第98話 魔王ルキナとの邂逅④

「さて、顔合わせもすんだと言うことでここからは実務的な話に入ろう。そちらにかけてくれ。それから堅苦しい口調もそこまでにしてくれ」


 顔を上げたルキナはニッコリと微笑み言うとパチンと指を鳴らした。ルキナの指の音に反応してシルヴィス達の後ろに円卓と人数分の椅子が現れた。


 シルヴィス達はルキナの言葉に素直に従うと椅子に座る。


「二人ともせっかくの魔王様の気遣いですからありがたく受け取ることにしましょう」


 ヴェルティアがディアーネとユリに声をかける。ヴェルティアは二人の事を単なる侍女、護衛などと思ってはいないのだが、二人は立場的に言えば侍女と護衛であり身分制度に対する秩序の観点から言えば同席は絶対に出来ないものだ。

 実際にヴェルティアの声かけがなければディアーネもユリも椅子に座るようなことはしなかっただろう。


「失礼します」

「お言葉に甘えさせてもらいます」


 二人は一言断ると席についた。


「キラト達も座ってくれ」

「ああ」


 次いでルキナはキラトに言うとキラトも素直に従うと席に座った。


「さて、我々は君達と手を組んだ。問題は君達の立ち位置だ」

「立ち位置ですか?」


 ルキナの言葉にヴェルティアは首を傾げながら言う。


「そうだよ。君達は魔族どころかこの世界の者達からすればあまりにも異質だ。魔族は多種多様な種族がいるといっても、さすがにキラト達クラスの実力を持つ者は魔族でも限られてるんだ。我が国の組織は現行で上手く回っている。そこに君達のような異質な強者が入ると上手く回らなくなる。また君達も組織に合わせようとすると足かせにしかならない」


 ルキナの言葉にシルヴィス達は頷かざるを得ない。シルヴィス達はこの世界の者ではないので、そんな余所者を組織に組み込むと色々な不協和音が生じる。ルキナとすればそのような不協和音を望まないだろうし、シルヴィス達も歩調を合わせる事で行動が制限される事になる。


「確かにそうですね。俺達は元々、陛下に会いに来たのは、神達の情報を仕入れるためでした。魔族の組織の一員になることは目的外です」

「だろうね。キラト達からの報告でその辺の事は把握してる。私としては君達のような異質な者達を組織内に入れる事はお互いの長所を潰すことになるから避けたい。なら事は単純だ」

「ええ、そうですね。俺が神と戦うのは神が『気にくわない』からです。魔族のみなさんと共に戦うことができなくても俺は神と戦いますよ」

「だよね。君達を討ち取るのは神であっても至難の業だろうね」


 シルヴィスの言葉にルキナはうんうんと頷いた。シルヴィスの行動原理は凄まじく単純であった。それはあくまでも組織を運営する必要のない身軽さ故の言葉であるが、巨大組織の長であるルキナにしてみれば羨ましい立場でもあった。


「ええ、俺だけなら危ないかも知れませんが、こいつがこっち側なのは意外と心強いんですよ」


 シルヴィスがヴェルティアに視線を向けて言う。


「お~~ついにシルヴィスも私の有能さを認めましたね。うんうん。少しばかり遅いとも言えますが、そこはシルヴィスの少々素直ではない性格を考えると仕方ないのですが、心配しなくても私はずっとシルヴィスの味方ですよ!!」

「はいはい」

「おやおや~?シルヴィスはどうやら照れてるみたいですね!! さぁ、もっと私のすばらしさを語って上げますね!!」

「お前、場所をわきまえろよ。陛下の前だぞ」


 シルヴィスが窘めるがヴェルティアはやれやれという表情を浮かべた。


「なんだよ?」

「まったくシルヴィスはうっかりさんですね」

「は?」

「先程、魔王様が言ったじゃないですか。堅苦しい口調もここまでにしてくれって」


 ヴェルティアの言葉にルキナを始め、キラト達も笑みがこぼれた。


「確かに私はそういったよ。ヴェルティア嬢の言ったとおりに堅苦しい口調は止めて欲しいものだよ。それにシルヴィス君も私の言葉を受けてから自分の事を『俺』と呼んでいるよ」

「それはそうなんですけど、ヴェルティアのおバカを晒すと恥ずかしいと言いますか。居たたまれなくなるんですよ」


 シルヴィスのこの言葉にルキナはニヤニヤとした表情を浮かべた。


「おやおや~どうしてシルヴィス君が恥ずかしいのかなぁ~不思議だな~」

「親父殿、それはシルヴィスにとってヴェルティアさんが特別・・だからだと思うんだ」

「そうよねぇ~お義父様の言われるとおり不思議よね~」


 魔王一家がニヤニヤとしてシルヴィスをイジりだした。ムルバイズ達も同様にニヤニヤしていた。


「みなさま……よろしいでしょうか?」


 そこにディアーネが手を上げる。ルキナが手で意見を促した。


(ディアーネさんならこの流れを変えてくれるか?)


 シルヴィスはディアーネがイジる流れを期待したのは当然であった。ここで否定したところでそれが逆効果になることをわかっているのだ。そのため、こういう流れを変えてくれるのは第三者の意見が必要不可欠なのだ。


「シルヴィス様にとってヴェルティア様の奇行が恥ずかしいのは、やはり潜在的にヴェルティア様を家族として捉えているからと思われます。皆様方も身内が奇行を行えば恥ずかしく思われることでしょう。それと同じ事でございます」


 ディアーネの言葉にユリもうんうんと頷いている。それを見てルキナ達もニヤニヤとしていた。シルヴィスの望んだ方向にはいかなかったのだ。


「はっはっはっ!! 完璧な私に憧れるというのも仕方の無いことです!!」


 ヴェルティアは得意気に高笑いを始めた。その姿は本当に嬉しいという事が誰でも解るというものだ。


 シルヴィスはその姿を見て頭を抱えた。

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