第86話 救世主にならされた者達①
「でやぁぁ!!」
レンヤの木剣が振るわれるたびに騎士達が崩れ落ちる。
一月ほど前は素人でしかなかったレンヤの実力は並の騎士では束になってもケガ一つ負うこともなくなっていた。
騎士達は戦闘に関する
またヴィルガルドもエルナも元々高い技量を持っていたのだが、
シルヴィスについてはラフィーヌから魔王から送り込まれた敵であったと告げられ、レンヤは驚き、ヴィルガルドとエルナはそれに加え魔王の策略がすぐそこまで常にあるという警戒感をもった。
「参りました」
打ち倒された騎士達がレンヤに降参するとレンヤはつまらなさそうな表情を浮かべた。その様子は年相応の万能感による傲慢さと自分の力をもっと発揮したいという欲望に満ちている。
「もう終わりか……。まだまだやれるのだけどな」
レンヤの言葉に騎士達はぎょっとした表情を浮かべた。配慮の無さへの反発というよりもまた付き合わせられるという恐怖の方が遙かにまさっていた。
「その辺りにしておけ、それ以上は騎士達の体がもたん」
「そうよ。相手のことも考えなさいよ」
ヴィルガルドとエルナがレンヤを窘めると、レンヤは罰が悪そうな表情を浮かべた。レンヤに対して、この二人は対等の口調で話す。他の者が三人に対してラフィーヌですら敬語で話すため、エルガルド帝国における三人の特別待遇がわかるというものだ。
「皆様方、お疲れ様です」
そこにラフィーヌが現れると三人の労をねぎらった。
ラフィーヌの登場に三人はかしこまった。三人とも救世主として当別待遇を受けているのだが、皇族を侮るような態度は絶対三人はとらない。レンヤは皇族の圧倒的な雰囲気に緊張してしまっている。ヴィルガルドとエルナは皇族を侮る行為は自分達の身を危険にさらすという緊張感からくるものである。
これはレンヤが身分制度が希薄な社会で生まれ育っている事とヴィルガルドとエルナは身分制度が厳しい社会で生まれ育った故のことであり、優劣の問題ではない。
「ラフィーヌ様、どうしてここに?」
レンヤの質問に対し、ラフィーヌはニッコリと微笑んだ。
「もちろん皆様方と仲良くなりたいから来たのですがお邪魔でしたか?」
「とんでもありません!! ここは訓練の場所ですのでラフィーヌ様のような皇女様が来る事に驚いただけです」
ラフィーヌの沈んだ声にレンヤは慌てて言う。その反応が面白かったのかラフィーヌは悪戯が成功したように笑った。
「ひどいですよ。からかわないでください」
「ふふふ、申し訳ありません」
ラフィーヌの言葉にレンヤは憮然とした表情を浮かべそれに全員が笑い声をあげた。
「ふふ、レンヤ様をこれ以上からかうのは恐れ多いですね。皆様方の実力も相当についたと思われます」
「ええ、いつまでも練習ばかりでは張り合いがないと思いまして実戦形式の訓練を提案しに来ました」
「実戦形式?」
「はい。といってもゴブリンの大群ということなので少し物足りないかも知れません」
「ゴブリンか……RPG初期の敵としては定番だな」
「あーるぴーじー?」
「あ、いやこっちの話です」
「そ、そうですか? あっもちろん、我々も支援はさせていただきます」
ラフィーヌは微笑みながらレンヤに言う。
「支援ですか?」
「はい。皆様方が戦いに集中できるように野営、物資の補給を行います」
「なるほどな。それはありがたい」
ラフィーヌの提案に賛同したのはヴィルガルドであった。ヴィルガルドは戦場に出た経験があるために補給という支援のありがたさを理解しているのだ。
「レンヤ、私達は戦いにのみ集中できるなんて幸せよ」
「わかってるさ。俺だってバカじゃないんだから補給の重要さはわかってるよ」
「あら、意外ね」
「補給が絶たれた軍隊が敗れた礼なんていくつも知ってるよ。学校で習ったからな」
「へぇ~意外ね。あんたってそんな上流階級だったの?」
エルナが驚いた様に言うとレンヤは首を横に振る。
「いや、俺の国では6歳から強制的に学校に通わされるんだ」
「え!?6歳から学校に通えるの?」
「ああ、小学校は6年、中学校が3年、高校は3年、大学4年だな」
「全部で16年!!」
「人によっては高校3年と大学4年ってのは行かない人もいるけど最低でも9年間は学校に通うな」
「信じられない……そんな国があるなんて」
「まぁ、俺の国は世界でも裕福な国だからな」
「だからあんたって理解力があるのね」
エルナは納得したように頷いた。レンヤは初めての説明でもある程度理解することが出来ている理由は基礎学力があることが根底にある事にあることを察した。
「レンヤ様、エルナ様、出発は三日後となります。そして今回の演習には私も付いていきたいと思います」
「え?ラフィーヌ様もですか!?」
「はい。こう見えても治癒術士としてそれなりの実力を持っているんですよ」
ラフィーヌはそう言って笑った。
ラフィーヌの申し出をレンヤ達は断るような事はしなかった。護衛は当然につくことで危険はほとんど無いと考えていたからだ。
結果的にラフィーヌは、このレンヤ達についていくという決断が命を救う結果になったがそのことを誰もこの段階で知らない。
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