第107話 暗躍⑤
シルヴィス達により黒装束達は全て倒された。何体かの黒装束達は跪くと頭を垂れて命乞いをした。
シルヴィス達は心折れた黒装束達を一箇所に集めると尋問を開始した。
「お前達が天界のものであることはわかっている」
シルヴィスの言葉に黒装束達は目を泳がせた。黒装束達は正体を隠すために黒装束を身につけていたのにシルヴィス達はあっさりと看破されたのだ。
「お前らの知性に俺は何の期待もしていない。だからこそ一度告げておかないといけない。今からいくつか質問する。嘘をつきたければついても構わない。……ただし」
シルヴィスの次に発せられた言葉は黒装束達の誇りを傷つけるに十分すぎるほどの言葉であったが、シルヴィス達の次の言葉に注意を払う方が重要であったのだ。
「俺達のうち誰か一人でも嘘と判断したら
シルヴィスの言葉に黒装束達はゴクリと喉を鳴らした。
「当然だが、お前達が襲った方々もその判断には加わってもらう。この方達は同僚が亡くなっている。当然仇であるお前達に容赦をすることはない。殺したくてウズウズしていることを忘れるなよ」
シルヴィスの言葉に黒装束達は自分達に注がれる殺意のこもった視線に震え上がった。
護衛の中には運よく治癒が間に合った者もいたが、既にこと切れていた者達もおり、怒りがいつ爆発してもおかしくない状況であった。
シルヴィス達が一体も逃さないために結界を張るのに時間がかかった事で治癒を行う時間が遅れたのは事実であり、失敗と言えるだろう。だが、シルヴィス達にしてみればここで天界の手のものを逃す方が遥かに後々、災禍を招くと判断したのだ。
「さて……お前達の他のターゲットは誰だ?」
シルヴィスの問いかけは黒装束達にとって喉を鳴らすのに十分すぎるものであった。
「さぁな……知ら……ぐぁ!!」
黒装束の一人が不敵な声で答えた瞬間にシルヴィスが黒装束の顔面を掴むとそのまま持ち上げた。
「ありがとう。お前のようなアホのおかげで俺が本気だということが他のアホ共に示せるよ」
シルヴィスは妙に優しい声で言い放つと魔法陣が掴み上げられた頭上に描き出された。
他の黒装束達はシルヴィスがどのような術を展開しようとしているのかが気になるというものだ。しかも、シルヴィスの前の言動から自分達に容赦をするとは思えなかったのだ。
頭上に描き出された魔法陣から黒い霧が掴み上げられた黒装束にまとわりついていく。
「ひぃ!!」
シルヴィスが手を放つと黒い霧にまとわりつかれた黒装束はのたうち回った。
「うわぁぁぁぁぁ!! やめてくれぇぇ!!」
黒装束が絶叫を放つ。間違いなくまとわりつく黒い霧が原因だ。黒装束達は仲間ののたうち回る様を見て完全に凍りついたように動かない。黒装束達は苦痛に対抗する訓練を受けていたのに関わらず仲間ののたうち回る様は、耐えれないものであることを察するには十分な光景であった。
「さて……しばらくアホが受けている報いを楽しんでくれ」
シルヴィスの言葉には全く慈悲というものが欠けている。
「あれは……何ですか?」
護衛の一人がシルヴィスに恐る恐る尋ねた。
「
「第一?」
「ええ、第二段階は蟲達は周囲の栄養素を摂取していきます。発狂するほどの苦痛でしょうが麻痺のためにのたうち回ることもできずにそのまま苦しみます。もちろん意識はそのままです。そして第三段階で繁殖し、孵った幼虫達が成虫になり宿主の体を食い破って出てきます。大体3時間程で宿主は最大限の苦痛を受けたまま死に至りますね」
シルヴィスの何ともないような声色に護衛もゴクリと喉を鳴らした。
「お……効いてきたな」
シルヴィスの言葉に霧にまとわりつかれた黒装束へ視線が集まった。すると黒装束動きが止まっているのが目に入った。
「さて、軽率な反抗はお前達のためにはならないことを理解してもらえたと思う」
シルヴィスの言葉に黒装束達は震え上がった。
(う〜ん、シルヴィスのあれって蟲なんかじゃなくて瘴気だと思うんですけどね〜。おそらくはハッタリでしょうね。即座に殺すのではなく脅すという手段をどうしてシルヴィスは取ったのでしょうね?)
