勇者の師匠はチート美女エルフ~ただし中身は男です~

だっしー

勇者との出会い

プロローグ

 目が覚めたら知らない天井と知らない美女の顔が視界に飛び込んできた。

 輝いているように錯覚するほど綺麗な金髪に宝石みたいな綺麗な緑色の瞳。なるほど、明らかに日本人ではないな。目鼻立ちもクッキリしてるし。世界的に有名なロシア人のモデルがこんな感じだった。

 こんな綺麗な人にこんな至近距離で微笑まれたら一目惚れまったなしですね!


 というか、これってどういう状況なの?

 別に嫌なわけではない。ずっと見てても飽きない程の美女だし、体の感触から察するに、俺は今この人に抱っこされてるわけで…抱っこ?

 なんで俺はこの人に抱かれてるんだ?意味がわからない。興奮より困惑の方が大きくなってきたぞ。


 混乱してる俺に追い打ちをかけるように、視界にはもう1人の人物が入ってくる。残念ながら今度は男だった。しかもメチャクチャ美形。ちくしょう。

 というか、いきなり目の前で俺を抱いてる女の人とキスし始めたんだが?どういうプレイなの?俺に見られてると興奮するとかそういう癖?こんなの見せつけられるなんて、20年以上生きてきた中で1、2を争う程の屈辱なんだが?


 俺は手を伸ばした。目の前の行為を止めさせようと。そして、気が付いた。


 あれ、なんか俺の手ちっちゃくない?

 あと、目の前の人たち、なんか耳長くない?


 普通に怖くなってきた。









「あ、起きたわ」


 胸に抱いた可愛い私の赤ちゃんが目を覚ました。

 名前はアイリス。瞳の色は私そっくりのエメラルド色で、目の形は夫に似てアーモンド型。そして、特有の尖った耳を持っている。髪はきっと金色だろう。


「本当かい?どれどれ」


 夫が覗き込むようにしてアイリスの顔を見た。


「瞳の色は君と同じだね。とても綺麗だ」

「形はアナタにそっくりよ」

「ああ。僕たちの特徴をしっかり受け継いで生まれてきてくれたな」


 夫は私に顔を向け、よく頑張った、とキスをしてくれた。母になって初めてのキスだったけど、幸せな気持ちになるのは変わらない。


 2度目のキスの直前、アイリスが突然泣き出してしまった。


「あら、アイリスが泣き始めちゃった」

「はは。では父親の初仕事でもしようかな」


 夫はそう言ってアイリスを抱き上げ、子守唄を歌いながらあやそうとする。エルフの国で昔から歌われている子守唄だ。森の神がいつまでも見守っているから安心して眠りなさい、という内容で、私も小さい頃に歌ってもらったことを覚えている。

 しかし、アイリスは泣き止まない。


「…なかなか上手くいかないものだね」

「当たり前よ。アイリスはまだ生まれたばかりなんだから」


 今度は私がやってみよう。

 そう思ってアイリスに手を伸ばした時、異変が起こった。窓も扉も閉まっている部屋の中で風が吹いたのだ。それもかなり強い風だ。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 ベッドのシーツは飛ばされ壁にぶつかった。天井にかけてあるランプは壊れそうな勢いで揺れた。アイリスの為に用意してあったぬいぐるみやおもちゃが暴れているように散乱した。

 夫は必死にアイリスを抱き締めている。絶対に離さない、と。私も夫に抱きつくようにしてアイリスを守る。


 部屋の中の嵐は10秒ほどで収まった。


「アイリス…!」


 冷静になった私たちは、間に抱いているアイリスを見た。


「…寝てる。怪我もなさそうだ」

「よかった…」

「しかし、今の風はなんだったんだ?」

「…もしかして、アイリスが…」

「…まさか」


 私たちは顔を見合わせた。

 生まれたばかりのアイリスが無意識に魔法を使った?

 信じられないが、それ以外、思い当たるものが私たちにはなかった。

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