第45話
~千沙side~
アツシが教室でこっそりつぶやいた通り、あたしの風邪は5日たっても治らなかった。
「明日、集会なのになぁ……」
放課後の教室、自分の机に座ったまま胸に手を当てて、ため息を吐き出す。
いまだに、大志を見るとドキドキするし、大志の声をきくと顔が熱くほてってくる。
「ま、集会までには治らないだろうね」
恋羽が、帰る準備をしてあたしの机の前まで来て、そう言った。
「やっぱり、アツシから薬をもらっておけばよかった」
「風邪じゃないから無駄よ。無駄」
「風邪じゃないなら、一体なによ?」
あたしは、かばんを持って立ちあがりながらそう言った。
しかし恋羽は何も返事をせずに、肩をすくめてみせた。
この前から、アツシと恋羽はあたしを見てクスクス笑う時がある。
あたしがどうして笑っているか聞いても、2人ともその理由を教えてはくれないのだ。
「恋羽、あたしに何か隠し事をしているの?」
教室を出ながらそう聞くと、恋羽は驚いたようにあたしを見つめた。
「隠し事……まぁ、そう言えばそうなるのかな? でも、これは千沙が自分で気がつかなきゃいけない事だと思う。
だから、あたしの口から、隠し事を伝えることはできないよ?」
「あたしが、自分で気づかないといけない隠し事……?」
その難問に、あたしは思わずうめき声を上げる。
帰る途中の生徒たちが、何事かとこちらに視線を向けた。
「ま、千沙だっていつか気がつくわよ」
「今、気づきたいのに」
「焦りは禁物! 気がついたときが、一番いいタイミングなんだから」
そう言って、恋羽は今度はウインクをしてみせた。
なんだかよくわからないけれど、あたしはまだ【気がつくタイミング】じゃぁ、ないらしい。
結局、モヤモヤした気持ちのまま、帰ることになったのだった。
☆☆☆
そして、集会当日。
今日はライブ会場が使われないから、昼間みんなで集まるのだと大志は言っていた。
明るい時間からあれだけの人数が会場へ集まって大丈夫なのだろうかと、少しだけ心配になったけれど、そこはライブ会場を経営している力耶の父親が多めにみてくれたらしい。
「よしっと……変じゃないよね?」
ジーパンにTシャツ姿になって、鏡の前に立ってみる。
髪は1つにまとめただけで、すごく地味な格好だ。
もう少しオシャレしようかなと思ったけれど、今回は大志のバイクに乗せてもらって移動するから、動きやすい格好のほうがよかった。
「別に、デートに行くわけでもないし、これでいっか」
自分でそうつぶやいた次の瞬間、ボッと顔が一気に熱くなった。
あ、あたし、今なんて言った!?
デートって……言っちゃったよね!?
「やだ、もう……」
思わず口走ってしまった言葉に、あたしは1人赤くなってその場にしゃがみ込む。
大志とデートだなんて、ありえない!
幼馴染で、ずっと一緒にいるけれど、大志にときめいた事なんて、1度もないんだから!!
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