ドケチ自衛官カップル駐屯地を満喫します

防人2曹

第1話 夜勤下番

「上番中異常なし、下番します」

「了解、上番します」


 いつもの隊の朝礼風景である。

 

「鳴無三曹」


 各項目の引継ぎ事項を上番陸曹に伝達中、鳴無三曹こと鳴無啓太おとなしけいたを第304基地通信中隊電話隊隊長の武田和夫たけだかずお三等陸尉が呼んだ。

 呼ばれた啓太は、引継ぎを中断し武田の前に出頭した。

 

「はい、隊長」

「あの、な……今日もあれか?――」


 という武田の言葉に、事務所内の隊員と技官さんが一斉に啓太と武田へと視線を集める。

 

 数秒、シ~ンとする事務所内。

 と、そこに外部からの着信を示すベルが鳴った。

 

「はい、陸上自衛隊福岡駐屯地です――」


 ここ電話隊で技官を務めるまだうら若い宮原理恵子はいつもの電話交換を行うが、視線は啓太と武田に行ったままであった。

 

「隊長、とは?」

「いや、まあ……なんだ……たまには外でせんのか?」


 あっけらかんとしている啓太に武田の方が言葉に詰まってしまう。

 

「あの……その……な――」


 武田がしどろもどろになっていると、電話交換を終えた理恵子が武田に向かって握りこぶしを作って「ガンバレ」の意思を送る。

 

「まあ、いつも中だけというよりも、外もいいもんだぞ?」

「隊長、その言い方はかなりエ○いっすよ」


 という武田の言葉に食いついたのは啓太ではなく、自他ともに認める風○マニアな安川隆太やすかわりゅうた陸士長だった。その隆太の返しに事務所内が笑いに変わる。

 

「安川、お前はちょっと自重せんといかんぞ」

「いや隊長、こいつこれでも自重してるんですよ。以前は毎月行ってたんですから」


 と隆太の方にてを回すのは、隆太の同期である林田一馬はやしだかずま陸士長である。

 

「ちょっとまて、朝っぱらからお前ら濃いぞ」


 と苦笑しながら隆太と一馬の頭をはたく工藤啓介くどうけいすけ二等陸曹。

 まあ、いつもながらの電話隊の朝の光景でもある――。

 

 

 

 朝礼も終わり、電話交換要員のみ残して通信局舎に移った面々。

 啓太、隆太、啓太の班で紅一点の松永明美まつながあけみ陸士長は、夜勤を終えて帰宅準備をしている。

 

「明美ちゃん、今日どうすんの?」

「安川士長には関係ないでしょ?」

「きっつー!もっと優しくしてよー」

「これでもしてますよ?」


 隆太のねちっこい会話を一刀両断する明美のコミュ力は隊の婦人自衛官が皆「さすがだ」と舌を巻くほどだったりもする。まあ誰にしても最後は隆太の独り相撲で会話が終わってしまうのだが、そのひとり相撲にすら持って行かせない明美のコミュ力を皆一様に買っていた。

 

「ところで、鳴無三曹――」


 引継ぎ文書に記入をしている啓太に声をかけた明美は、啓太の隣の席に座った。

 

「ん?どしたの、松永士長?」

「隊長も言ってましたけど、たまには下川三曹を外に連れ出してあげてください」

「外かー……業務隊とうちじゃ非番があんまり重ならんからねえ」

「それはわかりますけど、夕方から外に食事に連れて行くとでもいいんじゃないかと思うんですよ。ココ私のおすすめなので、お二人でどうぞ」


 と、明美は財布から一枚の半額チケットを取り出して啓太の前に置いた。

 明美が啓太に差し出した半額チケットは、天神駅構内にある女性に人気のレストランで、「街歩こう」な雑誌のおすすめデートスポットにも取り上げられたほどにムードもよいところだった。

 

「まあ無理強いはしませんけど、下川三曹、最近普段着しか着ていないから。じゃあお先に下番します」

「ん、お疲れ様ー」


 明美が下番報告をして局舎玄関に向かうと、「明美ちゃん待ってよー」と下番報告もなしに明美を追う隆太。

 そんな隆太を、隆太と同期の一馬は「変わないっすね、隆太」と苦笑いしながら二人を見送った。

 

「じゃ、俺も下番しますね」


 と、帳簿記入を終えた啓太が明美が差し出してきた半額チケットを財布にしまうと、下番報告をして営内に戻った。

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