第6話 狐妖怪討伐譚 Ⅰ


「サクラっ、右からくるよ!!」


「はいよっ!!」



 時刻は16時34分。

 ダンジョンに入ってから一時間も経ってないくらいの時間。

 中ではモンスターの発生により、唐突な戦闘が開始された。

 出現したのはスケルトンナイト。

 人骨が人のように動き、軍靴に簡素な鎧を身に纏い、両手にはバックラー型の盾と片手用直剣を装備している。

 そのスケルトンで構成された騎士団の一個小隊だろうか、10体のスケルトンナイトが出現し、ミカヅキを前衛に、サクラが遊撃を行い、ラチカが後衛を行う陣形で、迫り来るスケルトンナイトを蹴散らしていた。



「【ソニックブロウ】ッ!」



 拳闘士の保有する攻撃型の特技。

 単発技ではあるものの、その発生速度が早いため、使い勝手のいい特技の一つである。

 それも、高レベルプレイヤーであるミカヅキの拳打は、急所に当たってしまえば低位のモンスターなんて一撃で粉砕するほどの力を有している。



「ふむ、やっぱり私が相手だと一瞬で砕けるなぁ、こいつら……サクラ、やっぱりあんたが前衛をやりなさいよ。

 あんたのための特訓なんだし……」


「いやちょっとっ、私の方も加勢して欲しいんだけどっ?!」



 慌てふためく声色で放つサクラの悲鳴。

 見てみると5体のスケルトンナイトに囲まれていた。

 本来ならばヘイト値が一番集まりやすい攻撃を繰り出すミカヅキに集まりそうなものなのだが、先程ミカヅキ自身が言ったように、レベル98のミカヅキの放つ拳打は低レベルゾーンの敵を一撃で粉砕してしまうため、いくら集まっても一撃で終わってしまうのだ。

