第116話

そうか。



赤旗は暴走族なんかじゃなかったんだったな。



側近ではなく、恋人か。



「昔、俺も新さんに憧れてました」



そう言って、カナタは軽く頬を赤らめた。



恋愛感情として好きだったってことか。



「俺たちは、あなた方のような人を信じてついて行きました。その結果、この悪名を着せられ、やってもいない罪を着せられ警察に逮捕された仲間もいます」



新という男が、ゆっくりとそう言った。


優しい口調だが、怒りで目に力がこもっている。



「恋愛の自由を主張する俺たちは、みんな心に傷を持っていて、少なからず弱い部分もあった。



やつらはそこに付け込んできたんだ。『お前らの気持ちを大勢の人につたえてやる。



これからは恋愛が自由にできる世界だ』そう言って」



「その、『やつら』っていうのは、一体誰なんだ?」




「……冬流組の人間です。



小さな組織ですが、拳銃や日本刀などを所有しているため、俺たちは逆らうこともできません。



カナタのように立ち向かうことは、本当に命がけなんです」



そう言って、新はカナタを見た。



やっぱり、組の人間か。



でも、冬流組なんて聞いたことがない。



ある程度大きな組の情報は得ているから、本当に小さな組なんだろう。



「俺が、その冬流組をぶっ潰す」



そう言うと、新はポカンとして目をしばたたかせた。



「今、なんて……?」



「俺が、冬流組をぶっ潰すって言ったんだ」



もう1度そういうと、新と夏夢は目を見かわせ、そして「「ははっ」」と乾いた笑い声をあげた。



「そんなの、無理に決まっている」



「どうしてだ?」



「俺が今説明したでしょう? 武器を持っているって。拳銃ですよ?」



「だから、なんだ?」



拳銃を持っていたら無理のか?



強いのは持っている本人じゃなく、銃の方だ。



なら、それを奪う事ができれば勝てる可能性はある。



「おいおい、お前病み上がりなんだぞ?」



力耶が呆れたようにそう言ってくる。



「もう傷はふさがってる。大したことはない」



そう言うと、新が「その傷っていうのは、カナタに刺された傷ですか?」と、聞いてきた。



「あ? あぁ」



「それなら、大丈夫ですよ。カナタは、医者の息子で急所を心得ているんです。



だから、あなたを刺した時にはわざと急所を外しているハズですから、傷がふさがったのなら、もう心配ないでしょう」



「本当か!?」



俺は驚いてカナタを見る。



カナタは少し気恥ずかしそうにうつむいていた。

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