薄雲

慣れない革靴に辟易して

ため息もほどほどに顔を上げれば

青空に伸びる半透明の雲が

いつか制服を汚したチョークの粉みたいだ

そんな風に歩いてみても

長い時間をかけて

部屋の隅に追いやった過去は

そう簡単に戻ってきてはくれない

もったいないことをしたものだと

また軽く後悔する

もう少し頑張っていれば

もう少し前を向けていれば

薄情な台詞が脳裏に浮かぶ

今の僕の傲慢だ

白を切って忘れたふりで

そのうち本当に忘れてしまった

そんな人間が何を言うか

「もう少し」なんて言われる謂れはない

そうして僕は在りし日の僕を擁護する

僕は誰のつもりなんだろう

断絶した過去は戻らない

あの日の僕とは無縁の僕

あいつはどこに行ってしまったのだろう

白々しく、そんな風に思案する

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る