第63話 八戦神⑩
ラムセスの首が地面に転がったところで「ドゴォォォォ!!」という爆発音が響いた。
音のした方向は吹き飛んだユクレンスをヴェルティアが追いかけていった宝庫である。普通に考えてヴェルティアの
「あとはお前達だけだな」
「く……」
「お前達こんな事をして許されるとでも思っているのか!!」
シルヴィスの嘲りの言葉に、アルゼスとフォルスの反応は静と動であるが、二柱の反応の根本にあるのは焦りと恐怖である。
「それにしても、お前に聞きたいんだがな」
シルヴィスがニヤリと嗤ってフォルスに問いかけた。
「なぁ、お前は俺たちのことを下等生物と言ったが、その下等生物に敗れているお前のお仲間達をなんと称すれば良いのか教えてくれないか? もし無いというのなら、権威ある神様である
「き、貴様……」
シルヴィスの煽りにフォルスはギリッと顔を歪ませた。
「貴様は神に対してどこまで不遜なのだ!!」
フォルスの言葉にシルヴィスは何ら痛痒を感じていないようだ。これはフォルスのうように神として生きてきた者にとって初めての経験であろう。人間や天使達には崇められ、敵対者にはその実力のために畏敬の対象だ。
「ああ、すまなかったな。それで、下等生物以下の実力しか有していない神様のことを何と言えばいいのかそろそろ教えてくれよ」
「貴様ぁぁ!!」
さらに煽るシルヴィスにフォルスは忍耐心の限界を超えたのだろうシルヴィスに向かって切り込んできた。
ブォン!!
そこに高速で飛来する物体がフォルスの鼻先を通り過ぎていった。通りすぎた物体はそのまま村の周囲を囲っている結界にぶち当たる音が聞こえてきた。
フォルスは物体が飛んできた方向を見ると、ヴェルティアの投球後のフォームがあった。
「おしい!! うーん、もう少し踏み込みが鋭いと思っていたんですけどミスりましたねぇ~。ひょっとしてお疲れですか?」
ヴェルティアの口調はいつものものであるが、いつもより発する雰囲気が刺々しいのはこの場にいる神達の所行が、外道そのものであるために敬意など微塵ももっていないのだ。
「さて、ディアーネ達も四柱を片付けたみたいですし、これからあなた方をみんなでよってたかってボコボコにしますね」
ヴェルティアの意見にアルゼスとフォルスの顔が強張った。二対一の状況であっても明らかに押されていたのに、そこに全員で襲いかかろうという宣言なのだから顔が強張るのも当然であろう。
「まぁ、そのための状況を整えたしな」
「何?」
「あれ、気づいてなかったんですか? シルヴィスがあいつらに仕組んでいたんですよ。じゃないとあなた方のような戦いに慣れていない神であっても、突然別の方角を見たりしないでしょう?」
「……」
ヴェルティアの言葉にアルゼスはゴクリと喉を鳴らした。
「さて、ここで問題です。シルヴィスはいつ仕組んで、いえ、そもそも何を仕込んだのでしょうか?」
「……クルーセス達を殴り飛ばした……時か?」
「ご名答です。まぁ、それくらい想像はつきますよね。じゃあ仕込んだのは?」
「……まさか、遠隔操作……?」
アルゼスの声が震える。
「さて、その辺のことは仕掛けた本人に聞いてみましょう。どうなんですか?」
ヴェルティアがシルヴィスに質問するとシルヴィスは肩をすくめながらヴェルティアの質問に答える。
「まったくバラすなよ」
「もういいかなと思ったんですよ」
「まぁ勝敗は決してるからな。別に良いんだけどこいつらには最後まで自分達がなぜ敗れたか分からないまま消えて欲しかったんだよ」
「え? そうだったんですか!? すみません私としたことが!! すみませんねぇ~愚かな神様。あなた方は知らない方が幸せでしたね」
「何を言ってる?」
シルヴィスとヴェルティアの会話にアルゼスは言いようのない不安を感じた。
「こういうことさ」
シルヴィスがそう言って構えをとり、凄まじい殺気をアルゼスに向けた瞬間に、フォルスが突然、回転しその勢いのまま斬撃を放ったのだ。フォルスの斬撃はアルゼスの右太ももをザックリと切り裂いた。
「がぁ!!」
「な、なんで!?」
アルゼスはその場に蹲り、斬り付けたフォルスは驚きを隠せない。
「すでにそちらの神様には仕込みを終えてるさ。……でこういうことさ」
シルヴィスは言い終わると蹲るアルゼスの背後に一瞬で回り込むと、
アルゼスはピクピクと痙攣を起こすが、すぐに動かなくなった。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
フォルスは咆哮を上げシルヴィスに斬りかかろうと剣を振りかぶった。
シルヴィスはフォルスの腕を受け止めると同時にそのまま腹部に膝を入れた。
「が……」
フォルスの口から苦痛を告げる声が発した瞬間に肘を背中に落とした。
ドゴォ!!
凄まじい音が響き渡り、フォルスが地面に叩きつけられた。シルヴィスは一切手心を加えるつもりは無いようで、シルヴィスはフォルスをひっくり返すとそのまま喉を掴みそのまま持ち上げた。
(な、なんなんだ……こいつの力は……どうして、人間ごときがこんな力を……?)
フォルスは喉を掴まれて持ち上げられ、苦痛の中にあったが、それ以上にシルヴィスの人智を超えた力に混乱していた。
高位神族並の打撃をどうして人間が有しているのかどうしても理由が分からないのだ。
「た、頼む……助けてくれ……殺さないでくれ……」
フォルスの問いかけにシルヴィスは冷たく一瞥すると
「ま……」
フォルスは“待て”と言いたかった。わずか二文字であったがその二文字をいう時間すら与えられなかった。シルヴィスの
「俺は皆殺しにすると言ったろ。ちゃんと聞いておけ」
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