第36話 魔族との邂逅②
エリック達三人に命令を出したきっちり三十分後にシルヴィス達一行は魔王に会うために出発した。
エリック達からの情報で魔族はエルガルド帝国の北方にいるという話であったために一行は北へ向かって進むことにした。
この辺りは適当ではあるのだが、現時点では北に向かう以外に道は無いのだ。
エリック達はシルヴィス達の十メートルほど先を歩かされていた。もし襲撃があった場合にまずはエリック達が対処する形になる。シルヴィス達の実力ならばエリック達など使わなくとも、ほとんど対処は可能であるのだが、絶対ではないため少しでも安全性をあげていくのは当然だった。
一方でエリック達、軀達は今までの悪行を凝縮した報いを受けているわけだが、シルヴィス達には一切同情することはない。シルヴィスは当然であるとして、ヴェルティア達も軀達の悪行を伝えると同情する心情など消し飛んでしまった。
ヴェルティア達は女性達の尊厳を踏みにじった悪行を聞いた時にエリック達をどうやって
ヴェルティア達の自分達への話し合いを聞いたエリック達の顔色はもはや死人のものと区別がわからないほど悪い。
「う~ん、まさかシルヴィスがここまでいい加減とは思ってもみませんでしたよ」
「は?」
街道に出てしばらくするとヴェルティアがシルヴィスに絡んできた。どうやら暇になったらしい。
「だって、魔王の居場所を知らないけど、とりあえず出発なんて計画性がなさすぎますよ」
「まさかお前から計画性という言葉が聞けるとは思わなかった。お前ひょっとして誰かに操られてるのか?」
「私のキラリと光る知性にシルヴィスも驚いているようですね。シルヴィスもまだまだ甘いですねぇ~」
「なぁ、お前って話聞けって言われないのか?」
「もちろん、言われますよ。やはりみなさん私の的確なアドバイスを聞きたくなるものなのでしょうね」
ヴェルティアの自信たっぷりな返答にシルヴィスはチラリとディアーネとユリに視線を向けると二人はため息混じりに首を横に振った。
「それじゃあ、知性の光るヴェルティアに聞きたいんだが」
「なんでしょう!! 何でも聞いてください!! さぁ!!さぁ!!」
「お前やけに食いつくな。ひょっとして……誰も相談しな……」
「さぁ!! どんな相談にも答えますよ!!」
一段階大きな声でヴェルティアが言ったのは、シルヴィスの言葉が核心を突いていたからかも知れない。
「そうだな、好きな異性のタイプは?」
「ふぇ!!」
「どうした?」
シルヴィスがニヤリと笑って返答を迫る。シルヴィスの見たところヴェルティアは色恋に疎いという見立てであったためにからかうつもりでの質問であったのだ。
「好きな異性……好きな異性……は私よりも強い人ですかね」
ヴェルティアはう~んと首を傾げながら返答した。
「そんなやつってどこにいるんだ?」
「さぁ? どこかにいるんじゃないですか? それよりも」
「あん?」
「私に好きな異性を聞くということはシルヴィスは私に好意を持っていたというわけだったんですね!! わかりました。シルヴィスのこと真剣に考えてみることにしますね!!」
「はぁ!? どうしてそうなる?」
ヴェルティアの言葉に今度はシルヴィスが動揺してしまう。シルヴィスも今まで生きてきたなかで色恋を楽しむような環境になかったので実は色恋の話題は苦手なのだ。まぁそれを差し引いてもヴェルティアの論法をぶつけられれば戸惑わない者はいないだろう。
「ヴェルティア様、シルヴィス様の好きな異性のタイプは、高すぎる身分であるにも関わらず、自然体で前向きな明るい女性です。加えてちょっとやそっとのことではくじけない女性である事は間違いないです」
「へ?」
「お嬢、それに下の身分の者を思いやれるような女性がタイプだと思うぞ」
「え?」
「なるほど!! シルヴィスの好みのタイプはわかりましたよ~うんうん」
ヴェルティアは納得したように頷いている。
(今二人の言った女性ってヴェルティアじゃないのか?)
シルヴィスはディアーネとユリの言った異性がヴェルティアであることをすぐに察していた。それが悪意からくるものではないのは十分に承知しているが、シルヴィスとしてはその意図を考えずにはいられない。
(ひょっとして、この二人は俺とヴェルティアをくっつけようとしている? いや、それはないか)
そんな考えがシルヴィスの頭に浮かんだが、即座に否定する。ヴェルティアはアインゼス竜皇国の第一皇女だ。そんな超大国の皇女で皇位継承者であるヴェルティアを、自分のような何の後ろ盾もないものとくっつけようとするのはどう考えてもあり得ないからだ。
「あのさ、一言も好みの女性の話をしたことなんかないんだが……」
「大丈夫ですよ!! ディアーネとユリの本質を見抜く目は確かなんですから間違いありません!!」
「うん。話を聞こうな」
「さぁ、この適切なコミュニケーションこそ、人間関係を円滑にする秘訣というやつですね♪」
「すごい……解釈が斜め上過ぎる」
「いや~ここまで手放しで褒められると嬉しいものです」
ヴェルティアは上機嫌に頷いた。その様子は本当に幸せそうでシルヴィスは何も言えなくなってしまう。
(はぁ……まぁいいか)
シルヴィスはため息をつきたいところであったが、ヴェルティアとのこのやりとりを楽しんでいるのも事実であり、それが悪い気分では無いことに気づいて戸惑う自分がいた。
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