序章 灯る夜
「わぁ……」
はじめて歩く夜は、きらきらと
満月の下、街には数えきれないほどの
いつもは暗く静まりかえっている通りは、まるで昼間かと
圧巻は、見上げるほどの高さに
その
老いも若きも通りをそぞろ歩き、灯籠を
年に一度の夜行の解禁日だ。
ここ
以降、出歩くことは禁止され、破れば『
だが、年に三日間だけ出歩くことが許される夜がある。
それが上元節、すなわち今日から三日間なのだ。
この日ばかりは門を警備する兵の任が解かれ、人々は灯籠で飾られた夜へとこぞって
なにはともあれ、成陽の住人たちは年に一度の
白蓮はそんな人波にまぎれ、はじめて見る景色に心を
両親は夜の
ならば自分も好きにしてなにが悪い。
白蓮は両親が
さすがに、
というわけで、街の人々が男女の別なく着る、小口の
こうして準備
「大体、十五にもなって子どもだからって留守番させられる意味がわからないんだけど」
世間では
とはいえ、年ごろだからこそ、身分にかかわらず危ないのは言うまでもない。
深窓の
また、書物を、人の口を
白蓮ははじめて見る
暗がりを
「待ってよ、兄さん!」
横を子どもたちが
かわいいなぁ、と
自分にも兄がいるが、あんな風に手をひかれたことなど一度もない。そもそも
妹も、いるにはいるが……。
「──きゃぁっ」
その時、
一人の少女が二人組の男たちにからまれているのが見える。連れもいないのか、
周囲へ助けを求めるように顔をあげた少女に、白蓮は大きく目を見開いた。
「! あの子…っ」
あんなところでなにを、と考えるより先に
「すみません、とおしてください!」
被っていた紗を
見物人たちの中にも
白蓮は少女の腕を掴む男の死角から近づくと、バッと手にしていた紗を男たちへ
「ぅおっ」
「なんだ、こりゃ!」
男の手が少女から
「走って!」
「あ……」
少女は
その顔に、白蓮はことの
少女の手をひいて走りながら
──この子、わたしのあとをついてきたんだ…っ
自分を見て
大方、抜けだすところを
──そんな
灯籠の光を受けて
そんな異国の風情の、まだ幼さを宿した愛らしい少女が、いかにも着古した服でうろうろしていたら、自分とは違う意味で悪漢たちの目をひく。
「──あの、お姉さまっ」
箱入りとは逆の方向性で、世間知らずすぎるのだ、この
なにか言いたげな妹に、口を開く
「待て、このやろう!」「
これだけ走っただけでもう息があがっている。おまけにこの
それでも、どこかに警備の
「キャッ」
悲鳴が聞こえ、がくんっ、と
たたらを踏んでなんとか持ちこたえながら振り返ると、地面に
「!
「ハッ、ようやく
手間かけさせやがって、と
「よくも手間かけさせてくれたなぁ」
掴んだ腕をひき、
その表情を見て、かっと頭に血がのぼった。
「その子を、放しなさい!」
気づけば、妹の腕を掴む男へと
思いもよらぬ白蓮からの
逃げるのはもう無理だと、白蓮は妹と男の間に身体を割りこませた。背中に木蘭をかばい、男たちへ
「てめぇ、さっきといい邪魔ばっかりしやがって!」
「ガキが、なめた
再び横やりをいれられた男たちがいきりたつ。獲物に手をだされてよほど頭に血がのぼっているのだろう、紗をとった白蓮の顔を見ても目の色のひとつも変わらない。
「とっととそこを
「! おねっ──」
代わりに、大きく腕を振りかぶる。
あがりかけた悲鳴めいた
そのまま
ザッ、と空気の動く気配がする──が、いっこうになにも起こらない。
「……?」
一体どうなったのかと、そろりと目を開けて背後をうかがう。と──
「──まったく、騒がしい夜だ」
「え?」
首を
よく見ると、影だと思ったそれは男性らしき後ろ姿だった。逆光に
手をあげた男の姿が見えないことから、どうやらこの人が助けに割ってはいってくれたらしいと気づく。
「
だが、助かったことにほっとするよりも、白蓮は
「このまま
「! あんた、軍の…っ」
その言葉に男たちは目の前の人影が何者なのか気づいたらしい。
「おい、待てよ!」
人影に腕を掴まれていたらしい片割れは、
「……」
そんな男たちを無言で
強い『眼』だ。
静かでいて油断なく、まるで野に生きる
「
と、背後からかかった声に、彼がひとつ
白蓮もまたはっと
──いけない、ぼーっとしてる場合じゃなかった。
おそらく彼の部下だろう兵たちがくる前に、この場を立ち去らなくては。あれこれ
「──いくわよ」
白蓮は
「お助けいただき、ありがとうございました」
顔を
「あっ、」
ひっぱられるままよろけるように足を動かした木蘭が、人影に気づいたように足を止める。それを無視して歩を進めれば、
「あのっ、ありがとうございました!」
首を捻ってうしろへむかって礼を投げる姿が、視界の
足早に
「──ハクロウ殿下」
部下が追いついたのか、ちょうどこちらに背をむけた後ろ姿に、さきほど聞こえた名を刻みこむように
そうして、すぐさま視線をはずした白蓮は、
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