 対してサクラはレベル58。

 ここにいるスケルトンナイトのレベルと比べると、サクラの方が高いが、ミカヅキのように一撃で粉砕までは難しい。

 だが……。



「はっ……! くらえっ!【レインストーム】ッ!」



 周囲をスケルトンナイトに囲まれ、一斉攻撃を受けようとした瞬間、サクラはその場で跳躍。

 その後、体制を入れ替えると銃口を真下に向け、その場で回転しながらの乱射攻撃。

 【レインストーム】は銃剣士が保有する回転しながらの空中射撃技で、範囲こそ狭いものの、その威力は高い。

 いくつもの弾丸がスケルトン達の骨格を撃ち抜き、その場でバラバラと崩れていく。



「ふぅ〜……あっぶなぁ〜」


「相変わらず派手よね、あんたの職業の特技って」


「まぁね〜♪ どう? カッコいいでしょ?」



 バッと咄嗟に構えを取るサクラ。

 左手の銃を前方に突き出し、右手に握る剣を自分の背中に隠すように構える。

 シンプルに……しかしながらその中にもセクシーさを持つ構えを取る。

 しかし、そんな隙だらけのサクラの背後から迫り来る影が……。



「っ! サクラッ、後ろ!」


「え……?」



 ミカヅキの声に反応して、咄嗟に後ろを振り向いたサクラ。

 そこには剣を振りかぶったスケルトンナイトの姿が見てとれた。

 すでに振りかぶった状態の剣……あとはそのまま振り下ろせば、サクラの脳天をかち割る事ができるだろう……。



「やばっ……!」



 咄嗟に身構えて防御しようとするサクラ。

 しかし次の瞬間、スケルトンナイトが奇怪な悲鳴をあげて、その場に倒れ伏せた。



「んっ……あ、あれ?」



 絶対に斬られたと思っていたサクラは、恐る恐る両目を開けて見る。

 すると横這いに倒れているスケルトンナイトの首元に、一本の矢が突き刺さっているのが見えた。



「っ……ラチカさん……?」


「全く、ダンジョン内で気を緩めない……! にしても、首元を狙っての狙撃か……見事な腕ね」



 周囲を見渡すミカヅキ。

 それに倣うようにサクラも周囲を見てみるが、そこにはもう一人の同伴者であるラチカの姿が見えない。



「あれ? ラチカさんどこに……?」


「ステルス状態になって、私たちを援護してくれてるのよ。

 さすがは【野伏】……こういう戦闘は、拳闘士にも銃剣士にもできないわね」



 周囲の音を感知しようと試みるが、この場には物音すらしない。

 しかし、狼牙族の特性を持つ特技である【ウルフズハイパーセンス】を使用し、なんとか居場所を見つけた。



「ほら、ラチカさんならあそこにいるわ」


「え? どこ?」


「ほら、あそこよ……あの壁面が少し出っ張ってる所の上……」


「うーん?」



 ミカヅキの指差す方をジーっと見つめているが、サクラにはラチカの姿形すら見分けられない。

 そのままずっと見つめていると、かすかに影が動いたような気がした。



「え? もしかして、あれ?」


「ええ、こっちに手を振ってくれてるわよ? 見えない?」


「うーん……かすかに動いてるのは分かるよ。でもそれだけだし、ラチカさんだって確信持てないよ……」


「なるほどね……まだレベル60以下だと、そこまでの判別はつかないか……」


「ってかよくわかったね?」


「あんたも狼牙族なんだから、嗅覚を使えば一発で居場所が分かるでしょ?」



 先程ミカヅキの使用した【ウルフズハイパーセンス】とは、狼牙族の見た目である狼の特性を持って備えられている特技である。

 優れた嗅覚を用いて、ダンジョン内や戦場にいる敵や味方の位置を把握する事が可能な特技。

 無論、ラチカの種族である猫人族にも、似たような特技がある。

 それが【キャッツハイパーセンス】。

 この場合だと、周囲にある危険や敵からの視線にいち早く反応し、察知できると言った能力になり、より【野伏】という職業に適したものと言える。

 ミカヅキとサクラが話しているのを見ながら、ラチカは二人に合流してきた。



「いやぁ〜、さすがはミカヅキさんですね!

 このレベルのモンスターだと、あっという間に粉砕ですか……!」


「あなたこそ……かなり高レベルなハイディングスキルをお持ちのようね」


「いやいや……これは職業柄、必須と言われているので、必死にレベル上げしただけなんですよ」


「それにしても全く気づかなかった〜……いつから隠れてたんですか?」


「サクラさんが、モンスターと会敵する少し前です♪」


「うへぇ〜、もう野伏っていうより忍者だよ、忍者……あっ、女の人ならくノ一か」


「まぁ、あながち間違いではないかな〜」



 冗談を交えながら、三人はそのままダンジョンの奥地へと進んでいく。

 山の中を掘ったような道が続くダンジョン。

 通路は狭くなったり、途端に広くなったりの不規則なものだが、時折大きく開けた場所もあったりとかなり人の手が入っているようにも見える。



「このダンジョンって、どういう風にできたんですかね?」


「どういう風にって?」


「あ、いや……ここが出来た経緯っていうかさ?」


「経緯って言われてもね……」



 ダンジョンが出来た経緯と言うのは、それがRPGというジャンルのゲームだから……としか言いようがないのだが、サクラの問いかけに苦心しているミカヅキを見兼ねて、ラチカがその問いに答える。



「ゲームの設定上だと、このダンジョンは大昔、狐尾族たちが身を守るために掘り起こしたって設定になってたかな?」


「身を守るため?」


「そう。狐尾族っていうのは、私たちが選んだ獣人族のアバターの中でもちょっと特殊でね……。

 狼牙族や猫人族に比べても、能力値はあまり高くなくて、さらには持っている特技もレベル次第で左右されてしまうようなものばっかりだから、種族としての順位は低い方なのね。

