第43話 魔族との邂逅⑨

 一週間後に魔族の領域フェインバイスへの出発をキラト達に告げると、キラト達は退出していった。


「う~ん、ヴェルティアのおかげで上手くいったな」

「え?そうですか?」

「ああ、盤面をひっくり返してくれたおかげで、完全に上手くいった。ヴェルティアのおかげだな」

「そうですか!! そうですよね!! 私ってやっぱり優秀ですねぇ~」

「ああ、今回の件では間違いなくヴェルティアが一番の殊勲者だな。さざなみのような貴族階級出身者にとって腹芸なしのヴェルティアが新鮮だったのかも知れないな。まぁ竜皇国では……見慣れてるかもしれないけどな」


 シルヴィスがディアーネとユリに視線を移すと二人は頷いたところを見ると、ヴェルティアの功績は中々大きいのだろう。


「ん?でもあの方々は貴族なんですか?」


 ヴェルティアは首を傾げながらシルヴィスに問いかけた。


「ああ、俺はそう受け取ったな。少なくとも貴族階級と何らかの関係を持ってると思う」

「へぇ~どうしてそう思ったんです?」

「まぁ動きが洗練されてたというのが理由だな。立ち居振る舞いがきちんとしてたし、この豪華な部屋に萎縮も高揚もなかった」

「ああ、言われてみればそうですね。それにお茶を飲む仕草も洗練されてましたね~」

「そういうこと。現貴族か元貴族かはわからないけど、さざなみというチームには何かあるな」


 シルヴィスの言葉にディアーネとユリは頷いた。


「しかし、別にこちらに害を与えようなどと言う意図は感じなかったなぁ~私が見落としたのかな」

「私もそんな意図は感じなかったですね」

「もちろん俺もそんな意図は感じませんでしたよ。でも、魔族の領域フェインバイスに行くと言ったときの警戒感は少し引っかかりましたね」

「ああ、確かに……シルヴィス様が交渉という言葉を出すまでは警戒してるのがわかった」

「え?そうですか?私は全然気づきませんでしたよ!!」

「まぁ、その辺りはお前が気にすることじゃないさ。お前が出来ない事は俺たちがやるし、俺たちが出来ない事はお前ができる」

「おおっ!! シルヴィスがまともな事を言ってますねぇ~うんうん。やはり優秀な私にあいた!!」


 ヴェルティアが自画自賛を始めたのでシルヴィスはおでこをペチリと叩いた。


「何するんですか!!せっかくシルヴィスが褒めたのだから嬉しかったという私のいじらしい一面を見せていたのですよ。感心して褒めるところです!!」

「やかましいわ。少し褒めるとすぐこれだ。お前はもう少し自重しろ」

「え~これ以上、おとなしくしたら、しなしなに萎れてしまいますよ~」

「大丈夫だ。それだけはない」

「あ~やっぱり私の芯の強さの評価は高いですね~」

「……それでな。さざなみという冒険者チームは、貴族と何らかの関わりがある。魔族に対して何らかの情報を有しているという二つの可能性に注意しておいた方がいいでしょうね」

「シルヴィス様のいう通りですね。私の術式を見抜いたという点でも相当な実力者、そして素性に少しばかり謎があるという事でよろしいですね」

「ええ。その謎がどれほど深刻かは現時点ではわかりませんね。ヴェルティア」

「なんですか?」

「お前から見て、あの五人は信頼できるか?」

「もちろんです!!」


 シルヴィスの問いかけにヴェルティアは即答する。ヴェルティアの即答にシルヴィ歌地は互いに視線を交差させると頷いた。


「そっか。ヴェルティアの眼を信じよう」

「そうですね。まぁヴェルティア様を傷つける程の方がそこまでいるとは思えません」

「だよな~お嬢を傷つけるような事を想定するのは結構無駄だよな」

「ちょっと、みなさん。私を評価してくれるのは嬉しいけど、何か引っかかるのですけど」

「気にするな。お前が優秀だということを再確認しただけだ」

「まぁ、いいでしょう!! さて、これから一週間で準備することになるわけですけど、何を用意するんです?」

「まぁ、その辺りはあの三人にやらせよう。俺はここでのんびりしとくからヴェルティア達は散策にでもでかけてきな」

「え~シルヴィスも行きましょうよ」

「そうしたいのはやまやまだが、俺はエルガルド帝国に追われてるからな。あんまり出歩くと、面倒なことになる」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアはやや不満な表情を浮かべた。しかし、シルヴィスの言うことも最もなのでワガママを言うようなことはしない。


「そうだ。ヴェルティア」

「何です? 気が変わりました?」

「いや、外に出るなら何か本を買ってきてくれ。出来れば魔術書、何らかの技術書とかそんなの」

「小説とかはどうですか?」

「それもいいな。優先は魔術書、技術書、小説で頼む」

「わかりました!! 任せてください!!」


 ヴェルティアは嬉しそうに返事するとディアーネとユリに向けて頷くと外に駆け出していった。


「それでは行って参ります」

「シルヴィス様いってくるわ」


 駆け出したヴェルティアをディアーネとユリが折っていくのをシルヴィスは笑顔で見送った。


「さて、一週間のんびりするとしようか」


 シルヴィスはそう言って神の小部屋グルメルから一冊の本を取り出して読書を始めた。


 * * * * *


「契約が出来て良かったわね」

「ああ」

「まったく私達も私達だけど、キラトもキラトよ」

「ははは、すまんすまん」


 リネアの苦言にキラトは頭を掻きながら答えた。


「しかし、あの坊主達が魔族の領域フェインバイスに行こうとしていたとはおもわなんだわ」

「大丈夫かな?」

「まぁ、問題は無いんじゃないか。別に犯罪行為を目的にしてるわけじゃないだろうし」


 キラトの脳天気な言葉に仲間達は呆れた表情を浮かべた。


「キラト様、油断はしない方が良いですよ。あの人達は何か・・あると思います」

「まぁ、ただ者じゃないのはわかってるさ。親父なみ・・・・に強いかもしれんしな」


 リューベの言葉にキラトはカラカラと笑いながら答えるが、他の四人の表情には笑顔が浮かんでいない。


「いくらなんでもそれはないんじゃない?」

「そうですよ。流石にあり得ないです」

「儂もそれは言い過ぎだと思うぞ」

「私も~」


 仲間達の反応にバツの悪そうな表情を浮かべた。しかし、キラトとしては自分の見立てが誤っているとはとても思えなかった。

 専属侍女と護衛の実力は凄まじく、ミスリルクラスの冒険者では束になっても叶わないだろう。天使であっても一蹴するのは確実だ。

 しかし、自分達を応対したシルヴィスとヴェルティアと名乗った二人は次元が違う事を察していた。


(しかし、面白い奴らだったな)


 キラトは先程のやりとりについつい笑みがこぼれてしまう。


 自分・・と互角、もしくはそれ以上の実力を持つかも知れない相手に出会えるとは思ってもみなかった。


 今度の依頼は報酬などよりも、よほど魅力的なものになる予感を感じていた。

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