第100話 もたらされた情報②

「さて、先ほども言ったがヴォルゼイスとシュレンは親子、親子関係は悪くない。シオルとシュレンは師匠と弟子の関係で、シュレンはシオルを尊敬している。とここまではいいかな?」

「はい」

「そして、ヴォルゼイスとシオルは主従というよりも親友という位置付けだ」

「ほう……親友ですか」


 ルキナからの情報にシルヴィスはニヤリと嗤った。


(この三柱の繋がりは強固ということか……逆に言えばそこを切り崩すことができれば天界との戦いを有利に進めることができるな)


 シルヴィスはごくごく自然にそう考える。古来より敵陣営を切り崩すために、調略を計るなど組織に戦いを挑むのに当然すぎると言える。


「あ、もちろん調略は何度か試したけどダメだったよ。シオルが義理人情に厚いからなのか、ヴォルゼイスが君主としてものすごく魅力的なのか、あるいは両方か」

「なるほど……離間は難しいというわけですか」

「うん。何か方法があれば試してみてほしいね」

「わかりました」


 シルヴィスの返答にルキナは小さく頷いた。


「ディアンリアと他の三柱の関係はどうなんですか?」


 シルヴィスの言葉にルキナはひとつ頷くと質問に答える。


「まずはヴォルゼイスとの関係だが、はっきり言って悪くない。ディアンリアにとってヴォルゼイスは偉大な主君という扱いであり、絶対的な存在だ」

「ヴォルゼイス絶対主義者というやつですね」

「もしくは依存対象というべきかな」

「なるほど……」

「二柱が男女の関係かまではわからないね」

「懸想してると仮定すれば、ディアンリアからですね」

「そうだねぇ。ヴォルゼイスという絶対的な存在から愛を囁かれば、ディアンリアが拒む理由はないね」

「なるほど……では、シオルとディアンリアはどうですか?」


 次のシルヴィスの問いかけにルキナは少し考える。


「確証はないが、お互いに嫌悪の感情を持っていると思う」

「そこにヴォルゼイスが絡んだりしてます?」


 シルヴィスの言葉にルキナは頷いた。


 シルヴィスがヴォルゼイスの名前を出したのは、先のルキナからの情報からであった。ヴォルゼイスとシオルは親友関係であり、ヴォルゼイスを絶対視するディアンリアにとってシオルの存在は許せぬことだろうし、自分よりも重視しているシオルに対して嫉妬する可能性が高くなると考えたのだ。


「まさにそれだ。もしシオルにディアンリアが嫉妬の感情を持っているのならばシオルは煙たいだろうね」

「それに気づかないようなシオルではないので、当然ディアンリアに対する感情は悪化しますね。ならシオルの弟子であるシュレンも同様にディアンリアに良い感情を持たない。するとディアンリアは当然、シュレンに良い感情を持たないというわけですね」


 シルヴィスの言葉にルキナは頷いた。キラト達も頷いたところを見るとシルヴィスと同じような感想を持っているのだろう。


「ただね……」


 ルキナが何かしら思案顔を浮かべて口を開く。


「ヴォルゼイスには何かしら我々の知らない真の目的があるように思えるんだ」

「真の目的ですか?」

「ああ、何というかヴォルゼイスの行動は結構ちぐはぐなんだよ」

「ちぐはぐ?」

「ああ、今まで異世界から召喚してきた者達に対して神々は祝福ギフトを与える以外の干渉はしなかった。もちろん、シルヴィス君達があまりにもイレギュラー的な存在であるのを危険視したから排除に動き出したというのも考えれるのだが、それにしては対処が場当たり的なんだよ」

「シオルを討伐に差し向けなかったということですね」

「そう。シオルが君達の実力を見抜けないとは思えないんだよ。にもかかわらず送り込んだのは八戦神オクトゼルスだ」

「つまり……ヴォルゼイスは八戦神オクトゼルスを……俺達に殺させた・・・・ということですか?」

「そうとも取ることが出来るわけなんだよ」


 ルキナは首を傾げながら言う。


「ちょっと待ってくれ。親父殿の考えだとヴォルゼイスは……天界の力をわざわざ削ぐようなことをする必要があるんだ?」

「それはわからん。と言うよりも状況を聞いてるとそういう考えもあるのではないかと思えるというだけだ」

「ヴォルゼイスやシオル達と長いこと戦ってる親父殿が違和感を感じてるというのは結構問題なんだよ」


 キラトの言葉に全員が頷いた。


 勘というのは根拠がないように思われているが、今までの経験則などから導き出されるものであり、根拠を説明するのが難しいだけで無意識に根拠に基づいて結論を出しているのだ。勘は当てずっぽうと同義ではないのである。


 ルキナはヴォルゼイス、シオルと長く争っていたというのだから、それだけ両者に対する経験則はこの中で最も豊富なのだ。その経験豊富なルキナがちぐはぐと称する以上無視することはできないのだ。


(つまり……想定外の何かが起こっているのか)


 シルヴィスはそう判断せざるを得ない。


「そして……シオルの件だが、あいつの事情も知っておいた方が良いかもしれんな」


 ルキナは静かに語り始めた。

 

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