第9話 学校祭にて④
「ねえねえ、君達かわいいねぇ!」
「それに男1人と女の子3人だとバランス悪くないか?」
「そうそう。その点、俺達なら3人いる事だし、丁度いいだろ?」
と、チャラくて若干悪そうな3人が目の前に現れ、翼と圭と小鳥遊さんに絡んできた。
彼女達3人は、彼らを一瞬嫌そうに見た後に口を開く。
「すみませんが、丁重にお断りします」
「・・・私も無理です」
「ノーサンキューです!」
例の如く壁を作り営業モードに入った翼が、作り笑いを浮かべた上に敬語で断りを入れる。
それに続いて、圭と小鳥遊さんも断った。
「えー?なんでだよ!そんなオタクみたいな奴といるよりずっといいじゃん!」
「そうだな。そんなパッとしない男と一緒にいたって、つまらないだろう?」
「そうそう、俺達ならそいつより楽しませてやるって」
彼らが彼女達を誘うだけでなく、俺までディスってきた。
俺は何を言われても大して気にしないのだが、彼らの言葉を聞いた彼女達の顔からは完全に笑みが消え、目には侮蔑の色を浮かべていた。
(あ、これはまずいんじゃ・・・)
と俺は思った。
「・・・ちょっと、言うに事欠いて、
「
「こいつらには、きつ~いお仕置きが必要みたいね」
翼と圭と小鳥遊さんは、彼らに聞こえるか聞こえないかの声でありながらも、力強い声でボソッと呟いたのを俺は聞いた。
「ちょ、ちょっと、3人共!俺は何とも思ってないから、気にしないで行こう!?」
俺は彼らと彼女達との間に割って入り、彼女達に向かって身振り手振りを加えながらそう言った。
その彼らに背を向けた俺の肩には手が置かれ、若干馬鹿にするような感じで今度は俺に話しかけてくる。
「おいおい、彼氏~!そりゃあないんじゃない?」
「お前一人だと手に余るだろうから、俺達が代わりに遊んでやるって言ってるんだ」
「彼女達だって、俺達と遊ぶ方が楽しいに決まっているしな」
そう言いながら、俺を押しのけて彼女達の前に進み出ようとした。
のだが・・・
俺は彼らの内の一人の腕を掴み、それを阻止する。
自分達の都合のいい様に一方的に話すこいつらが、素直に人の言う事を聞くわけがない。
だったら、意を決して自分が身体を張って止めるしかないと考えていた。
「おい!離せよ!」
腕を掴まれた男は、俺を睨みながら腕を振りほどこうとする。
が、俺は掴んだ手を離さない。
「悪いけど、俺には彼女達を守る義務があるんでね。あんたらを彼女達に近づけるわけにはいかないんですよ」
俺がそう言うと、不良達よりも翼と圭と小鳥遊さんの方が何か反応が大きかったようだが、彼女達に気を取られている場合ではない。
俺は過去に似たような状況があり、その時の苦い思い出がフラッシュバックして一瞬躊躇したのだが、すぐにそれを頭から振り払い、男の腕を掴んだ手に少しだけ力を込める。
すると掴まれている男が、痛そうに顔を歪め何とか手を振りほどこうとする。
「ぐっ、何をする!離せ!」
「あんた達がこのまま去ってくれるのであれば、すぐにでも手を離しますよ」
俺はそう言いながら、この後の展開を予想しながら掴む手に力を込めていく。
「うあっ、い、いてぇ!離せって言ってんだろ!」
「てめえ!こっちが大人しくしてりゃあ、調子に乗りやがって!」
腕を掴まれている男は、痛がりながらも凄んでいる。
そして、仲間の男も俺に荒い口調で俺に詰め寄ってくる。
俺らの周りにいる人達は、その様子を遠巻きにヒソヒソと話しながら傍観するだけであった。
「てめえ、マジでいい加減にしやがれ!」
詰め寄ってきた男が俺の胸倉を掴むが、俺はもう1人の掴んだ手は離さない。
逆に胸倉を掴んできた男の手も、もう片方の手で掴み握りしめる。
「ぐぁっ!離せこの野郎!」
