第110話 暗躍⑧
ミルケンはスティルの間合いへと飛び込むと、手にした戦槌を振るう。
「く……」
スティルは魔力を右腕に集中するとミルケンの一撃を防いだ。スティルはミルケンの戦鎚の一撃の威力に顔を歪めた。
(何という一撃だ。それに戦鎚をこの一瞬で取り出すとは……恐ろしい手練れだ)
ミルケンがスティルの間合いに入り攻撃を繰り出すまでにかかった時間は一秒にも満たないものだ。その間に戦鎚を異空間から取り出し、淀みなくスティルに一撃を放ったのだ。
「はぁ!!」
スティルはミルケンの戦鎚を掴むと同時に前蹴りを放った。
ドゴォ!!
「ぐ!!」
今度はミルケンの顔が歪む。スティルが戦鎚を掴んだことで一瞬だがそちらにミルケンの意識は向かってしまった。その隙をスティルは見逃さなかったのだ。
「やるな……さすがは第四軍団長というところだな」
「お前もな」
スティルとミルケンは言い終わると同時に動く。
互いに強敵と認めざるを得ない力量をもつ者として戦いに臨む。
ミルケンは戦鎚を横薙ぎに放つ。スティルは間合いを潰すために踏み込むとそのまま右拳をミルケンへと放った。
凄まじい速度で放たれたスティルの右拳をミルケンは顔をよじって躱すとミルケンは右膝をスティルの腹部へと放つ。今度はスティルが左腕で右膝を受け止めた。
ほんの一瞬で何度も目まぐるしく攻防が入れ替わった。
バキィ!!
一際大きな破裂音がするとスティルとミルケンは互いに吹っ飛んだ。両者は倒れ込むようなことはせず、互いに睨み合った。
睨み合いも長い時間ではない。両者は再びぶつかり合う。
(ミルケンと互角か……魔族というのも存外強者はいるものだな。あまり時間はかけれん……)
ソールは心の中でニヤリと嗤う。
(さて……行くか)
ソールは気配を完全に消し、両者の激突する空間へスルリと入りこむ。並の力量の持ち主ではスティルとミルケンの戦いの余波に消し飛ばされてしまう。しかし、ソールは、両者の間で応酬される必殺の攻撃に当たるようなことはない。ソールもまた天界有数の強者に数えられる者なのだ。
シュン……!!
ソールの剣が静かに……しかし、スティルの腹部を斬り裂いた。
「ぐ……」
スティルの口から血が溢れ出した。そこにミルケンの戦鎚の一撃が脇腹へとめり込んだ。
「が……」
スティルはミルケンの強烈な一撃のために吹き飛ぶと地面に叩きつけられた。
「ソール様、お手を煩わせて申し訳ありません」
ミルケンはソールに跪くと謝罪を行った。
「お前との戦いに集中していたから楽に始末できた。ミルケン、とどめを刺しておけ。これで剣帝キラトを討つため……」
ソールとミルケンは横に跳ぶ。その数瞬後、二柱の居た所に数本の
「何者だ!!」
ミルケンの鋭い声が発せられたが、返答はない。
代わりに凄まじい速度でミルケンの間合いに飛び込んだ何者かがそのまま拳を放った。
キ……ィィィン!!
ミルケンは影の放った拳を戦鎚で受ける。
「な……にぃ」
ミルケンの口から驚きの声が発せられた。自らの愛用の戦鎚がぐにゃりと曲がっていくのを見たからだ。そして影の一撃は勢いを殺すことなくミルケンを吹き飛ばした。
「お〜まさか仕留め損なうとは思いませんでした。中々やりますね。真面目にやるとしましょう」
能天気な印象を受けるような明るい声であるが、妙に声に迫力があり、ミルケンの頬を汗が伝う。
「初めまして、私はヴェルティアと言います。さて自己紹介も終わりましたので早速始めるとしましょう!!」
ヴェルティアはニヤリと笑ってミルケンへと突っ込んだ。
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