていない。少しでも消耗させることができればという考えからである。


 ドパァァァァァン!!


「この程度ではダメだな」


 炎が弾かれたかのように散るのを見てルキナは呟いた。その声には失望よりも弾んだものがあるのは不思議ではない。ルキナほどの実力者になれば全力を出す相手は非常に限られている。練りに練った自らの実力を解放することができるというのは純粋に楽しいのだ。


「それが……魔剣ヴォルシスの本当の姿というわけか?」


 シオルは額から血を滲ませ、服も所々が焦げている姿であるが、その声は力強い。そして、確かな喜びの感情があった。


「ああ、解説させてもらえれば魔剣ヴォルシスは俺の魔力を形にするものだ」

「この神剣ヴァルジオスはオリハルコン製……それが溶けるとはな。お前の魔力のすさまじさがわかるというものだ」

「こっちは切り札を切ったんだから、そっちも切ったらどうだ?」


 ルキナの言葉にシオルは顔を綻ばせる。


「気づいていた……か」

「まぁな。俺の基本的な考えは俺のできることは他者にもできるものがいるというものでな」

「お前のようなことができるものはほとんどいないと思うのだがな」

「技量の使い方に個性は出るが、技量自体に個性などないさ」

「ふ……同感だ」

「それで? お前はどんな切り札を切ってくるつもりだ?」

「まぁ……二番煎じみたいで披露するのは少し恥ずかしいがな」

「そうか……」


 ルキナの言葉にシオルは神剣ヴァルジオスの刀身へヒビが入り始めた。まるで刀身の中から何かが生まれ出るようであった。


 ガシャャャン!!


 シオルの持つ剣が砕け散ると中から光の刀身が現れた。


「なるほど……同じだな」

「まぁな、俺とお前の思考は結構似ているから行き着くとも変わらんさ」

「その割には結構驚いてな」


 ルキナの言葉にシオルは笑った。


「そういうな。いくら何でもオリハルコンを溶かすことができるなんて思わんだろ」

「そんなに褒められるとテレるんだがな」

「ああ、褒めてるよ。お前はやはり強い」


 シオルの声にはルキナへの惜しみない称賛が含まれている。


「さて……武器は互角と考えてもいいな」

「ああ」

「では……技の勝負だな」


 ルキナはシオルの懐へと踏み込むと胴薙ぎから逆袈裟の斬撃、そこから首薙ぎへの斬撃を放つ。


「やはり見事だな。一瞬でこれだけの斬撃を三閃……しかもまだまだ余裕がある」

「お前もあっさり躱すなよ」

「ふ……」


 今度はシオルが動く。シオルの斬撃は首薙ぎ、袈裟斬り、胴薙ぎであり、ルキナの放った一連の斬撃を逆にしたものだ。

 ルキナもシオル同様に放たれた斬撃を全て躱した。


「そちらもな……しかし、意外とお前は意地が悪いな。わざわざ俺のやった斬撃の逆をやるなんてな」

「知らなかったのか? 俺は性格が悪いんだよ」

「ふ……」


 シオルの返答にルキナは笑う。そして二人は同時に動いた。


 ルキナとシオルは凄まじい速度で斬撃を繰り出す。先ほどよりも明らかに一段階質の高い斬撃の応酬がはじまったのだ。先ほどまでの斬撃であれば躱すという対応が可能であったのだが、今の両者から放たれる斬撃はそれを可能にできないものであった。

 放たれた斬撃を躱し切れると有利になるのだが、両者の斬撃はそれを許さない。手にした愛剣で受け流し、できない斬撃は受ける。必殺の斬撃を放つため、致命的な一撃を避けるために絶え間なく動き続ける。


 シュン……


 両者は絶え間ない斬撃の応酬を行い。躱しきれなかった小さな切り傷が両者に刻まれ始めている。


 ルキナの呼吸に乱れが生じたのをシオルは察した。


(……そういうことか)


 シオルは心の中で苦く・・呟いた。


(どうやら気付かれたようだな……)


 ルキナは一瞬であるがシオルが動揺を示したことに気づいた。


(長引けば長引くほど……勝利は遠のく……ならば!!)


 ルキナは魔剣ヴォルシスに極限まで魔力を込めるとシオルの剣に触れた瞬間に一気に解放した。


 その瞬間、ルキナとシオルを中心に大爆発を起こし、魔煌殿を崩壊させた。



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