真剣勝負はVRの中で
剣舞士
第1話 プロローグ
2020年代。
世界ではVR技術の存在が芽生え出した。
VR……Virtual Realityの略。
日本語で訳せば『仮想現実』……と言われている代物。
その技術は当初、ゲームやエンタメの分野で普及していったが、今では多くの分野で活用されている技術となった。
医療・教育・訓練・ビジネス……世界中の多くの人々にその技術は使われ、今や日々の暮らしの中になくてはならない存在として息づいている。
そして、2035年。
世にVR技術が出始めてから、およそ15年の月日が経った……。
「さぁぁ! 始まりましたぁ〜盛り上がってまいりましたぁ〜!!
“史上最強”の称号を求めて、数多くのプレイヤー達が一同に会するビックイベントッ!!
《神将襲名御前死合》……通称『神前死合』っ!
その決勝戦ッ!!!
まずは赤コーナーからぁ〜〜、その拳はどこまで届くっ?! その拳はどこまで壊すっ?!
クールビューティーなバーサーカーっ!!
ミィ〜カァ〜ズゥ〜キィ〜!!!!!」
熱狂を呼ぶマイクパフォーマンス。
ある会場に集まった幾百万人にも及ぶ人々の歓声が場内に響き渡り、会場を揺さぶる。
場所は闘技場。
古代ローマの時代に実際に建設された闘技場【コロッセウム】に似せた建物。
円筒型のすり鉢状の巨大構造物の中央部に、一人の女性が歩み出てきた。
その見た目は凛々しく、その人物を見たものは男女関係なく声援を送る。
艶やかな白銀の髪は緩く縦ロールにまとめあり、それと共に纏う白を基調に薄紫のグラデーションが入った色合いチャイナドレス。
ドレスのスリットから覗くのは漆黒のタイツに身を包んだ美しく長い美脚。
凛々しく清楚でありながら、その立ち姿には艶やかさを感じる出立ち。
観客席の女性たちからはため息が漏れ、男性たちからはさらなる熱狂が伝わる。
その観衆たちの視線の先にいる人物には、普通の人間ではあり得ないものが付いている。
それは、犬のような耳に犬のような尻尾……《狼牙族》という種族。
どちらも髪色と同じで白いものであった。
「続いて青コーナーァ〜〜! 俺はこいつで伝説を作るッ!
身の丈より大きなその大剣はぁ〜、あらゆる物をバッサ、バッサと斬り伏せるぅッ!!
俺に斬れねぇ物なんてありやしねぇーーッ!!!
ジャイアントキリングッ!!!!
ザァ〜ン〜ザァ〜スッ!!!!」
対して、その女性と相対するように反対側から現れたのは、屈強な肉体を持つ小柄な人物。
御伽噺やファンタジー関連のゲームには欠かせない存在……ドワーフというやつだ。
身長は相対する女性に比べると、だいたい半分くらいの大きさだろうか……しかし、その手に持っている得物は、自分の身長の倍はあるのではないかと思うほどの大剣。
鋒から鍔の長さ……刃渡りでも1メートル超。
さらに持ち手である柄も長い……これは、大型の武器を振り回すのに、取り回しをよくするためのものだろう。
それらを踏まえて見てみると、得物は長さはゆうに2メートル超え。
当然、そんな重量武器を使っていれば、その重さに耐えかねて持ち上げることすらできないはずなのだが、何と言ってもその男性はドワーフ。
小柄な体でありながら、その屈強な肉体は、重量をものともせずにその巨大な得物を持ち上げる。
男性が得物の大剣を振り上げると、場内からどよめきが起こる。
その迫力満点の動きに、観客のボルテージも更に上がっていく。
「さぁっ! 今大会注目のカード! 以前より『神将』の座に最も近いと噂されていた両者がっ、この最高に盛り上がる舞台でいよいよ大激突ッ!!!
【クールビューティーバーサーカー】の異名を持つ新星『ミカヅキ』と【ジャイアントキリング】と呼ばれる歴戦の猛者『ザンザス』ッ!!!
今、どちらが最強なのかっ?! その明暗を分ける戦いが始まろうとしているッ!!!」
「やれやれ……そうやって煽り立てんでもよいだろうに……」
「仕方ないでしょう。ここはこういう派手なのが大好きな人たちの集まりなんですし……。
それに、あなた自身も思いの外楽しんでいるのでは?」
「ハッハッハッ!! いやはや、そう言われては返す言葉もないわい」
豪快に笑うドワーフの《ザンザス》。
それを見て、不敵な笑みを浮かべる狼牙族の《ミカヅキ》。
「のう、ミカヅキ」
「なんでしょうか? ザンザス」
「この勝負、一つ賭けをせんか?」
「賭け?」
「おおよ。ワシらの勝負、白熱するのは言うまでもないが、それに対する対価が《神将》の称号だけではなぁ……。
これでは、やる気も起きんであろう?」
「……つまり、追加で報酬が欲しい……と?」
「まぁ、そういう事だ」
そう言って、ザンザスは持っていた大剣の鋒を真っ直ぐミカヅキに向けた。
その刀身が払われるたびに周りの空気が鼓動し、刀身の真下にある地面から土煙が舞う。
その威容を遺憾なく見せた後、ザンザスはミカヅキに言い放った。
「ワシが勝ったら、お前を我がギルド【豊穣の防人】に迎え入れたい!」
「っ……」
ザンザスの提案に、会場の一部が異様な盛り上がりを見せる。
その騒いでいる会場の一角に目を向けると、ザンザスの胸甲冑に刻まれた『槌と杯』のエンブレムと同じ模様の旗を振り、その存在感を露わにしている者たちがいた。
そう、ザンザスがギルドマスターを務めている【豊穣の防人】というギルドのメンバーたちだ。
「はぁー……ザンザス、まだ諦めていなかったのか?
