こがれ

やり残してきたことがたくさんある気がして

今日も眠れない


まだ鮮明なアパートの三階

西側の角部屋

今頃はカエルが鳴いて

早植えの稲たちが雨風に踊り出すころだ


あるいは大事なものをたくさん置いてきてしまった気がして

図書館五階の人文科学コーナーか

足繁く通ったスーパーのサッカー台か

カラオケ店の机の下か


もしくは引っ越しのついでに捨ててしまったような気がして

資源ごみ回収ボックスに放った中世日本文学のプリント資料とか

業者に引き渡した解体式のベッドやこたつ布団とか

最後に乗った高速バスの休憩時間にSAのごみ箱に捨てたレシートとか


またあそこに帰らねばという帰巣本能

大学横の小道をとぼとぼと歩く背中を想像する

想像して震える

寂しくてうれしい

悲しくて幸せ

散逸した寂寞が渦巻いて

ああ

けれどそこに不安はない

リュックを背負い、荷物を片手に歩く彼を追いかけ

その手を取って僕は逃げる。

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