第84話 親子~ヴォルゼイスとシュレン~①
「シュレン様!!」
シルヴィス達の分身体を斃したシュレンの元に天使達が駆け寄ってきた。
「さすがはシュレン様」
「お見事でございます!!」
天使達の賛辞にシュレンは心躍る様子はない。死闘を展開していたというのならば称賛も受けがいもあるが、分身体相手ではまったく心が躍らないのも当然だ。
「さて……君達に聞きたいことがある」
「は、はい!!」
シュレンの言葉に天使達は直立不動になった。絶対者であるヴォルゼイスの子息であるという立場以上に、自分達との実力の差に居住まいを正さずにはいられないというものだ。
「先程……あの者達が言っていた魔族の村でアルゼス達が虐殺を行ったというのは本当か?」
シュレンの言葉に天使達は言葉が出てこなかった。シュレンの声に嫌悪感を感じ取ったからだ。
「あ、あの……その……」
天使達の反応を見たシュレンはそれが事実である事を察した。
「そうか、それでは質問を変えよう。君達は虐殺の件をあらかじめ知っていたのか?」
「……あ、あの……」
シュレンの鋭い眼光に天使達は全身から冷たい汗が留めなく流れた。
「どうした? 君達へにとってこの質問はそれほどまでに難しいものか? 私は君達に知っていたか否かと聞いているのだよ?」
シュレンから放たれる険しい気配は上がった。そしてそれは天使達に迫る危険度が跳ね上がったことを意味している。シュレンは気持ち次第でこの場にいる天使達は即座に消滅させることができる。
「なるほど……お前達の反応で確認すべき相手が誰だかわかったよ」
「え?」
シュレンは天使達を一睨みするとクルリと背を向けた。
「そうそう、
「え!?」
シュレンの命令に天使達は動揺した。神や天使達が命を終えると天界に埋葬され、長い時間をかけて新たな神や天使として生まれ変わることになる。そのためにアルゼス達を天界に埋葬しないと言うことは天界に再び生まれることは出来ない。事実上の天界追放といえる。
「シュ、シュレン様!!」
「それはあまりにも……」
天使達の声にすがるような響きがある。上位者のシュレンに天使としては立場上異を唱えることは出来ないが、それでも声を上げずにはいられなかった。
「君達は私が単に虐殺をした事の罪に対する罰と思っているのか?」
シュレンの言葉に天使達は困惑の度合いを高めた。天使達は困惑したまま互いに視線を交わした。
「あの四人と怪物はどうやって天界に現れた?」
「え?」
「わからんか? 運び込まれた死体を通じて天界に殴り込んで来たというわけだ。今回の件は明らかに偵察……しかも小手調べだ。分身体であれだ。もし本体が来ていたらどれほどの被害が出ていたと思う?」
「そ、それは……」
シュレンは天使達の反応を見ていい気にたたみかける。
「最後の二人……分身体でありながら私の防御陣を打ち抜いた。本体ならば私も勝てているかわからん程の相手だ。そんな相手がいつやってくるか分からん状況を捨て置くのか?」
「う……」
「そ、それは……」
「さて、今の私の話を聞いてなお、彼らの侵入経路を確保したいと主張するのは誰だ?」
「……承知いたしました」
「そうか。君達がまともな思考判断を持っているようで安心したよ。もしまだ異を唱えるというのなら内通者とみなさねばならなかったよ」
シュレンの宣言に天使達はゴクリと喉を鳴らした。シュレンの言葉は決して脅しではなく本心からのものであることを察したからだ。
「それでは後の処置を頼むぞ」
「は、はい!!」
天使達は一斉に頭を下げた。シュレンはそれを顧みることなくその場を後にした。
シュレンはそのまま目的の
(間違いであって欲しい……)
シュレンの心にこの想いがあった。自分の尊敬している父が、虐殺を指示したなどと考えたくもない。
「通るぞ」
扉の前に立つ天使達に一声告げるぞ返答を待つことなく中に入ろうとする。天使達は本来であれば制止すべきであったかも知れない。だが、シュレンから放たれる威圧感はそれを許さなかった。
天使達はゴクリと喉を鳴らしながら一礼するのみだ。
ギィィ……
扉を開きそのまま中に入ると目的の神の前へと進み出た。
シュレンの視線の前には、父ヴォルゼイスが玉座に座っていた。
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