ひとりの、ひとりのための

部屋にはひとり


壊れたゼンマイ仕掛けの人形がひとり


口をぱくぱく

ぱくぱくと動かしながら

一心不乱に伝えたげ

木目調のシールが捲れ

鉄の板が覗いている

眠たげな瞳

半開きの口は動きを止めた


わたしはひとり

人形は呟く


普通でありなさい


玉虫色(だったであろう)の帽子の羽


あなたこそ

ちっとも普通じゃないじゃない


わたしは穿つ


相変わらず口は半開きのまま

人形は日本語を解さない

わたしの微笑みに

口角を上げることすらもできないし

調子がいい日はゼンマイを回し

覚えたての言葉を繰り返す


普通

普通

普通

普通


意味など知らない

知らないからなお愉快で

日本語の摩耗


潤いを忘れたその皮膚は剥がれていくばかり

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