第105話 暗躍③

「まずお前らに言っておくことがある」


 シルヴィスが妙にドスの効いた声で黒装束達に声をかける。


「なんだ、お前達は?」


 黒装束の問いかけへのシルヴィス返答は投擲したナイフであった。シルヴィスの投擲したナイフは発言した黒装束の顔面に突き刺さった。


「ちゃんと聞いとけよ……ボケ。俺がはなしてるだろ?」


 シルヴィスの言い分に黒装束達は本来であれば怒り狂うところであろうが、シルヴィスが投擲したナイフを黒装束達は全く察知することができなかったのだ。

 単純にナイフの速度が捉えられないという話ではない。シルヴィスの投擲の瞬間を察することが出来なかった。これはシルヴィスの力量が遥かに上にあることを思い知らされたのだ。


 しかも最初に黒装束の頭部をどのように吹き飛ばしたかが全く分かっていないのだ。


「シルヴィス、かわいそうですよ。この方達は頭が悪いのです。だからこそ、優しく教えやらないといけないと思うのですよ。わたしに任せてください!!」


 ヴェルティアの宣言に黒装束達は返答することができなかった。ヴェルティアの声があまりにも能天気なものに聞こえたからだ。


「いいですか? シルヴィスが怒ったのはですね。まずお前らに言っておくことがあるという言葉をみなさんが無視したからです。そもそもですね。相手の話を聞くというのはコミュニケーションの基本なのです!!さぁ、そこを踏まえてからシルヴィスの話を聞いてください」


 ヴェルティアの説教はいつものヴェルティアを知る者であれば『お前が言うな』というツッコミが入るだろうが、シルヴィス達は発言をしない。


「少しは聞く態度ができたようだな」

「……」


 黒装束達は誰も発言をしない。発言を行った瞬間にナイフの投擲が行われ殺されることがわかっていた。自ら死刑執行に名乗りでようとするものはいないだろう。


「当然、お前らを生かしておくつもりはない。そして……逃げることはできない・・・・

(……何を言ってる? 確かにこいつには勝てない……だが散開すれば逃げ切る者もいるはずだ)

「足掻くなとは言わないよ……せいぜい足掻いて見せろ。ああ、仕込みは終わってるからな」


 シルヴィスがそう言って一歩進み出た瞬間に黒装束達がビクリと震えた。


「散れ!!」


 黒装束の一体が叫んだ瞬間に黒装束達が逃散した。一体でも生き残ることができればそれが黒装束達にとって勝利だったのだ。


 しかし、黒装束達の心はすぐに絶望によって塗りつぶされることになった。


 散開し、シルヴィス達から逃げ出したがすぐに見えない壁により進むことができなくなった。


「な!! なんだ!?ここに壁?」

「まさか」


 黒装束達が絶望の感情を目に浮かべつつシルヴィス達を見た。


「仕込みは終わったと言ったろ? ディアーネさん、ユリさん。負傷者を治療してください」

「わかりました」

「おう。任せてくれ」

「さぁ、シルヴィス!! この外道共を吹っ飛ばしますよ!!」


 ヴェルティアは一つ宣言すると拳をブンブンと振り回しながら黒装束の一体を殴り飛ばした。


 ギョギィ!!という形容し難い破壊音を発すると黒装束の一体が凄まじい速度で吹き飛び見えない壁にぶち当たると黒装束は粉々に砕け散った。



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