第94話 閑話 ~竜帝と皇女は開き直った~
ブォン
音が響くと竜帝シャリアスの視線は鏡へと向かう。もちろんこの鏡は
「なになに……ほう……」
シャリアスの声が一段下がった。
鏡に映ったディアーネの報告には『神と戦うことになりました』とあったのだ。
「お父様、まさかお姉様は神を
シャリアスを父と呼ぶ少女は、もちろんヴェルティアの妹である。名をレティシアという。
レティシアもヴェルティアの妹ということでヴェルティア同様に美しい容姿をしている。
容姿はヴェルティアと似ているが、受ける印象は大きく異なる。レティシアは長く伸ばした髪を一つに三つ編みに編み込み、メガネを身につけているために非常に理知的な印象を与えている。
「うむ……まさか神と事を構えることになろうとはな」
「お姉様なら神相手であっても遅れを取ることはないでしょうけど、どれほどの破壊が行われることでしょうか」
「ああ……さすがに心が痛む」
「そうですね。まさか、異世界の方々に迷惑をかけることになればさすがに心が痛みます」
「しかし、ヴェルティアが神と戦うという決定をしたということは、間違いなく神に問題がある」
「ええ、それは間違いありません。お姉様は決して無意味な暴力を振るう方ではありません」
「無意味な暴力は振るわないが、過剰な暴力は振るうんだよなぁ」
シャリアスの言葉はぼやきに近い響きがあった。竜帝として絶大な力を持ち、権力を手にしている男であっても悩みがないというわけではないのだ。
「ディアーネとユリがついているから……いえ、無理ですね。あの二人でもお姉様を止めることはできないですしね」
「ああ、あの二人の実力は我が国でも屈指の者たちだが、それでもヴェルティアを抑えることは難しい」
「お
「ふむ、シルヴィス君はヴェルティアと同等の力を持っているという話だけどそれでも振り回されることは避けれないだろうな」
ブォン
そこにまた報告が入った。
『
入ってきた報告にシャリアスとレティシアはため息を漏らした。もはや、止める気など皆無であるという印象を二人は報告から察したのだ。
「ディアーネも止めてないみたいです。どうやら、異世界の神はよほどお姉様達の逆鱗に触れたのでしょうね」
「うん、そうだな。どう思うことにしよう」
シャリアスの声には諦めの響きがある。しかし、逆にいえば二人はヴェルティアは無意味な暴力をしないという絶対的な信頼があるのだ。
「しかし、困りましたね」
「何がだ?」
「お姉様達が本気になっている事を考えると、意外と早くお姉様たちは戻って来られるかもしれません」
「……確かにそうだな」
「お姉様達が住まわれる屋敷はまだ基礎工事が終わったばかりですよ。完成までどんなに急いでもあと半年はかかります」
「まずいな……外堀を埋めるのが間に合わんかもしれん」
「はい。お姉様を受け止められるような方はお義兄様のように同等の実力を持つ方くらいです。そのような方はお義兄様以外におられるとは思いません」
「ああ、そういうことだ」
ブォン
再び報告が入る。
『これより魔王ルキナ様に会うために魔都へと向かいます』
ディアーネからの報告にシャリアスとレティシアは顔を見合わせた。
「いよいよ……大事になってるな」
「もう神達は自業自得ということにして、私達はお姉様とお義兄様をくっつけることに全精力を注ぐことにしましょう」
「そうだな」
二人の声は清々しい印象を与えるものであった。
しかし、それは開き直りであることをお互いに気づいていたが、そこに触れることは避けた。
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