チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった
やとぎ
第01話 プロローグ①
ドォォォォン!!
ゴガァァッァァァ!!
高速で動く二つの影が,ぶつかる度に衝撃波が周囲を揺らした。
神がかった動体視力を持つ者ならば、この二つの影が男女である事を知り、驚愕したことだろう。
男の影は黒髪黒目の長身の男だ。年齢は十代後半と言ったところか。秀麗と呼ぶにふさわしい容姿であるが、口元に血がにじみつつも笑みが浮かんでいるのは彼が闘技者であることの証のようにも思える。
女の影は銀髪碧眼の少女だ。彼女の容姿は"美しい"意外に存在しないだろう。圧倒的な美の結晶を形容するとき、語彙力は貧弱になるというものであり仕方ないことだ。
少女の顔にも打たれた痕が見える。
状況から考えれば戦っている男によって打たれたのは間違いない。しかし、少女の顔は男同様に笑みを浮かべていた。
少女もまた男同様に闘技者であることの証拠だろう。
一瞬ごとにぶつかり合う事で生じる衝撃波が周囲を振るわせるような戦いの中で、なおそれを楽しむことの出来る精神を讃えるべきか、非難されるべきかは判断が分かれるが、両者の実力が飛び抜けていて、かつ拮抗していることは間違いない。
ドォォォン!!
何度目かの衝突を経て両者が互いに距離をとった。
「ここまで私とやれるなんて並の腕前じゃないですね。褒めてあげますよ」
「そりゃどーも」
「気のない返事ですね。せっかく私のような超絶美少女が褒めてるのですから真っ赤になるのが道理というものでしょう」
「お前に殴られた顔面は赤くなってるだろ」
「それはお互い様でしょう。私のような美少女の顔を躊躇なく殴れるなんて頭おかしいですよ」
「お前、自分のことを美少女って宣言できるって良い根性してるよな」
「事実を言ってるだけだから良い根性と褒めるべきではないのです。正直者だなと褒めるものなのですよ。エッヘン!!」
「お前、すごいな……嫌味がまったく通じない」
二人は先ほどまでとは異なり、言葉の応酬を交わしている。これは別に二人にしてみれば相手の出方を探るために行っているものだ。
「そうそう、せっかくですからあなたの名前を教えてもらっていいですか?」
「あん?」
少女の言葉に男は怪訝な表情を浮かべた。少女は
「あらら、そうですか。お恥ずかしいお名前なのですね。聞いて申し訳ありませんでした。あなたも大変ですね。センスのないお名前をいただいたばかりにさぞ、ご苦労をなさったのでしょう?」
「お前の思考回路はどうなってるんだ? 俺はただ今さら自己紹介を求めてきた事に面食らっただけだ」
「必死ですね。恥ずかしいお名前のあなた。大丈夫ですよ。私はあなたの名前が汚物を表すような汚れた名前であっても嘲笑ったりしませんよ」
「誰が汚物だ。アホ娘!! お前こそ人に名を名を尋ねるなら自分から名乗るべきと言う最低限のマナーくらい守ったらどうだ……あっ、そういうことか……すまん」
男の謝罪に今度は少女が怪訝な表情を浮かべた。そして心から同情するような表情を浮かべて口を開く。
「まさか何も考えてないようなお前にそんな悩みがあったなんてな」
「何を言ってるのです?」
「いや、いいんだ。俺の名前を恥ずかしいものと言ったのは自分が恥ずかしい名前だからか。本当に済まなかった。君の心の傷に塩を塗りたくってしまった」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「君の名前が恥ずかしいのは君のせいじゃない。そのコンプレックスをバネにして今よりも高みに登るんだ。大丈夫だ。君なら出来る」
「何を同情してるんですか!! 私の名前はヴェルティア=シアル=アインゼフです!!」
「なんだ。別に悪い名じゃないだろう。どうして隠そうとしたんだ?」
「隠そうとしてませんよ!!」
ヴェルティアと名乗った少女は怒り半分、呆れ半分の声で叫ぶ。
次の瞬間に男の足下から土で出来た竜の顎が現れると男にガブリと噛みついた。
「ちっ!!」
男の口から舌打ちが発せら、次の瞬間には土竜の顎は粉々に爆ぜた。
魔力を一瞬で圧縮し、それを土竜の顎の中で爆発させたのだ。
「でぇい!!」
「へ?」
ところが次の瞬間にヴェルティアが一瞬で間合いを詰め、拳が放たれているのが目に入った。
(まずい!!)
男は一瞬にも満たない時間で防御陣を形成する。
ガシャァァァァァァン!!
しかし、ヴェルティアの拳は、男の防御陣を紙のように打ち貫いた。
ゴゴォォォ!!
男はヴェルティアの拳を腕を交差して受け止めるが、こらえきれずに吹き飛ばされた。
(よし!! もらった!!)
ヴェルティアがニヤリと嗤う。男が態勢を持ち直すのに一秒もかからないだろう。だが、その一秒にも満たない時間であっても二人の実力からすれば致命的な時間だ。
ヴェルティアが男に向かって跳ぼうとした瞬間にヴェルティアの頭上に影が落ちる。
「へ?」
ヴェルティアの口から容姿に見合わぬ声が発せられるのと、頭上から屋敷ほどの大きさの巨石が落ちるのはほぼ同時だった。
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