さっき、幼馴染とキスをした

華川とうふ

幼馴染とのキス

 さっき、ミサト幼馴染とキスをした。


 ミサトは幼馴染で、子供の頃から仲が良かった。

 でも、どうしてこんなことになってしまったのかよく分からない。

 夢中でドキドキして、いつの間にか終わっていた。

 嬉しいけれど、恥ずかしくて。すぐ隣にいるミサトのことを前みたいにまっすぐみることができない。


「なんか飲む?」


 ミサトが聞く。やっぱり気が利いて優しい。

「良いお嫁さんになりますなあ」って本当はちゃかしたかったけど、声がでそうになかったのでなんとか頷く。

 キスのあとってこんなにドキドキする幸せがあるのか。


 しばらくして、ミサトはミネラルウォーターのボトルをもってきてくれた。どうやら、外の自販機にまでわざわざ買いにいってくれたらしい。

 ただの水でいいのに……ミサトは本当に優しい。でも、外は暗くなってきているから本当は行ってほしくなかった。


 ミサトが持ってきてくれるなら、別に水道水だってかまわない。

 そう思っていることを告げると、ミサトは「じゃあ、今度からはおいしいコーヒーでも淹れられるようになるね」なんて健気な返事をする。ほんと、ミサトは「いいお嫁さんになるね」ってからかいたくなる。


 ミネラルウォーターで喉を潤して、なんとか言ってみると、ミサトは顔を真っ赤にしてうつむいた。ミサトは肌が白いほうだから、頬が綺麗に桃色に染まっていて可愛かった。ミサトの頬を指先でつつきたくなった。きっと赤ちゃんみたいにぷにぷにして気持ちがいいだろう。


 ミサトとは家がお隣さん同士で、子供の頃から家族ぐるみのつきあいをしていた。兄妹とも姉弟ともとれる関係がずっと子供のときから続いてきた。

 そんな長いつきあいだから、当然、お互いの裸も見たことがあった。もちろん子供の頃の話だけれど。


 ちなみに子供のころからの知り合いだし、書くのが面倒くさいからミサトの名前はずっとカタカナで書いている。昨日もホームルームでミサトっていつもの勢いでカタカナで書いたら、先生から漢字で書くように注意された。どうせホームルームが終わったらすぐに黒板を消すのだから、チョークと黒板消しの節約のために、ミサトに限らず画数が多い感じは省略することを推奨したい。


 ミサトと同じ幼稚園に通い、小学校、中学校、そして高校まで同じ学校に通っている。「腐れ縁だね」ってミサトはこの話を人にするとき顔をくしゃくしゃにして笑うけれど、それは照れ隠しだってしっている。ミサトのことは何でもしっている……つもりだった。


 でも、いまミサトの顔をみることができないくらい気まずい。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 いや、後悔はしていない。

 リップクリーム買わなきゃなぁと、唇を触って考える。すこしだけ、腫れていた。


 きっかけは分かっている。喧嘩だ。

 バレンタインチョコを巡る喧嘩。


「どうして俺にはチョコをくれないんだよ」

「あんたの分は別っていってるでしょ」

「俺だって、手作りが食べたい」


 そんな些細な喧嘩。

 いつものちょっとした口げんかのつもりだった。

 ただのいつものじゃれあい。

 いつも通り、放課後のミサトの家、ミサトの部屋。


 だけれどなんだか今日はなんだか変だった。


 いつもはお互いに憎まれ口をきいたあと、一瞬だけ真っ白な空間ができる。

 間とでもいうのだろうか。

 これは小さい頃からあるのだけれど、時間がとまって、周りが真っ白になって、ミサトと自分だけがこの世界にいるような気分になる。

 音もミサトの心臓の鼓動や息づかいしか聞こえなくなる。


 そして、その一瞬が終わったあと、俺たちはお互いのぽかんとした顔がおかしくて笑い合う。

 割と子供のころからあった現象だ。


 だけれど、今日はそうならなかった。


 なぜか、ミサトはこちらを見つめて笑わない。

 ミサトがまっすぐとこちらをとらえる。

 ドキドキした。

 真っ黒な瞳は昔と変わらずに澄んでいて綺麗だった。


 そして、自分でもどうしてそんなことをしてしまったのか分からないけれど、ミサトの唇にキスをした。


「甘い」


 ミサトがいう。


「さっき、クラスの女子にもらったチョコ食べたから」


 そう返事をしたら、今度はミサトからキスをしてきた。

 ミサトのキスは想像していたものと違った。

 ミサトならすごく優しいキスをするだろうと思ってた。

 実際はちょっと乱暴というか、すごく下手。

 ただ、唇を合わせるだけ。


 大人のキスはまだむりそうだった。





 ミサトの家をでる。


 表札の前でちょっと気まずく、バイバイと手を振った。

 本当は、またキスしたかった。

 だけれど、流石に、そんな関係だと親にばれるのはまだ早いだろう。せめて、もう少ししてから。一緒にデートに行くようになってから。



 でも、ミサトを「好き」って気持が溢れて我慢できなくなって、こういった。


「私も、ミサト三鄕に早くなりたいな」


 すると、幼馴染の三鄕ミサトの学ランの襟から覗く白いうなじは真っ赤に染まっていた。


「でも、お前、郷の字画数が多いからいつも嫌って手抜きするじゃん」


 ってミサトは言い返してくる。


「練習するから大丈夫!」


 私がそういって、微笑むと三鄕は私をぎゅっと抱きしめた。

 早く私を三鄕お嫁さんにしてよね?

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さっき、幼馴染とキスをした 華川とうふ @hayakawa5

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