第82話

~大志side~


強と力耶から、千沙たちを安全な場所へ移動したと聞いて、俺はホッと胸をなで下ろした。



俺が刺されたあの日以来、千沙には会っていない。



1度も見舞いに来てくれない千沙に不満を抱いたときもあった。



でも、きっと力耶たちに止められているから来られないのろうと、後になって悟った。



確かに、今は俺に近づかない方が懸命だと思う。



体がこの状態じゃ、何かあっても助けに入ってやることもできないしな。



「もう随分よくなってるんだけどなぁ……」



俺はそう呟き、退院をジリジリと待っていた。



一刻も早く退院して、チームに戻りたい。



赤旗から守らなきゃいけないものが、俺には沢山あるんだ。



窓の外が夕日がオレンジ色に染まり始めたころ、病室のドアがノックされた。



「どうぞ」



俺は視線をドアの方へ向けて、そう言った。



すると……。



恐る恐るという感じでドアを開けて入ってきた人物に、俺は目を丸くした。



「カナタ……!?」



まだ傷痕の残っているカナタが、うつむき加減に病室へと入ってくる。



俺の背中に刺し傷を負わせた、当の本人が。



驚いてカナタを見ていると、カナタは突然病室の床に膝をつき、土下座してきたのだ。



「浜中さん……ご、ごめんなさい!!」



床に額をベッタリとつけて、小刻みに震えるカナタ。



俺は、カナタの服の襟から除いた青あざに気がついた。



こんな痣……ライブハウスで助けた時にはなかったぞ……?



「おいカナタ。頭を上げろ」



「で、でも……」



「いいから。ほら、立て」



俺はベッドから手を伸ばし、カナタの肩をポンッと叩いた。



カナタは涙をこぼしながら立ちあがる。



俺に、何と言って謝罪しようか言葉を選んでいる様子だった。



でも、俺にとってそんなことはどうでもよかった。



謝罪よりも、確認したい事がある。



「カナタ、服を脱げ」



「え……?」



俺の言葉に、カナタは戸惑ったように視線を泳がせた。



「いいから、早く」



「や、でも、俺……」



モタモタしているカナタのTシャツを、俺は強引にまくりあげた。



やっぱり……。



カナタの体の見えない場所には無数の傷跡と青あざができていた。



つい数日前にできたような傷も、見て取れる。



「お前、千沙を誘拐したのは赤旗に拷問を受けたからじゃないのか?」



そう尋ねると、カナタは観念したように無言のまま頷いた。



「なんでそれをもっと早く言わねぇんだよ!」



俺はそう怒鳴り、カナタの頭を強めに叩く。



カナタは裏切ってなんかいなかった。



俺たちに赤旗の情報を流しているとバレて、拷問され、挙句千沙の誘拐に加担させられてしまっただけなんだ。



「お、俺……。助けてくれた浜中さんを、刺しちまって……」



カナタはそう言うと、また小刻みに震え始めた。



きっと、自分を責めているのだろう。



涙と鼻水でグズグズになった顔は、それでも男らしいと、俺は思った。



「事情がわかった。俺はお前を責めたりしねぇよ」



今度は、グリグリとカナタの頭をなでる。

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