31
もう一度視界が歪むと、そこはどこにでもいるような幸せそうな二人が抱き合っていた。
片方はメアリーとわかるが、もう一人は分からない。
だが、とても顔の作りがいい。
『メアリー…僕は、君と一緒になりたい…!』
『私もよ…マイケル!』
二人の声が聞こえる。これは再現をしていると言う事だろうか?
「え、母さん。あの人は?」
ローズの声色がとても揺らいでいるのが見なくてもわかる。
まぁ、うん。そうだろうな。
「私の唯一の想い人、そしてあなたのお父さんよ。」
「え」
あ、ローズがフリーズした。壊れて…はまだ無いけど顔が面白いようになっている。
「話を続けるとね、私達は禁断の関係だったのよ。片や魔術師という異端。片や王室の一人だったのよ。」
「お、オウシツ…?」
「…マジ?」
「マジよ。オオマジよ。」
あ、ついに壊れた。ローズの修理をするために肩を揺さぶる。
「おーい。大丈夫か?」
「…」
「続けてもいいかしら?」
「…頼んだ。」
あんたの娘の頭ショートしてますけど。
仮にもあんたの娘じゃねぇの?
「彼は、私の研究に賛同してくれた数少ない賛同者だったのよ。そして愛する人だった。だけど、その関係性にはとても大きな壁があった。」
「私は、私たちはその壁を崩す事を、乗り越える事が出来なかった。」
「そして、妊婦だった時に襲われて死んでしまった時、この世界に来たのよ。」
「何か、質問はあるかしら?」
するとローズの肩が震えながら声を荒げた。
「ど、どうしてそんな大事な事言ってくれなかったんだ…。なんでなんだ?」
まるで暗闇の中、ランプを落としたような少女に見えた。
悲劇を求めている訳でも、喜劇を求めている訳でもない。
真実を求めている目がそこにはあった。
ローズは考えた事があった。
なぜ、自分にはお父さんがいないんだろって。
自分の周りの友達はお父さんがいた。
もちろん居ない友達もいた。
だから、いつか話される日を待っていた。
本当は自分から聞きたかった。
だけど、この宿での生活を満足をしている自分がいたし、何より、そんなかけがえの無い物を自分の手で壊したくないと思っていた。
これは
本当は自分の口から聞かないといけない事なのに。
この男が来てしまったせいで何かが変わってしまったんだと思う。
だけど、ここにいる男に恨みを持つのは間違っていると思っている。
そして、こいつに俺が開けなかった扉を開く手伝いをしてもらった事に感謝をしている事も、間違っていると思う。
「…お前、名前は?」
「え?」
男が予想していなかったように顔を向ける。
寝ている時もそうだが、こいつはどこか抜けているように見えた。
「無常、無常仮寝だ。」
「そうか、今から言う独り言は無視しろ。」
「…ありがとう…そしてぶっ飛べ!」
俺は、血が出る程に握り締め、歓喜の顔で無常の顔面をぶん殴った。
「ぐおおおおおおおお!?」
良い音がしたと思う。
今はこれで良いと、そう俺は思った。
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