私は自由に戦い、自由に生きていきたいから、特定のギルドには入らず、時折パーティを組むだけにしているんだ。
何度も断ったはずだが?」
「あぁ、そうだな。しかし、ワシもそれを了承した覚えはないぞ?」
「……はぁ、全くドワーフは」
「おいおい、ドワーフは関係ないじゃろ」
「あなたみたいな傲慢という欲が人の形をした様な人間は、性格的にドワーフという種族を選びがちだからな……。
そしてこれ見よがしに自分の得物を大きく見せて、自分が一番だと言い張らないと気が済まない。
今まで会ってきたドワーフのプレイヤー達も似たようなものだったぞ?」
「そんなの偏見じゃろっ?! ワシはそんな傲慢でもないわい!
それを言うなら狼牙族だって自由気まま過ぎじゃろ!
いかに単独行動が多く、それに優れているスキルが多いからと言って、ネームドモンスターを単騎で狩ろうとするか? 普通……」
「それは私の事を言っているのか?」
「お前以外におらんじゃろうっ!」
突如として始まる子供の様なケンカ。
これもこの世界ではよく見る光景の一つだ。
「まぁ、いい。これもお前を倒せば全て済む話じゃ……覚悟せいやっ!!」
「その言葉、そっくりそのまま返す」
ドワーフのザンザスが大剣を大きく振り回して構える。
身の丈以上に大きい武器をなんの違和感もなく振り回して、正眼の構えをとっているのだ。
その光景に、客席のボルテージは再向上していき、ゴングが鳴るのを今か今かと待ち構えている。
そして、対するミカヅキも、自身のコマンドを操作して、両腕に自分の得物を顕現させる。
青いポリゴン粒子が光ったと思った瞬間に、ミカヅチの両手には、黒鉄の籠手と具足が装備されていた。
「ほう……! それが例のネームド狩りで得た撃破報酬の……」
「あぁ、閃光鎧装【ベルセルク】。中々に良い武具でしょう?
《闘拳士》である私にはピッタリな武器だ」
「ふんっ……ならばその武具、ワシの大剣でぶっ潰してやるわいっ!!」
「上等……っ!!」
ニヤリと笑う両者。
ザンザスも自身のコマンドを開いて操作し、小さな体に鎧を纏った。
闘牛を彷彿とさせる立派な角を拵えた漆黒の鎧兜に、胸、肩、腕、腰、脚にも同じ漆黒の色をした専用の鎧を纏っている。
『さぁさぁ、両者の準備は整ったぁ〜っ!!
《神将襲名御前死合》ッ、開始だぁぁぁぁーーーー!!!!』
試合の実況を担当する女性キャラクターの高らかな宣言により、ゴングの音が闘技場に轟いた。
これより始まる一戦は、この世界……《ブレイブソウル・オンライン》において、最強の称号を獲得するための一戦。
サービス開始からおよそ5年弱……未だに3人しか到達していないこの領域にたった今、新たに2人の猛者が挑戦しようとしているのだ。
《ブレイブソウル・オンライン》
VRMMOというジャンルのオンラインゲームがサービス開始になった当初より稼働し続けている本作。
その内容は、どこにでもある冒険要素満載のファンタジーMMORPG。
未知のダンジョンを踏破し、その奥にあるボスモンスターを討伐し、隠された金銀財宝をその手に掴む。
今までにも多く存在したオンラインゲームとなんら変わりはない。
しかし、一つだけ違う点があるとすれば……ここは……この世界は、現実では叶わない人々の欲求を叶える事を前提にしているという事。
人々の叶わない欲求……それは、『闘争』である。
人の歴史は戦いの歴史……と言われるように、これまでの歴史上に置いても、戦いというものは人にとって切っても切れない物だった……。
しかし、時代は進み、文明が発達し続けている現代において、闘争そのものが禁忌となり、個人、団体……国同士での諍いなど、早々行われるものではない。
世界は平和という安寧の時代になり、人々が命を落とす事を良しとしない世界になった。
故にこの仮想世界では、それらを廃し、人間の持つ闘争本能を全開にさせるべく作られたバトルエンターテインメントとなった。
それがこのゲーム《ブレイブソウル・オンライン》である。
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