 だから、ゲーム上の設定では、かつては迫害を受けた種族って事になってるから、そのために作られたダンジョンなんじゃないかな?」


「え〜……なんかちょっとかわいそう」


「って言っても、あくまでフレーバーテキストだからね。

 一々そんな風に感傷に浸らなくてもいいんじゃない?」


「まぁ、そうだけどさ〜」



 フレーバーテキスト上の設定とはいえ、種族間で優劣をがあったり、迫害などという人権問題が出るのは少し悲しく思うサクラ。

 そんなサクラの頭を優しく撫でるミカヅキ。



「でも、狐尾族の特技は、中々癖のあるものが多かったような……?」


「へぇ〜……例えば?」


「相手の能力を模倣したり、幻を見せたり、確か奥の手で広範囲殲滅魔法があったような……」


「へぇ〜、じゃあ全然強いんじゃん」


「それがレベル次第で強かったり、弱かったりするのよ……まぁ、レベル60以上なら、そこそこ手強いプレイヤーが多いかな?

 まぁ、狐尾族を選んでるプレイヤーがそもそも少ないんだけどね……」


「確かに……狐尾族ってあんまり見ないかも……あっ、でも『花町』の区画には結構いたような……?」



 『花町』とは、カンナヅキの首都である【花都フシミ】の中にある歓楽街の通称である。

 歓楽街には、ギャンブルを生業にしている店や子供には見せられない大人なセクシャル系のお店もある。

 当然、ゲームとはいえR-18指定の区画に未成年が入るわけにいかないので、区画の入り口には専用のゲートを潜るしかない。

 ゲートを潜った際にプレイヤーが18歳未満の場合は、ゲートの警報が鳴り、中にいる警備係のNPC達がプレイヤーを取り締まる事になっている。



「サクラ……あんた未成年でしょ? なんで花町に行ってるのよ」


「っ〜〜!! 違うよっ?! 入ってないからっ!! この前、友達とログインした時に遠目から見てただけだからっ!!

