闇の童話世界─ダークメルヒェンストーリー─

うさぎのしっぽ

はじまり

 あるところに、薄暗く古びた屋敷がありました。庭の草はボーボーで、外壁はところどころ剥がれ落ち、窓ガラスは割れて、人が住んでいるとは思えません。しかしそこには確かに、人の形をしたなにかが住んでおりました。本当に人かどうかはわかりませんが……。


 おや? そこで聞いてるのは誰だい? ああ、そう警戒しなさんな。わたしゃこの屋敷の持ち主だよ。そうさ。『呪いの館』なんて呼ばれるこの屋敷にも、きちんと持ち主がいて、こうして暮らしてる。なにごとも自分で見ずに噂で判断するのは愚か者のすることさね。

 それで? おまえさんはこんなところでなにをしてるんだい? 村の調査……ああ、国の役人かい。ご苦労なことだね。ここが空き家なのか調べに来たってことか。ご覧の通り、空き家じゃないよ。暇を持て余した老婆が一人、孤独に死を待ってるだけさ。さっき読んでいたものかい? おまえさんにゃ関係ないだろう。ヘタに首を突っ込んでごらん。首だけどこかへ迷子になるよ。

 さあ、用は済んだろう。早くお帰り。ここは日の入りが早いからね。さっさとしないと、あっという間に闇に飲み込まれちまうよ。このあたりの闇は少し変わっているからね。ひとたび飲まれちまったら、生きて帰れるかわからんよ。大げさだって思うのかい? 信じないのは勝手だがね、若いの。年寄りの妄言もたまには耳を貸した方が賢明だよ。


 ほぅら、闇が迫ってきた。おまえさん、闇に気に入られたようだね。呪いだって? バカを言うんじゃないよ。わたしゃちゃんと警告したろう。せいぜいに魅入られないよう、自分をしっかり持っていくんだね。

 そうそう。もしなにかあった時のために、ひとつまじないの言葉を教えてやろう──おや、間に合わんかったようだ。

 さあ、今度はどのくらいもつかね。当分の間、楽しめそうじゃないか。

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