ポケットの中の福音

Phantom Cat

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 部下の書いたコードのレビューを終えた私は、そのブランチを master にマージする。


 しかし実際のところ、システムエンジニア(SE)である私自身がコードを書く機会は、ほとんど無いに等しい。SEの仕事は、顧客の要望を明らかにする要件定義やシステムの機能を決めるインターフェースやデータベースの設計、システムのテストと言ったところであり、中身のプログラムをコーディングするのはプログラマーなのだ。いや、最近はもう、コーディングの必要もほとんど無いと言っていい。様々な機能のパッケージを目的に合わせて組み合わせるだけで、そこそこのシステムが構築出来てしまう。


 だけど、昔ながらの中小企業のような現場では、未だに FORTRAN や COBOL で書かれたプログラムが現役で動いている。それらのメンテナンスもうちの会社の重要な仕事なのだが、今時の若いプログラマーたちには、そんな言語のソースを読む機会も書く機会もない。そうなると、やはりそれらの言語で育った私の出番だ。


 自分が考えたロジックの通りに自分の書いたプログラムが動作すると、それだけでとても嬉しい。もちろん思い通りにプログラムが動かないこともある。そんな時はどこに問題バグがあるのかを探し出さなければならない。それはパズルのように知的な作業だし、それが解決出来たときの達成感もまた、プログラミングの大きな魅力の一つだと思う。それに目覚めたのは高校に入ってすぐの頃だが、私はもうそんな昔のことはすっかり忘れたつもりだった。


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 ある休日のことだった。


 自宅の自分の部屋を整理していて、ふと、古ぼけたダンボール箱が目に付いた。


 はて、何が入っていたんだっけ?


 思い出せない、ってことは、相当古いものだ。とりあえず開けてみる。


 ……。


 そこには、高校時代に使っていた教科書や文房具が収められていた。


 そして……


 こんなところにあったのか……


 それは、今のスマホと同じくらいの大きさのコンピュータ。ただし、クロック周波数は576KHz、メモリは4KBで、どちらもスマホとは比較にならないほど貧弱だ。ソフトもROMでプログラム言語BASICが搭載されてるだけで、自分でプログラムしないと何もできない。だが、間違いなくそれこそが、かつての私をプログラミングの世界にいざなった水先案内人だった。


 SHARP PC-1251。


 ポケット・コンピュータ。通称「ポケコン」。


 それを手にした私の意識は、そのまま高校時代へとタイムスリップする。


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