 そしたら、中に狐尾族の女の人たちが結構いたのを見ただけなのっ!!」


「実際は?」


「本当っ!!」



 からかい口調のミカヅキに対して、他人から見ても分かるくらいに顔を真っ赤にして抗議するサクラ。

 本当に仲のいい姉妹である。



「花町に狐尾族が多いのは当たり前じゃない。

 あそこはNPCにも狐尾族が多いし、狐尾族の特性の一つに、相手を魅了してしまうチャーム系の物が含まれてるのよ……。

 えっと……まぁ、要するに相手を魅了してしまう幻術が使えるのよ。

 だから、プレイヤーもNPCも狐尾族……花町ではそれがスタンダードなの」


「ええ……迫害されてるのって、それが原因じゃないの?」


「それはあくまで設定の問題でしょ? 他のプレイヤーにどう思われるかはその人次第よ」



 実際、そう言った関係性を求めて狐尾族を選択するプレイヤー達もいる。

 が、それはそもそも選択した個人の自由であり、それによって受ける中傷的な視線や言葉も、ある程度は個人の責任でもある。

 しかし、花町に出入りする狐尾族のプレイヤーの中には、そんな事を一々気にかけてる人はあまりいないという者も多いと言う。



「はぁ〜……私は狼牙族を選んでてよかった〜。

 もし狐尾族を選んでたら、周りの人からそういう目で見られていたかもしれないわけだし〜」


「まぁね。狐尾族は見た目可愛いから、私も選択するときには迷ったけど、やっぱりバトルに必要なのは戦闘系のスキルだからね」


「そうですか? 私の知り合いには、狐尾族の人いますけど、結構強いですよ?」


「ほう〜? その人は何か大会でタイトルを取ってるんですか?」



 ラチカの話に興味を抱くミカヅキ。

 戦いに不向きな狐尾族の中にも、腕利きのプレイヤーがいるというのならば、一度手合わせしてみたいものだと感じているのだろう。



「あぁ、それならーーーーーっ、これは……?」


「どうかしま……んっ……?」


「ん? どうしたの、二人とも?」


「サクラ、止まって」


「え? なになに?」


「いいから」



 先に行こうとするサクラを静止するミカヅキ。

 そして同時にラチカは弓を構え、ミカヅキも拳を握る。

 そんな二人の様子に、何事か分からないサクラは二人の顔を見比べていた。



「……何者かの視線を感じますね…………」


「それは、モンスターではなく……?」


「はい……どちらかと言うとプレイヤーの物に近いと思います……」


「猫人族の危機察知能力でも完全には捉えきれないと言うことは……」


「相当高レベルのプレイヤーなのか……あるいはただの思い違いなのか……ですね」



 大人二人での会話だけが成立し、話に全く入れないサクラは、徐々に不安になってきた。



「ね、ねぇ……二人で何話してるの?」


「誰かに見られてるような気がしただけよ」


「え? 何それ、ストーカー?!」


「さぁね? でもまぁ、こんなダンジョンにいるんだから、誰かが遠目から覗いて見てるなんてのは普通にあり得る話だし」


「いやいや気持ち悪いじゃん! これが仮想世界であったとしても!

 覗きは犯罪だよっ、犯罪っ!」


「だから確証はないんだって。まぁ、私たちの勘違いかもしれないし……」



 ここにいる三人の女性プレイヤーにとって、覗きやストーカーと言った存在は恐怖の対象だろう。

 この中ではサクラが一番歳下になるため、その恐怖心はミカヅキやラチカよりも大きいのだろう。



「ううっ……! なんか、背筋が寒くなってきた……!」


「そうね……早い所ここを抜けて、ダンジョン攻略しますか……」


「そうしよう! 早くこんな陰気臭い場所から出よう!」



 無駄に恐怖心を煽られたサクラを両サイドから寄り添う形で共に進んでいくミカヅキとラチカ。

 先ほどまでの元気は何処へやら……今ではプルプルと震えるチワワのようにも見えなくもない。

 可愛い物好きのラチカはそんなサクラを見ながらニコニコと眺めながら、ミカヅキはそっと頭を撫でてやった。

 



ーーーーーーーーーーーー




 その後、三人は順調にダンジョンを攻略していった。

 途中、スケルトンナイト以外にもゴーストタイプのモンスターも出てきて、出現するたびにサクラが悲鳴をあげながら銃を乱射したりと、なにかとはちゃめちゃな攻略だったが、それでも終盤に差し掛かり、三人は最後のボス部屋の前まで到達した。




