第102話

「ここが社長室です」



案内はここまで。



慣れない場所で緊張している俺とは裏腹に、力耶は慣れた様子でそのドアをノックした。



「はい」



部屋の奥から低い男の声が返ってくる。



「松原の息子の力耶です」



「あぁ、力弥君か。空いているよ」



「失礼します」



そう言うと、力耶はドアを開いた。



部屋の壁は全面ガラス張りで明るく、そして絶景だった。



「そちらは?」



「友達の浜中大志です」



「はじめまして。浜中です」



広い部屋の中央に置かれている大きな大理石のテーブル。



その向こうで、ここの社長である顎鬚の生えた男が微笑んだ。



思っていたよりも馴染みやすい雰囲気だ。



「どうぞ、座って」



そう言われ、俺たちは黒い革のコの字形になったソファに腰を下ろした。



ソファの真ん中にも、大理石のテーブルが置かれている。



社長が、俺たちの向かい側に座る。



すると、隣の部屋から秘書らしきスーツ姿の女性がコーヒーを入れて持ってきてくれた。



いい香りが鼻をくすぐる。



「話は、だいたいは聞いているよ」



そのコーヒーを1口飲み、社長が言った。



俺は背筋を伸ばし、赤旗の情報をできるだけ丁寧に伝えた。



社長は時折顎鬚をさすりながら、真剣に俺の話を聞いてくれた。



そして話終えた頃、



「それは、警察が動くべきことじゃないのかな?」



と、聞いてきた。



「警察は、何かが起きてから動きます。でも、俺たちは何かが起こる前にできる限りの事をしたいんです」



誰かが傷ついてからでは遅いんだ。



これ以上、なにも起こさせてはいけない。



警察が動けないなら、俺たちが動くしかない。



「ふむ……」



社長はそう呟き、ソファに体を預けた。



ギシッと革のキシム音がする。



ダメか……?



そう思った時「いいだろう。協力しよう」と、言ってくれたのだ。



俺は一瞬キョトンとし、それから「本当ですか!?」と、声をあげた。



「あぁ。用は、市民へ向けて詐欺や薬物の注意を促せばいいんだろう? それなら、ローカルニュースに組み込めるだろう」



「あ、ありがとうございます!!」



俺はテーブルに頭がつくくらいに、深くお辞儀をしたのだった。


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