胸倉を掴んできた男も、腕を握られた痛みで顔をしかめながらも、いきり立ってくる。
だが、この程度で俺は手を離す事はしない。
はっきり言って、この程度の相手ならいくら凄まれようと怖くはないし、振りほどかれるほど握力は弱くない。
なぜなら、俺にとって親父以上に怖い存在などありえない上に、その親父に色んな部分で鍛えてもらっているため、何もしていない奴と比べれば力があると自負しているからだ。
まあ、別に親父がそっち系の人間だとかそういうわけではないのだが、その辺りの話は機会があった時にしよう。
・・・っと、今はそれよりも目の前の男達の対処だ。
そもそも目の前の男たちは、不良と言うよりもどちらかというとチャラ男である。
だったら、なおさら見掛け倒しの可能性の方が高い。
そんな事を考えながら手に力を入れていると、胸倉を掴んできた男が握られた腕の痛さに耐え切れなかったようだ。
「いてえ!てめえ、ふざけんな!!」
そう言いながら、俺に握られていない方の手で俺の頬を思いっきり殴ってきた。
それは、俺の予想通りの展開だった。
殴られた俺の顔が横に振られる。
その反動で、眼鏡が飛んで行ってしまった。
それを見た翼と圭、小鳥遊さん、そして周りで見ていた連中が息を呑む。
しかし俺は全く意に介さず、腕を握った手を離すことはない。
相手に先に殴らせたのも、この後に俺が起こす行動の大義名分を手に入れるためだ。
俺を殴った男がさらに殴ろうとしてきたため、俺は殴りかかってくる男の腕を掴んだまま、もう1人を掴んでいた手を離し、その男の鳩尾に一撃入れる。
すると、その男は身体をくの字に折れ曲げ、その一発でダウンする。
俺がその男の腕を離すと腹を押さえて蹲り、向かってくる様子は見られない。
やはり思っていた通り、大してケンカ慣れはしていないらしい。
「この野郎!やりやがったな!」
俺が殴る為に手を離した方の男が、それを見て俺に殴りかかってきた。
俺はそのパンチを躱しながら反転し、その男の腕を掴み勢いを利用して一本背負いをする。
するとその男はなすがまま、俺の体を支点に一回転して受身も取らずに廊下に叩きつけられる。
腰を強打した男は「ぐはっ」と息を漏らし、痛みにより立ち上がる事が出来ずにいた。
「はあ、なんでこんな事になったんだか・・・なあ、ところであんたはどうするんだ?かかってこないのか?」
俺は愚痴をこぼしながらも、立ちすくんでいたもう一人の男に声をかけた。
「あ、い、いや・・・」
その男は歯切れ悪く、言葉を出せずにいる。
「ふぅ・・・だったら、そこで蹲っているのと転がっている2人を連れて、さっさと立ち去ってくれません?」
彼女達に手を出そうとしたことに腹は立っていたが、これ以上やると過剰な暴力になってしまうため、気持ちを落ち着かせようと一度大きく深呼吸してから、その男へと丁寧にお願いした。
「あ、ああ、わ、わかった・・・」
俺の言う事に対して素直に頷いた男は蹲っている男を何とか立たせ、転がっている男を起き上がらせると肩を貸しながら急ぎ早にこの場を去って行った。
(はあ・・・またやっちまったな・・・)
俺は男達の去っていく姿を見ながら、そう思っていた。
これで、俺は中学時代の二の舞になるだろう・・・
いや、学校の連中からどう思われようと構わないが・・・
それよりも、翼と圭と小鳥遊さん・・・
これで彼女達も俺の元から去っていくだろうな・・・
そんな重い気持ちを抱えたまま、彼女達へと顔を向ける。
すると思っていた通り、驚いた表情のまま固まってしまっていた。
俺はやっぱりなと思いながら乾いた笑いを浮かべ、彼女達を残してこの場を去ろうとした。
すると、今度は思っていたのとは違う展開に驚かされる事になる。
「ちょ、ちょっと!