ヴェルティアはシルヴィスの黒い霧が微小の蟲ではなく、アンデッドの源である瘴気であることを見抜いていた。もちろん、シルヴィスは瘴気と見抜かれないように偽装をしていたのだが、ヴェルティアは見抜いていたのだ。
(ヴェルティア様、シルヴィス様のハッタリをバラさないでくださいね)
(お嬢が思いついたことを言わないなんて……シルヴィス様のアレが瘴気だって気付いてない? いや、私でも気づいたんだ。お嬢が気付いてないはずはない)
ディアーネとユリもシルヴィスのハッタリに気づいたのだが、何か考えがあるのだろうと黙って見ることにしたのだ。
「それでは質問を始めよう。お前達にこの暗殺を命令したのは誰だ?」
シルヴィスの問いかけに黒装束の一体が声を出した。
「ソ、ソール様だ」
黒装束の一体が絞り出すようにソールの名を告げた。
ドゴォォォォ!!
突然、シルヴィスがソールの名を告げた黒装束を蹴りつけると黒装束は宙を舞い地面に落ちる。
「“です”だろ? 言葉の使い方を知らんやつだ」
ビクンビクンと痙攣している黒装束を無視して他の黒装束へ視線を移す。
「さて、お前達の他のターゲットは誰だ?」
シルヴィスの次の問いかけに黒装束だけでなく護衛達も驚きの表情を浮かべた。
「そうか、答えないか。舐められたものだな」
シルヴィスが一歩踏み出すと黒装束がビクリと身を震わせた。
「剣帝キラトと第四軍団長スティルです!!」
「王太子と第四軍団長です!!」
「キラトとスティルです!!」
黒装束達は次々と白状した。黒装束達にしてみれば蟲に体を長い時間かけて食い破られるような死に様はごめんであったのだ。
「シルヴィス、キラトさんが」
「ああ、だがこいつら程度がキラトを傷つけることができるとは思えんな……」
「そうですねぇ〜この方達レベルでは千体束になっても勝てないですよね」
「そう考えると……」
シルヴィスはここで護衛達に視線を向けた。
「あなた方の護衛対象は誰です?」
「軍規相ガルエルム閣下です」
「軍規相ですか……その方はキラトと職務以外で何か関係が?」
「いえ……閣下と王太子殿下にはそのような……」
「そうですか……単に軍の重鎮を暗殺することで軍の混乱を狙ったか?」
「あっ……ひょっとして」
シルヴィスの呟きにヴェルティアが声を上げると全員の視線がヴェルティアへと集まった。
「リネアさん、ムルバイズさん、ジュリナさん、リューべさんの誰かと関係は?」
「あ……第二軍団長の姉君は軍規相の義理の娘です」
「それじゃあ、スティルという方は?」
「ムルバイズ様の息子……です」
「なるほど、つながりましたね」
ヴェルティアはうんうんと頷いてシルヴィスを見やった。
「こいつらの目的はキラト……キラトなら仲間達の家族が殺されて黙ってるわけはない。ソールというやつは……キラトを殺すだけの策があるというわけか」
シルヴィスはそういうとヴェルティア達を見る。
「まずはスティルさんを助けよう。みなさんはこの事を報告してください。そして……ご家族達へも」
「……はい。お任せください」
「こいつらはあなた方の流儀で始末してください。死刑にするのもあなた方が殺しても構いませんよ」
シルヴィスの言葉に黒装束達は震え上がる。これからどのような扱いを受けるかを考えれば考えるほど震えがくる。
「ああ、こいつだけは持っていきます。詳しい話は後で説明します」
シルヴィスはそういうとガシャンと結界が崩れ去り、黒装束の襟首を掴むと走り出した。
「あ〜シルヴィス待ってください!!」
シルヴィスを追ってヴェルティアも駆け出した。
「あらら、シルヴィス様も冷静さを装っていましたが、相当怒っていたんですね」
ディアーネは
「がぁぁぁぁ!!」
「ぐぅぅ!!」
「ぎぃぃ!!」
黒装束達の口から苦痛の声が発せられた。
「頭を潰すのが正しい対処方法ですが、とりあえずこれだけにしておいてあげましょう」
「おい、お嬢がいっちまうぞ。ディアーネ急ぐぞ」
「はい」
ディアーネは凄みのある笑顔を浮かべるとユリと共にシルヴィス達を追った。
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