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それは、突然だった。

異世界メシを堪能し、体を拭いてから寝ようと思っていたところだった。

配信画面に突如として現れたそれはあらゆる者に衝撃を与えた。


『転移者が半分に減ったため、ルールの一部を開示します。


7つ目

転移者を殺した場合、そのモノは地球と行き来出来る権利を与えるものとする。

8つ目

転移者は自分が殺した転移者の数だけ、自分と同様の転移者を増やせるものとする。

9つ目

今閲覧することができません

..

.


                                   』


「…やっば、これ。」

一気に状況が変わった。もう帰れないと思っていたのに。

(いや、状況は悪くなった。今まで帰れないと思ってたのに帰れる選択肢が増えた。つまり帰りたい人達にとってしないと言う選択肢はないに等しい…。

それにこの8つ目のルール。地球の人間からしたら垂涎物だ!)


例えば、先ほどのスライム。


爆破、新物質、新エネルギー。

それだけでも新技術となり、さまざまな恩恵がある事だろう。


つまり、一種の未開拓の鉱脈に等しいのだ。


魔法やスキルだってそうだ。


あれの存在だけで恐らく世界の軍事力、パワーバランスが崩壊するに違いない。

人が多い=国の強さになるかもしれない。


もちろん、イリン草やポーション、回復魔法など人類にあまり負の面を見せない物もある…いや、医者が廃業するのも時間の問題だ。


異世界とは、新天地とはまさにマルコ・ポーロの東方見聞録に載っている『莫大な金を産出し、宮殿や民家は黄金でできているなど、財宝に溢れている』の文献そのものだと言えるだろう。


____________________

報告です!ゼリウスに国際指名手配犯のメディセンが近づいています!即刻移動してください!

あ、これ国連のガチのやつじゃん

メディセン?

なんかカルト宗教組織の教祖でテロ活動とかいっぱいしてるって

まじの奴やん

え、てことはこいつ誰か転移者殺したらこっち来るってこと?

そういや無常ってあの殺人鬼殺してたけどカウントされてんのか?

____________________


…ここに来ようとしているやつから逃げるために地球に帰るのはアリかもしれない。

幸い、向こうはまだ転移者を殺していないようだ。


そんな事を考えていたからかもしれない。

彼女の存在に気が付かなかったのだから。


「おっと〜?これはこれでいい展開になって来たのかもしれないって感じ?」


聞こえてきた方向から反対方向にすぐさま移動する。顔は見ていないが一瞬で確信がついた。


「夜這いですか?そういえば食事の時の伝言ありがとうございました。」

「キチンとお礼を言える人は好ましく思えるけど…残念だけどその程度で体を抱かせるつもりはないんだけど?」


(誰だ?転移者か?いや、転移者だったら視聴者が反応しているはずだ…。それじゃあ彼女は一体…)


頭を休ませるな。

五感で捉えろ。

そもそも彼女はなんで知っていた?

このお店を見た時、なぜ違和感があった?

彼女からは薔薇の匂いがする。

黒いベンチ。

赤い看板。

白い柵。

緑の芝生の庭。

庭に置かれた黄色の木のバケツ。

白い建物に巻き付くつる植物グリーンカーテン

ソースはオレンジ色だった。

僕のことを知っているように緑のスープの説明をローズに頼んだ。



…薔薇の香り?


「なぁ、一つだけ聞いてもいいか?」

「なんでしょうか?」


仮に違ったっていい。

それが間違っているというのも情報なのだから。


「この世界に、香水は存在していたのか?」

彼女の目が、大きく開かれる。


「…なぜそう思ったのか聞いても?」

「冒険者ギルドに入った時も、錬金術師のギルドに入った時も、ある程度人からする嫌な匂いや薬品の匂いがしていたんだ。だというのにここは一切しない。

普通人が住んで行ったら多少は臭ってくるはずなのに全くしなかった。綺麗好きかもしれないと思ってたけど人の匂いまではそう簡単には消せれない。ましてやこういう人が長期滞在するところとなれば尚更だ。」


それに、と彼は続けた。


「ここの庭には、薔薇がない。」

元の世界でもそうだったが香水はお金がかかる。

手作りであろうとあのとても良い薔薇の香りを出すのには手間暇がかかっていると考えるのが自然だった。


それを告げると彼女の口元は右上がりになっていた。

「…No.とても残念なことにこの世界には香水はなかった…。まぁ、バビロニアの代わりをする国や都市がいつか出来るのも必定でしょうが、残念なことに今まではできていなかった。」


彼女は、語る。


「我が名はメアリー・ハイド。女性の人生を輝かしくするために薔薇十字ローゼンクロイツに入った魔術師なり。」


彼女は、


「話しませんか?それが我々、バビロニアからの文明を濃く受け継ぐ人々のとれる最大の選択肢だと思っています。」
















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