第26話 十天使戦②

「フィラデルム!!」

「おのれぇぇぇ!!」

「下等生物がぁぁぁ!!」


 仲間の天使がまたもシルヴィスに討ち取られたことに、三体の天使が激高するとシルヴィスに向かって斬りかかってきた。


(三体……あいつからだな)


 シルヴィスはニヤリと嗤って一体の天使に狙いを定めた。その表情は明らかに捕食者の舌なめずりにしか見えない。


「待て!!」


 そこに鋭い制止の声がかかった。声の主はデミオルであった。


「冷静になれ!! こいつの戦いは俺たちの隙を衝くものだ!! わざわざ狙いに乗ることもない!!」


 デミオルの言葉に激高していた天使達が冷静さを取り戻したようであった。


「命拾いしたな」

「な……」

「デミオルのおかげでお前達は殺されずにすんだ。ちゃんとお礼を言っておけよ。特にお前はな」


 シルヴィスは一体の天使を指さして言い放った。実際にシルヴィスが狙いを定めていた天使であり、デミオルが制止しなければ命を失っていたことだろう。


「このエイトスを討ち取るつもりだったというつもりか!!」


 指を差されたエイトスという天使が怒りを露わにする。


「ああ、お前達はどうやら俺と戦うには力不足だな。無駄に死ぬことはないだろ。もう帰ったらどうだ?」

「我ら十天使テネスティリアを侮るのもいい加減にしろ」

「いや、テネスティリアってお前ら十体の天使の事だろ? もう二体欠けてるから、十天使テネスティリアという呼び名は、相応しくないから、改名したらどうだ? それとも現行のメンバーが欠けても、即座に補充されるシステムなのか? お前らも偉そうにしてても替えの効く有象無象というわけだ」


 シルヴィスの煽りは止まらない。何しろ煽れば煽るだけ自分の掌の上で踊ってくれるのだからやらない手はないというものだ。


「ぬぅぅぅ!!」


 エイトスの顔は怒りで真っ赤になっている。


(紙を近づけたら燃えたりして)


 シルヴィスは中々酷いことを素で考えてしまう。ここまで煽りに乗ってくれるとシルヴィスとしては楽しくて仕方がないのだ。


「こいつは一体一体、個別に斃していくつもりだ。逆に言えば我らが連携をとれば絶対に討ち取ることができる!!」


 デミオルの言葉に天使達は頷いた。デミオルの言葉は認めたくないが事実である。実際にシルヴィスの狙い通りに各個撃破されている以上、侮ることはできない。


「まぁ、それなりの知恵があればそれくらい思いつくよな。だが、結果は変わらないんだよな」

「ほざけ!!」


 デミオルは剣をその場で斜めに振り下ろした。デミオルの光り輝く剣から斬撃が飛ぶ。


 凄まじい速度で飛翔した斬撃をシルヴィスは最小限度の動きで躱した。シルヴィスが躱した斬撃はそのままシルヴィスの背後にいたむくろを両断した。


「ひぃぃ!!」

「カ、カザス!!」


 軀達から悲痛な声が発せられた。

 

 八つ足アラスベイル達が消え、生き残った軀達であったが、間髪入れずに始まったシルヴィスと十天使テネスティリア達の戦いに当然参戦できるほどの実力はない。かといって逃げ出すことも出来ないので、ただ呆然とシルヴィス達の戦いを眺めていたのだ。


(三十くらいか、結構残ってるな……)


 シルヴィスは軀達の人数を確認するとニヤリと嗤う。


「おい、お前ら。この天使達を囲め」


 シルヴィスの言葉に軀達の顔が凍った。シルヴィスの戦闘力は自分達と次元が違うのは骨身にしみている。同時に天使達の戦闘力も次元が違うのだ。いわば超人同士の戦いに蟻が参加するようなものだ。


「いいから早くやれ」


 シルヴィスの言葉にも、軀達は動かない。いや正確に言えば動くことが出来ないのだ。確実に死ぬことが決まっているのに、そこに飛び込むことが出来る精神を有しているものなどそうはいない。


「仕方ないな……」


 シルヴィスはため息をつきながら一つの魔法陣を展開する。顕現した魔法陣はすぐにパリンという小さな音と共に砕け散った。


「何をした?」


 デミオルの怪訝な表情と問いかけにシルヴィスはニヤリと嗤うだけだった。


「な……」


 天使達の間に驚きが走る。


 軀達が散会し、天達達の包囲を始めたからだ。しかし、その表情は全員恐怖と困惑に満ちている。


「貴様……まさか」


 デミオルは信じられないという表情をシルヴィスに向けた。


「ああ、こいつらは俺が操作している」


 シルヴィスは事も無げに言い放った。


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