「はぁ……はぁ……も、もう無理ぃ……!」


「ふふふっ、サクラさんもよく頑張りましたね。次で最後ですから……」


「これはゲームなんだから、そんなにビクビクしなくてもいいじゃない」


「無理ぃっ……! リアルすぎて無理ぃ……!」



 まぁ確かに、仮想世界であるが故にモンスターやフィールドにいる動物達のデザインも自由に描けるし、その再現度も技術的にかなり高い部類に入る。

 それ故に、見た目の出来がよりリアルな物になっているのは否めない。



「さ、さっさと終わらせよう……! ここにいるボスモンスターを倒したら、終わりなんだよね?!」


「そう。ここのモンスターは『妖怪狐』だったわよね?」


「はい。そこそこの難易度ですけど、私たちのレベルなら、大丈夫でしょう。

 一応回復アイテムなんかも、多めに持ってきてるんで……」


「助かります。それじゃあ、準備はいい? サクラ」


「うん、いつでもオッケーっ!」



 【アラシヤマ】のダンジョンは狐尾族が作ったとされるダンジョン。

 その設定から、呪術と呼ばれる類の魔法を使うモンスターがいたり、その呪術によって生み出されたアンデット系モンスターであるスケルトンや霊体系のモンスターが出てくる。

 そして、そのダンジョンの最たる主……今三人の目の前にある扉の奥にあるモンスターこそ、このダンジョンのボス。

 かつて迫害を受けていた多くの狐尾族の怨念が集積し、実体化したバケ狐の怨霊。

 名を【白狐の怨霊】『ハクゾウズ』と言ったはずだ……。

 既に攻略されている事もあり、攻略情報や戦闘パターンなどの情報をあるため、より一層攻略しやすくなっているはずだ。



「ここのボス戦で注意する事ってある?」


「体力ゲージは全部で三本あって、最初のうちは呪術を用いた遠距離魔法で攻撃してくるから、それを交わしながら接近して、直接攻撃をしていけば、ダメージは取れるよ。

 まぁ、本当なら魔法職の人を呼んで、魔法耐性のバフをかけてもらうのがいいけど、今回はいないから、ポーションと結晶アイテムで補うわ。

 体力を削っていって、二本目になったら、自分の配下である『呪霊狐』を複数呼び出して来るから、それらを排除しながら本体にダメージを通して行くしかないわね……」


「サクラさんの職業クラス……【銃剣士】の特技なら、取り巻きの呪霊狐の掃討に向いていると思います。

 このパーティーでは、ミカヅキさんが一番の火力を持っていますから、ミカヅキを主力に引き続きサクラさんが遊撃、私が後衛からの援護という形になりますね」



 ミカヅキとラチカの情報を聞きながら、サクラも戦闘スタイルを確認していく。

 とにかく、序盤は回避優先……そして隙を見てミカヅキの援護をしていく。

 ゲージが二本目になったら、取り巻きとして現れる呪霊狐の相手を引き受け、ミカヅキをフリーにさせる。

 


「最後はどうするの?」


「ゲージが最後の一本になったら、それまでの戦い方を変えて来るの。

 最終的には倒れた呪霊狐たちを取り込んで、最終形態になって、そこからは総力戦。

 超強力な遠距離魔法も撃ってくるし、近づいたら近づいたで爪による近接攻撃を仕掛けてくるから、どうにかしてそれを突破して、攻撃をぶち込むしかないね」


「ぶち込むって……。そこに近づくまでに相当な神経使いそうなんだけど……」



 自身の職業クラスが前衛の脳筋バカな職であるが故の戦闘スタイルなのかと思ったが、今回ばかりはその脳筋バカの火力頼みのスタイルで押し倒さなけれざならない。



「さ、準備ができたなら行くわよ……!」


「回復アイテムと対魔法用結晶アイテムも、数は充分……!」


「さてさて、記念すべき獣っ娘三人組パーティーの冒険最終幕、勝利で終わらせましょーう!!」


「おーーっ!!」


「お、おーーっ!」



 ラチカの掛け声にサクラはノリノリで反応して、右手を頭上に掲げて対応し、ミカヅキもミカヅキで照れながらも、右手を少しだけ掲げた。

 前衛で二人を引っ張る役目を担うミカヅキが、ボス部屋の門を力強く開ける。

 扉は年季が入っているのか、動くたびにギギギッという音が鳴り、空が洞窟内に反響する。

 扉は少し開けると、そのまま自動で全開まで開いていった。

 中にある部屋は天井が見えないくらいに高く、感覚的には東京ドームの中に入った様な感覚だろうか。

 足音さえも反響して木霊する。

 部屋に入って2メートルくらい進んだ瞬間、突然辺りが明るくなった。

 三人は咄嗟に身構えて、その場で戦闘体勢に入る。

 よく見ると、壁際には焚き火用の台が複数設置されており、そこには青い炎が灯されていた。

 そう、一人でに勝手に燃え始めたのだ。



「さぁ、ボスのお出ましよ……!」


「っ……!!」


「いやぁ〜、これは写真映えしそうな状況ですね〜!」



 室内にある焚き火台が全て灯され、奥の間に鎮座する物体を映し出す。

 見た目は巨大な白狐。

 しかし、その体表面には呪いの刻印が刻まれており、白い毛皮に赤い焼き後のような模様を刻んでいる。

 瞳は充血したように真っ赤かで、中心にある黒目は濁りきった色をしている。

 まるで、全ての感情が複雑に絡み合い、混沌としているような……そんな出立ちだった。

 しかしそんな様相に反して、頭上から被っている白いベールは絹糸のように柔らかく靡いて、キラキラと光っている……まるで、結婚式で新婦が纏っているような美しいベールだ。

 そんな相反する姿を持ったボスモンスター……その名は『ハクゾウズ』。

 このダンジョンを作ったとされているかつての狐尾族たちの怨念が生み出した怪物…… 【白狐の怨霊】の登場だ。

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真剣勝負はVRの中で 剣舞士 @hiro9429

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