第97話 魔王ルキナとの邂逅③
(うぉ……)
扉が開かれた時にシルヴィスは気圧されそうな感覚を覚えた。すぐに気を入れたのでそのまま押し切られるような事はなかったが、それだけで魔王の実力の巨大さがわかるというものだ。
「お帰り、我が息子よ」
魔王ルキナは和やかにキラトに語りかけた。
「ただいま、親父殿」
キラトも和やかな雰囲気で返した。この辺り魔族を統べる魔王と次代を統べる王太子という感じではなく庶民の親子の語らいにしか見えない。
(キラトの言ったとおり、気の良い親父という感じだな。……表面上を見ればな)
シルヴィスは二人のやりとりを見てあなどるようなことはしない。ルキナがシルヴィスだけでなくヴェルティア達から一瞬たりとも注意を切ることがなかったからだ。
「リネア達もよく帰ってきてくれた。ムルバイズ、リューベ、ジュリナもキラト達を良く助けてくれた」
「ただいま、戻りました。お義父様」
「もったいないお言葉でございます」
リネアは和やかに、ムルバイズは恭しく。リューネとジュリナはそのまま一礼する。このあいさつの返答からルキナとの関係性が見えてくるというものである。
リネアは義父としての親愛の感情、ムルバイズは偉大な主君に対しての尊崇の念、リューベ、ジュリナは偉大な存在に声をかけるのが憚られるといった印象であった。
「さて、そちらの方々がキラトの言っていた神の敵対者かな?」
「ああ、右からシルヴィス、ヴェルティアさん、ディアーネさん、ユリさんだ」
キラトが紹介するとルキナは立ち上がるとニッコリと微笑んで一礼する。
「よく来てくれたね。シルヴィス君、ヴェルティア皇女殿下、ディアーネ嬢、ユリシュナ嬢」
ルキナの挨拶にシルヴィス達は完全に虚を衝かれた。魔王という身分である以上、立ち上がるような事はしないと思っていただ。ヴェルティアもシルヴィス同様であったようで、驚きを隠すことができなかった。
「ふふ、どうやら君達を驚かせることができたようだね」
ルキナはそう言うと座り、ニカッと笑った。
「初めまして魔王陛下、私はシルヴィスと言います。本日はお目通りが叶い光栄でございます」
「初めまして初めて御意を得ます。アインゼス竜皇国第一皇女ヴェルティア=シアル=アインゼスでございます」
シルヴィスは一礼し、ヴェルティアも竜皇国の儀礼に従ってカーテシーを行った。
「く……」
「つ……」
シルヴィスとヴェルティアが一瞬で戦闘態勢をとった。いや
ディアーネとユリがシルヴィス達の変化に気づきヴェルティアを庇う位置に一瞬で動いたが、二人の頬に冷たい汗が一筋伝った。
「親父、何のつもりだ。失礼だろう」
キラトの窘める言葉にルキナは顔を綻ばせた。
「すまない。君達を試すような事をした非礼を詫びたい」
ルキナは四人に素直に謝罪する。
「二人とも、下がって大丈夫です」
ヴェルティアの言葉にディアーネとユリは一礼するとヴェルティアの後ろに下がった。
「なぜ私達を試したんですか?」
「手を組もうという相手の実力を知っておくのは当然だろう?」
シルヴィスの問いにルキナは悪びれもせずに答えた。
「まぁ、当然ですね。それで合格か不合格かは教えていただけるのでしょうね?」
「もちろんだよ。君達は本当に恐るべき実力の持ち主だね。今放った殺気は相当な実力者であっても察することは困難なものだ。それに君達二人は見事に反応し、私の初撃に備えた。私が攻撃に動いたら、君達を仕留めることは出来ないどころか、君達どちらかの反撃を受けていたよ」
ルキナはディアーネとユリに視線を向けた。
「そして後ろの二人も私の殺気を察することは出来なかったが、君達の反応を見て、主を守るために即座に動いた。十分すぎるほどの実力者だね」
ルキナの言葉にディアーネとユリは一礼するが、一手上を行かれた事は事実であり、二人は密かに恥じ入った。
「こちらとすれば君達と手を組みたい。さて、君達は私達と手を組むことを選択してくれるかね? 当然君達も私の品定めは終わっただろう? 答えを聞かせてくれるかな?」
ルキナの言葉には一切威圧的なものはない。
(しかし……さすがは魔王というべきか。これだけの実力、器量を見せられて手を組まないという選択肢をとるわけない)
シルヴィスは魔王ルキナの手のひらの上で転がされているような感覚を覚えた。まるで自分で選択肢を選んでいるつもりでも、いつの間にか選ば
「もちろん、そこまで実力と器量を見せつけられれば手を組む以外の選択肢はありません。よろしくお願いします」
シルヴィスの言葉にヴェルティア達も異存なしとばかりに頷いた。
「そうか。君達が敵になるような事がなくなって嬉しいよ」
ルキナはニッコリと笑って言う。
「そして、我が民のために戦ってくれてありがとう。虐殺された者達の溜飲も少しは下がったと思う」
ルキナはそう言って再びシルヴィス達に一礼した。
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