「えっ!?」
俺が立ち去ろうとする間際に、翼が我に返って興奮しすぎというくらい興奮して俺に詰め寄ってきた。
俺は驚きに困惑するしかなかった。
「
「はっ!?」
翼に続いて圭までもが、俺に詰め寄ってくる。
そして、私の
「いやぁ、
「えっ?はっ?」
小鳥遊さんまでも、なんだか満足げな表情を浮かべて近寄って来たのである。
全く意味がわからない。
現に、周りで見ていた学校の連中は引いた顔をしている。
それに中学の頃なんて・・・
そんな事を考えて呆けている俺に、翼と圭は俺の手を取り嬉しそう・楽しそうにピョンピョンと飛び跳ねている。
更に・・・
「いやぁ、本当にかっこよかったよ!特に・・・『俺には彼女達・・・いや彼女を守る義務があるんでね!キリッ!』なんて、やばすぎよ!どこまでお姉さんをキュンキュンさせるつもり!?」
グハッ!
確かに言った!言ってしまったよ!!
やべぇ!はずい!!
つーか、頼むから翼さん・・・
俺の真似を誇張して、低い声でキリッとした顔で再現するのやめて!!
しかも、よく聞いたらセリフ変えてるし!!
「『俺の彼女には手だしさせねえ!キリッ!』とか言われるなんて・・・私、
ちょっ!!
俺そんな事、一言も言ってないんですけど!?
圭まで、似てもいない俺の真似しながら捏造するのやめて!!
「『もう俺には小鳥遊さんしか見えねえ!キリッ!』だなんて!もう、ホントに
貴方が何言ってんの!?
小鳥遊さんは、もうシチュエーションすら変わってんじゃん!!
てか何で皆、似てない俺の真似すんだよ!!
しかも俺が絶対にしていないキリッとした顔をしてさ!!
未だにトリップし続ける3人によって、俺は黒歴史を刻んでしまった事を理解し身悶える・・・
あまりの恥ずかしさに両手で顔を隠して悶える俺に、翼が真顔で見つめてくる。
「まあそんな事よりも・・・殴られた場所、大丈夫?よく見せて?」
翼はそう言いながら、顔を覆っている俺の手をどかして、俺の頬を撫でながら顔を近づけてくる。
「いや、ちょっ!ち、近い近い!!大丈夫だから!」
翼があまりに顔を近寄せてくるものだから、恥ずかしくなって顔をそむけると・・・
「でも顔、赤くなってるよぉ?傷は舐めた方が早く治るんだよ?」
と、今度は圭が俺の顔を撫でながら妙な事を言って、舌をチョロっと出しながら顔を近づけてくる。
「い、いや、ちょっと圭!何言ってんの!?やめて!本当に舐めようとしないで!!」
そう言って俺は圭からも顔をそむける。
そして顔をそむけた先には・・・
「はい
眼鏡を拾ってくれた小鳥遊さんが、俺に眼鏡をかけてくれる。
しかも、やはり顔が近い・・・
「め、眼鏡を拾ってくれた事はありがとうございます!でも、なんでそんなに顔を近づけるんですか!?」
何で3人共、俺に顔を近づけるんだよ!
しかも周りに人がいるってのに!
そう思った俺は、彼女達から一歩引いた。
そんな俺を見る3人は、心配しつつも楽しそうにしていた。
はあ・・・
彼女達には振り回されっぱなしだな・・・
とは思いつつも、中学の時や周りで見ていた学校の連中とは違い、いつもと変わらない3人のおかげで俺の心は救われたように感じていた。
やはり俺には、学校よりも“花鳥風月”が好きで大切な場所なのだと、再認識したのであった。
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